勇者の親友が元魔王だった件について。
初投稿になります!
とんでもない主人公の親友ポジションの視点の話が書きたかった。
――結果がこれになります。
高嶺大翔は完璧超人だ。
誰もが認め、一度は見惚れる整った顔。
絡まることのないサラサラの髪。
モデル張りの身長に、胴体よりも長い足。
細身だが、程よく筋肉がついた無駄のない肉体。
その肉体を意のままに操る高い運動神経。
外見だけでもトップクラスだというのに、ヤツは内面――中身に関しても凄かった。
安定の頭脳明晰であることに加え、性格もいい。明るく社交的で、皆を引っ張っていく力があると常々感じている。―――ぐいぐい引っ張っていくのではなく軽く引いてやる、くらいのものだが。リーダーシップは十分だ。現に、ヤツが居るクラスでは、必ずクラスの中心がヤツだ。イベント関係はいわずもがな、である。
ここまで奴のことを語ってみたが、どうだろう。いかにも『普通』からかけ離れた人間だと思わないか。
だが、これらは序の口だ。ヤツの特筆すべき異常はその『交友関係』である。
ヤツの人脈は広い。無駄に。というか広すぎじゃないだろうか、というほど広い。とにかく広い。
そう、例えば――
なぜか紹介された人に、至って当然のごとく有名人が入っている。
突然テレビの向こう側の人と対面させられた、こちらの身にもなれと言いたい。やめれ、マジで。ビビるから。
初めてそっち系統の人と会ったときは「………え?」ってなったからな。「…え?」って。
衝撃のあまり頭が真っ白になって思考停止。復活するまでかなり掛った。そのあと現状を理解するのに更に時間を要した。笑顔で待っていてくれた相手の人の優しさが胸に沁みた…。
今でも「実はそっくりさんでした」っていうドッキリだと言われても信じる。むしろそうであってほしい期待のが大きい。
頼むからこっちにまで紹介しないでくれ。心臓に悪すぎるし接するのに困る。特に口調と態度。お前(親友)に対するものと一緒とか無理だから。ほとんどの人年上だからな? そうでなくても自分で稼いでる尊敬すべき人なんだからな? ……もう、慣れたケドさ。
これだけでも十分異常だ。普通じゃない。
しかし!ヤツの友人はそれだけに止まらない。止まらなかったんだ…!!
なんで買い物行っただけで社長が出てくるんじゃアアア!!ビックリするだろうがお前ェ!!
いきなり頭下げられたときはどうなるかと心配したんだぞ!!なにかしでかしたのかと!!(オレが!)
そのあと一人で買い物行ったら店長が必ず出てくるようになったし…!!慣れないうちはかなり恥ずかしかった…!!周りのお客さんから好奇心いっぱいの視線もらって…。もう諦めたケドさ。
え?行かなきゃいい? そこがオレのいつも行ってたお気に入りの店だったんだよ…!! しかも他にはない品揃えなんだ、変えるとかムリだろぉ…。
他にもさ、気前のいい兄貴っぽい雰囲気のおじさんとの一緒にご飯食べに行ったことがあるんだけど…
ああ、もう予想付いちゃった?――うん、最近業績を伸ばしているって有名な企業の社長さんでした。
帰り際に「何かあったらここに連絡くれな!」と手渡された名刺を確認したときは、吹いたよ。リアルに。
ご飯食べに行ったのってラーメン屋だぜ? 一部に有名な隠れ家的お店とかそんなんじゃなく、普通に、庶民の財布に優しいラーメン店。『社長』っていうイメージとかけ離れすぎててビビった。
トドメはヤの付く家業の人に巻き込まれたときだな…。ふっ。
そう、あの日は「穴場の店を見つけた!」って言うもんだから、渋々ながらも付いて行くことにしたんだよ。その頃には、ヤツの交友関係は普通じゃない。信じるな!――ってようやく理解と実感が出来てたから、出発前に念入りに、そりゃあもうしつこく!言い聞かせた。「ドッキリで友達紹介とか無しだからな。絶対だからな!」ヤツはのんきに笑ってたさ。「やだなぁ。今日はないから心配しないでよ」――と。
いつものはワザとなんだな、そうなんだな!? オレのことおちょくって楽しんでたんだな!?――というツッコミはさておき。
