01
結末は考えてあるので、サクッと終わります。
「・・・寒い」
夏も終わり、見上げれば色づいた木々の葉が視界に入る季節。北海道の微妙な田舎に位置するこの街では、その色づいた葉もすでに散り始めていた。冬が目の前なこともあり、俺は暗い気分で歩いていた。もっとも、今日が特別憂鬱というわけではない。平日はいつもそうだ。
高校一年生。まだまだ始まったばかりの高校生活に、俺はすでに苛立ちしか覚えていなかった。入学式のあの日、俺の教室には仲良く出来そうな奴など一人もおらず、全員が騒ぐの大好き系高校生たちだったのだ。
俺は中学生の時から、いやそれ以前から、そういう奴らが大嫌いだ。何かにつけてとにかく大きな声を出すことを信条としているかのようなあの行動は、解せないの一言。しかもおとなしくしているこちらを見下すかのようなあの視線だ。
何考えてるんだかわからないとかいう声もたまに聞こえるが、それはこっちの台詞だ。お前ら何考えてるんだ。どう考えても静かにしてる俺のほうが、少なくとも学校内では偉い。これには絶対の自信がある。
「・・・・・・だりー」
教室のことを考えていると鬱が加速することに気づき、考えを放課後のことに変える。俺は帰宅部だから、家に帰ってから何をしようか、それだけが今の心の支えだ。
適当に勉強したら漫画を読もう、新しいのが出てるはずだから帰り道で買おう・・・。そんなことを考えながら歩を進める。
―――突然、背後に気配を感じた。
この道にはさっきまで俺しかいなかった。曲がり角から誰か来ていたのか?いや、それなら足音とかで気配だけは掴めそうだが。
振り返ると、そこには見知らぬ女の子が驚いたような顔をしながら、こちらに手を伸ばしている。ちょうど俺の肩くらいの位置に、彼女の小さな掌が有る。
「バレちゃった」
そう言って、彼女ははにかんだような笑顔を見せた。
歳は同じくらいだし、うちの高校だろうか。ショートヘアーで真面目そうなメガネをかけ、白いコートを着ている。身長は俺と同じくらいで標準的だが、ともすればすぐに消えてしまいそうな儚さを感じた。
しかし、本当に誰だろう。教室に馴染まず、部活もやってない俺だ。知り合いなど出来るはずもない。
「え、と・・・」
「あ、ごめんね。ちょっとイタズラしてみようと思ったんだけど」
「は?」
初対面の人にイタズラ。なるほど。こいつ、あっち側の一味だな。雰囲気から俺と同じようなタイプかと思ったが、こんな無礼なことをするのはあいつらの特徴だ。
「・・・」
俺は彼女を相手にするのをやめ、背を向けてまた歩き出した。イタズラしか用が無いならこれでいいだろう。早くどっか行けよ。
しかし、彼女はついてきた。
「ねえ、学校行くんでしょ?一緒に行こうよー」
「別にどうでもいいけど。ていうか誰」
正直こういうタイプとは一緒にいたくなかったが、断るとそれはそれで面倒になるという直感があった。
名前やクラスを聞いたつもりだったのだが、彼女は華麗に無視して続ける。
「ね、浮かない顔してるけどなんかあったの?」
特に仲良くもないのにそんなこと聞いてくるのか。ご趣味は何ですか?とかじゃないの普通。それは合コンか。
「別に」
「何、好きな人にでもフラれた?」
「そもそも好きな人がいない」
「ああ、友だちとなんかあったとか?」
無遠慮とかそういうレベルじゃないな。全力で俺の地雷を踏みに来てるとしか思えない。イライラしていたこともあって、つい投げやりに自分の不満を話してしまった。
「その友だちがいねえんだよ。おかげで毎日がつまんねーことこの上ない」
「あ・・・」
彼女はしまった、という風な顔をして、謝ってきた。
「ご、ごめんね?」
「別に」
この人何なんだろう。敵意があるようには見えないが、最初の儚げな雰囲気とは裏腹に結構ズケズケとした物言いだ。人を見た目で判断してはいけないとはよく言ったものだ。
微妙な空気の中そんなことを考えていたら、もうすぐそこに学校が見えてきた。
「ね、毎日この時間?」
「まあ」
「じゃ明日も話そうよ」
ますます分からない。初対面で地雷踏んどいてまた話そうなんて、普通は言えないだろう。
だけど、それはつまりこっちも適当に喋っていいということだよな。本来は人に嫌われる要素の一つである、いわゆる”不幸自慢”ってやつを、この謎多き少女になら得意気に披露しても文句を言われる筋合いはない。つまらなければ離れていくだろうし、どちらに転んでも俺の得。
タダで愚痴を聞いてくれるなんていい人だ。友だちでもないのに。悪くないな。
「・・・まあ、いいんじゃない」
そう答えたあたりで、玄関に到着。憂鬱な学校が今日も始まる。「また明日ー」なんて言いながら、彼女は俺とは逆方向に廊下を歩いて行った。