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見つめていたい 

作者: 浜田山 松

 昼休み。直子はクラスメート達とアイドルの話題で盛り上がっていた。時にバカ笑いをする直子のグループは他の生徒からは冷たい視線を感じている。

 それは承知のこと。

 これは青春時代特有のパフォーマンス。直子達なりの自己アピールをしているのだ。対象はもちろん気になる男子。

 直子のターゲットは原だった。

 原はいつも窓際の席でヘッドホンステレオを一人で聴いていた。部活動をしていないので、あまり目立たない存在だけれど、その甘いマスクには隠れたファンがクラスの中に多い。

 直子達の必死のこちらを向いてくれアピール。しかし「北風と太陽」ではないが旅人は振り向くどころか音楽のボリュームを上げる一方だった。しかしいつか振り向いてくれると信じて、ずっと見つめている直子だったが目も合ったことすらない。

 原の元に男子生徒が近づいた。原は鞄からCDを出して、その男子に渡した。それは赤、青、黄色のペンキを塗ったようなCDジャケットだった。直子はそのジャケットを目に焼き付けた。

 放課後直子はそのCDを求め、CDショップへ直行した。見当も付かないのでとりあえず店員に聞いてみた。

「赤と青と黄色のペンキを塗りたぐったようなジャケットのCDってわかります?」

 恐る恐る尋ねる直子。

「それだけでは……」

「ですよね……」

 予想通りの答えが返ってきた。足取りも重く洋楽コーナーへ。あのCDは洋楽だと思った。ずっと見つめていた直子なのでそれは当たっていると思う。それだけを頼りにAのコーナーへ向かった。しらみ潰しに一枚一枚探していくことにした。


 CDはPのコーナーにあった。


 16番目のアルファベットは遠かった。指先が痛い。ネイルも割れた。しかし間違いない。あの時目に焼き付けたCDジャケットだ。見つけた喜びは今までの苦労を一瞬に忘れさせてくれた。直子は胸躍らしそれを持ってカウンターへ行った。

「これねぇ」

 店員はなるほどという顔をしながら言った。

「確かにね。これは名盤だよ。とくに『見つめていたい』は世界的に大ヒットしたんだよ」

 店員の話によるとこのCDはポリスというイギリスのバンドの「シンクロニシティ」というアルバムであった。

 直子は家に帰るなり直ぐにCDを聴いた。やはり店員の言うように「見つめていたい」はとても美しい曲でとても気に入った。全体の曲調も時代を超えて逆に新しく感じて、とても直子の気持ちにフィットした。

 原との会話のためにネットで検索し知識を詰め込んだ。そして会話のシミュレーションを何度もした。


 次の日いよいよ直子は原の元へ行った。

「原君もポリス聴くんだ」

「え?」

 原はヘッドフォンの片方を取った。初めて目が合った。その眼差しに頬の辺りが熱くなるのを感じた。

「私も好きなんだ」

 これからの会話に期待を膨らませ返事を待つ直子。シミュレーションは完璧だ。


「聴かないけど」


――えっ、マジ?

 何が起きているのかわからなかった。直子の計画が全て崩れ落ちてしまった。

「だって昨日CD持っていたよね」

 狼狽を隠しながら言うのに必死でちゃんと言えたかどうかわからなかった。

「あれね。俺CD屋でバイトしているから時々頼まれるんだ」

「そう……」

 直子はもう引き下がるしかなかった。


「どうだった? 良かったでしょう」

「はあ」

 気分とは裏腹に明るく接してくる店員について行けない直子だった。ただこの気持ち、ポリスには罪もなく、アルバムを聴いて他のアルバムも興味を持って見に来たのだった。

「『見つめていたい』って曲調からバラードの名曲と知られているけど、実はストーカーっぽい詩で結構怖い感じなんだよ。『いつでも見ているぞ』的な」

 店員の解説に自分が投影されているように思えた。しかし直子は原の好みも見分けられていなかった。さらに落ち込む。

「だけどこの街のポリス人気急上昇ぶりにはびっくりだよ。今ねバイトの子がね。そのポリスの在庫を奥で必死に探しているよ」

「あった!」

 バックルームから聞き覚えのある声がした。

「何でも気になる女の子がポリスを好きなんだって」

 笑顔でそのCDを持ってバックルームから出てきたのは原だった。


 初めて見る笑顔だった。


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