その日のことを後に振り返ったとき、ようやく気づいた。――あ、典型的なフラグじゃん、と。
ヤツのいう穴場――ってのが、これまた、路地裏の入り組んだ奥のほうにあってさ。どんどん昼間なはずなのにくらーくなってきたんだよ。
そのときのオレの心境?――聞きたいか? ホ ン ト ウ に?(ホラー風味)
あのときはそうだな、「あ、なんか起きるわこれ」だったな。額に冷や汗付きで。
「おい、ほんっっとーにコッチであってんだろうな…?」
「うん。もうちょっと行くと知る人ぞ知るっていう穴場なんだって。この間教えてもらったんだ」
「一応聞いとくが、…誰にだ?」
「え、ええっ…と、」
困ったように頬を掻き、視線を逸らすヤツを見た瞬間、オレは悟ったね。あ、ヤバイやつだ、と。
そしてタイミングを狙ったかの如く鳴り響く銃声…!! オレは理解したね。コレはアカンやつや、と。
だって銃声だぞ銃声!!わかってんのか、銃刀法違反の法律がある現代日本で銃声だぞ!?
オレは速攻でここを離れるべきだと思ったね。ヤツもちょっと顔青ざめさせてたから、同意見だとみなした。
「逃げるぞっ!!」一言告げてから突っ立ってたヤツの腕を引っ張って走り出した。ここまでは良かったと思う。――そう、ここまでは。
次の瞬間、
オレたち以外のバタバタとした足音が後方から聞こえてこなければ。
テンプレまじかよぉおおおおおおおお!? おい、この主人公!トラブル吸引体質!!
ヤツと出会って早数年…も経ってないけど、初めてヤツの体質を恨みました。まじで。
走りながら後方を振り返れば、めっさゴツイ顔の人たちがそりゃもう険しい顔。ついで始まる銃撃戦。
銃弾がこっちに向かって来たときは正直生きた心地がしなかった。すぐそばの壁にチュインッて!チュインッ!て。――もう説明ここまででいいかな?思い出しただけで疲れた。精神的に。
そのあと?――例のごとく、ヤツの知り合いのヤーさんが現れ、保護してくれましたよ。
巻き込んだお詫びにと奢ってくれた高級寿司が、とても美味しかったです。
…もう許容量オーバーでさ、そのときは素直に食欲に従ったわ。食わなきゃやってられねぇ!!とばかりに食ったさ。「若」と呼ばれている美青年のお兄さんには面白いって笑われたけどな。
――――以上が、オレ、黒瀬直哉の説明だ。
ちなみに友人ポジションではなく親友である。けっして自称ではない。ヤツがオレのことを人に紹介するときにそう言ったからだ。たくさんの友人を持つ中で何故オレなのか、そのとこは理解できない。けれどよく一緒に行動することが多いのは確かだ。
建前はそんなところで、実際はなんとなくだが、その理由はわかっている。
ぶっちゃけるとヤツに対して特に引け目を感じないからだろう。
完璧超人の大翔に対して、大抵のヤツは軽口は言い合えるが、そこから一歩踏み込むまでにはいたらない。踏み込めば、最後。才能やもろもろの差を、見せつけられるからだ。誰だって打ちのめされたくはないだろう。
そんなわけで、
細かいことを気にしない性質のオレが親友という座についている現状だ。
さて。
何故オレが長々と大翔について語ったか疑問に思わなかったか? 特に交友関係。
それはなぁ……
今現在進行形で新たな事実が発覚してるからなんだ…ハハ(遠目
「え? 帝国が勇者召喚しようとしてるかも…? それって大丈夫なのか!?」
『うむ。こちらは大丈夫なんだが…むしろ心配しているのはヒロトのほうだ』
「俺? まさか俺が召喚されるとか…? さすがにそれはないんじゃ…」
『否、用心したほうが良い。ヒロトはその…言いにくいが、いろいろと呼び寄せるように思えるからな…』
大翔の携帯から飛び出したように宙に浮かぶ映像。そこに映る、頭に冠を乗せたゴージャスなおっさん。西洋の甲冑に身を包んだイケメン騎士っぽいの。ローブを身に纏ったいかにも魔法使いっぽいの。
そんな彼らとフツーにお話する大翔。
なぁ。もうオレさ、帰っていいか? え、ダメなの?
