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魔獣に殺されそうに1 よぉし、鉄格子を上げろっ



 まず最初に明らかにせねばならないのは、既に日本は異世界からの侵攻に屈し、占領されているということだ。

 

 だからこそ、使い捨ての惨めな扱いを受ける俺達が、ドーム球場などに集められているわけだ。

 こんな場所でなにをするのか?


 奴らの下劣な言い分によると、「異能力であるギフトは、まれに死の恐怖に晒された時に、発現することがある」ということらしい。

 だからといって、占領した国の人間をドーム球場に集めて魔獣共に襲わせるなんて、まともな人間の考えることじゃないだろうに。


 俺は顔をしかめて周囲を見渡す。


 今日で五日目、そして五回目の「選別テスト」だが、俺はまだ生き残ってる。

 しかし、最初は二百名もいた犠牲者の日本人は、既に四十人にまで減っている。俺達を監視する帝国の兵士達は周囲で魔導銃を構えつつ、のんびりと談笑なんかしてやがる。


 他人ごと全開で、むかつくことこの上ない。





「おい、貴様っ」


 いきなり怒鳴られ、俺は慌てて監視兵の方を見た。

 漆黒の軍服を着込んだそいつは、厳しい目で俺と……そして俺が手を繋いでいる女の子を見て、鞭で地面をびしっと鳴らす。


 ジャージの上に貼り付けられた名札を、目を細めて読んだ。


「ワタルとやらっ。ちんたら歩いてないで、とっとと中央へ行けっ。開始時刻に遅れる!」


 俺は黙って頭を下げ、手を繋いでいたシオンを抱き上げた。

 まだ十歳なので歩幅が狭く、歩くのが遅いのである。そのせいで遅れたのだが……本人もそれはわかっているのか、泣きそうな顔で囁いた。


「ごめんなさい、おにいちゃん、ごめんなさいっ」

「いいよいいよ、気にするな。子供が歩くの遅いのは当然だ。最初から抱き上げるべきだった。俺が悪いんだよ」


 監視兵に聞こえないように囁き返し、俺は無理に笑った。


「まあ、俺だって十七の子供だけど」


 ちなみに、日本が占領されたのは、俺が生まれた年である。

 従って俺は、昔の占領前の日本を知らない。

 知らないと言えば、今胸に抱いているこの子だって、本当はまだ五日前の最初の「選抜テスト」で会っただけだ。


 連れもいなくて、一人で怯えているこの子を見て、なるべく庇うようにしているうちに、既に五日目になっちまった。

 おまけにこの子、ここへ連れて来られた時には、既に記憶喪失だったのだな。


 自分の名前すら忘れていて、覚えているのは十歳の誕生日がその日(5月1日)だったことだけだ。

 金髪碧眼だから、絶対に帝国側の人間だと思うのに、俺が何度監視兵達にそう知らせても、「んなわけあるかっ」と怒鳴られて殴られただけだった。


 だからシオン(詩音)という名前も、俺が便宜上付けてやった名前である。


「今日もちゃんと守ってやるから、心配することないぞ」


 元球場の中央で、震えながら選抜テストを待つ人々に加わりつつ、俺はなるべく本当に聞こえるように言い聞かせた。

 シオンは、はにかんだように微笑んで、「おにいちゃん、好き」と小声で言ってくれた。こんな時じゃなきゃ俺も照れるんだが、今はそんな場合じゃない。


 球場の頃は選手入場通路だった方を見ると、既に魔獣共が連れてこられているのか、低い唸り声が聞こえる。


 制限時間はたった三分だが、毎度のことながら、向こうは最低でも二桁匹ほどいる。それを思えば、五回目の今回、四十名で三分も持ち堪えるなんて、奇跡でも起きない限りは無理な気がする。


 だいたいこれまで、死亡者が増え続けるだけで、ギフトを発現させた奴なんて一人も出ていない。まあ、仮に本当にギフト持ちが誕生したところで、観客席の方で待機している帝国のギフト持ちがたちまち取り押さえ、精神支配をかけてしまうらしいが。





「いいか、みんなっ」


 震えて待つ俺達の中央で、誰かが叫んだ。


「開始合図と共に、出来るだけ全員が別の方角へ散るんだっ。一箇所に固まるより、その方が生存率が高いからなっ」


 言われなくても、俺はそうするつもりである。

 魔獣が二桁いようと、向こうが狙う前に制限時間をクリアするには、それが一番可能性が高い。こっちには、武器一つないんだから。


「よぉーし、あと十秒だっ」


 慈悲の欠片もない声が、通路の方から聞こえた。

 既に球場内にいた監視兵は、全員が金網で守られた観客席の方へ避難している。そして、通路上では、後付けで作った鉄格子の入り口を引っ張り上げるべき、兵士が待機していた。あそこでハンドルを二人で回し、鉄格子を上に持ち上げて通路を開放するわけだ。


「あと五秒とくらー」


 監視兵が陽気に叫び、周囲で仲間の兵士がゲラゲラ笑った。

 人死にが出るのが、楽しくて仕方ないらしい……集められた中には女子もいれば、こんな小さな女の子までまじってるっていうのに。


 改めて怖くなったのか、シオンが俺の首っ玉にしがみついた。


「お、おにいちゃん……」

「大丈夫、大丈夫だっ」


 なんの自信もないのに、俺はまた優しく言い聞かせた。

 途端に、無情な声が球場に響き渡る。


「よぉし、鉄格子を上げろっ」



今回も、特に長さは決めずにいきます。

とはいえ、最低でも数十ページは続くかと。

ただ、「万一にでも、短く終わるのはちょっと」という方は、避けた方が無難かもしれません……。




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