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03

 今日も今日とて冬の道を行く。いつものようにマフラーで鼻の頭まで隠し、冷たい風から身を守る。まあ、漫画の思い出し笑いを隠すためでもあるんだが。

 漫画といえば、たいていのキャラクターはマフラーをだいぶゆるく巻いてる気がする。首ガッツリ出てるぞとか。関東基準でイラストとか描かれると、ちょっと思うところがあるというか、北海道はやっぱ違うんだな・・・みたいな感じがする。

 ―――背後に気配を感じた。

 直後、左肩に軽い衝撃。・・・来たか。俺はマフラーの下で少し口角が上がるのを感じながら、右向きに後ろを振り向いた。

「よう」

「バレちゃった。・・・えー・・・・・・つまんなーい・・・」

 少女はイタズラが未遂に終わったことで少々、いやかなり不満そうだ。一方の俺はと言えば、いつもこっちが驚いたりするばかりだったので、してやったりな気持ちで満足だ。

「ね、ちゃんと本買ってきた?」

 早速昨日の提案について確認される。無論、抜かりはない。俺は無駄な時間を過ごすことが大嫌いだ。つまらんつまらんと心のなかで嘆きながら学校にいるくらいなら、例え勧めてきたのが不審者だろうと本を買うくらいのことはする。

「ちゃんと買ってきたっつーの。ほら」

 背中のリュックを正面に回し、一冊の文庫本を取り出して見せる。昨日こいつが挙げたタイトルから、表紙が気に入ったものを適当に選んだ。学校で読む用なので、まだ1ページも見ていないが。

「あーこれにしたんだ。この3つ目の短編『あの時した話を僕たちはまだ覚えている』、あ、略して『あのはな』っていうんだけど、映画化もしてる名作だよ」

 目次を見たりページをパラパラとめくりながら、軽く解説を聞く。本の話をしているときの彼女は、なんだか楽しそうだ。というより、超楽しそう。趣味について語る時だけ饒舌になるタイプだな。俺もそうだ。相手は不審者なのに、少しシンパシーを感じてしまった。

「しかし、本なんて読んでたらいよいよクラス孤立ルート確定だな・・・」

「大丈夫だよ、大丈夫」

「教室で本読んでる奴なんて見たこと無いけどな。特にうちのクラスは」

 だいたい聞こえてくる話は、テレビドラマが面白いだのドキドキするだの、あるいはアイドル・俳優・女優・スポーツ選手がカッコいいだのかわいいだの、スマホゲームがアップデートされただの・・・。

 どれにもついていける気はしない。ちょっと勉強してみるかと思って新番組のドラマ第一話を見たこともあったが、「漫画のほうが面白い」以外の感想が出てこなかった。合わないとしか言えない。

 漫画の話も出てこないのに、小説の話が出てくるはずがない。だれとも仲良くならないままクラス替えまで辿り着きそうだ。それもちょっとなぁ・・・と思っていると、顔に出ていたらしい。いや、目しか見えないんじゃないの。

「本読んでれば、時間を忘れるよ。周りも気にならない。気づいたら休み時間終わってて授業始まってるとかね。さっさと課題やって本読みたいまで思うようになれば成績も上がるかも」

「あー、そりゃいい・・・」

 成績が上がるなんて素敵じゃないか。孤立も悪くないのかな・・・悪くないのか?小学校ではみんな仲良くしましょって習ったから、特に疑問もなくそれが正義だと思っていたが・・・。

 話題が一段落したところで、今日の時間割を思い出す。社会の授業はプリントに全部載ってて話は聞く意味ないから読書してようかな、とか。

 そういえば、今日は学校全体での集会があったな。自殺事件から一年とかそんな感じのテーマだったか。うわつまんね。これも時間の無駄にカウントしていいだろう。

 俺はそんなこと人に言われるまでもなく、自殺だけはする気がない。するくらいなら引きこもってでも生きる。

 ・・・集会にはこの本持って行こう。

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