そもそもなにをどうしたら異世界の王様っぽい人と友達になるんだ…?
え、海に流すメッセージボトルを真似て通信術式を飛ばしたら世界を超えて大翔の携帯に繋がった?
もうヤダよこいつ…!! なんなんだこの引きの目は…!
今のオレはかつてないほど疲れた顔をしているに違いない。
だからだろう、周りに起きていた、ちょっとした異常に気付くのが遅れた。
そう、例えば。―――地面から幽かに立ち昇る光の粒、とか。
ザザザザッ
我に返ったのは、そんな大きなノイズ音が聞こえてきたからだ。
振り返れば、異世界との通信画面が大きく乱れている様子と、それに焦るおっさんたち。それと戸惑いながら相手を心配する大翔。――――と、そんな彼の足元から溢れる光。
「大翔ッ!!」
叫んだときにはもう遅かった。
無意識に手を伸ばすも、大翔の姿は不自然に歪んで、消えた。
まるで最初から何もなかったかのように。
――――明らかに【勇者召喚】ですね、わかります。
さっきの焦りはどこへやら。起きた事実を飲み込むと、あっさりと冷静になれた。
よくよく考えたら、この展開は「ついに来たか…」という感じなのだ。
あんだけ主人公っぽいフラグを立てまくっといて、大翔が普通な人生を歩むなんてありえない。
むしろ経歴に「『元』勇者」とかあっても不思議に思わない。おそらく大翔ならあり得る、と納得するだろう。
そんなことを常日頃から思っていたのだ。予想できたことで、所謂テンプレ、という状況なのである。
その後の展開を語ろうか。
勇者召喚の晩。何故か携帯は繋がったらしく、普通に連絡が来た。そういえば大翔の携帯、通信術式入った特別性だった…と後日になって気づいた。
諸々の事情(勇者として召喚。国を助けて!)を聞かされ、とりあえず相手のいうことを鵜呑みにするなと注意しておく。誰かを滅ぼせというのにも簡単に頷くなと、殺すのはお前で戦うのもお前だ。もし自分の中に一線を越えてしまったら、お前はこちらに戻ってこれなくなる、と。
見知らぬ世界と人で心細かったのか、珍しく弱音を吐くもんだから、「いざとなったら俺を呼べ」と言ってしまう。そして本当に呼ばれて、「マジで呼んだのかよ…」と唖然としつつ、見たこともないくらいの豪華なベッドの上で宙を仰いだ。そういえば大翔は普通じゃなかったのだ。
ごめんと謝ってくる親友に、過ぎたことだから気にスンナと言っておく。まぁ、こいつのことだから責め続けるんだろうが。
翌日の謁見の間にて、ステータス魔法を習うというので付いて行く。そこで見たのは〈元魔王〉の文字。ついでMPと魔力がカンストしていた己のステータスだった。
思わずステータス画面を叩き落としたおれ、悪くない。
いや魔王って何?なんで俺が魔王なんだよ!?「元」ついているけどさ!
MPはそのままマジックポイント。魔法を使うときに使用する魔力量のこと。そして魔力は魔法の威力を決めるちから。……やべぇ、これ初級魔法で城を壊滅させかねない…!!顔をひきつらせた。
そして自分が大翔と親友でいられる理由の大本だと確信した。そりゃ魔王なら勇者と対等でいられるわな、と。
いかがでしたか?
主人公系の親友ポジションって、何かしら振り回されてますよね。
苦労してそうです。
よろしければ評価のほうよろしくお願いします。