絡まり合った「好き」たち
恋愛作品3作目・・・今読むと自己嫌悪な代物ですが、読んでくだされば嬉しいです。感想や評価、アドバイス等もあればよろしくお願いします。
私には好きな人がいて。先輩にも好きな人がいて。
* * * 絡まり合った「好き」たち * * *
教室の中、いつもの指定席に腰掛けて。
空を見ていた。とある人のことを考えていた。
・・・考えすぎていたんだろう。教室のドアが開いたことに気づかなかった。
「・・・あ、れ」
後ろから気まずそうに届いた声。慌てて振り向いた。
そこに目をそらす先輩の姿を見て、私は目を見張る。
「せん、ぱ」
「・・・あーっと、悪い、邪魔したか」
「いいいいえ、別に・・・」
心底すまなそうに謝る先輩に申し訳ない。思いっきり手と首を振って否定。完全に挙動不審だ。
「す、すいません先輩。私、これでーーー」
「いていいよ」
「・・・え」
「ちょっと、隅っこ借りるだけだから。俺のことは気にしないで、いていい」
隅っこ借りるだけの意味が少し分からなかったが、引き留められてしまうとそれ以上立ち去ろうとすることもできない。
「はぁ・・・それじゃあ」
ゆっくりと椅子に座り直して、先輩の様子をうかがった。
先輩はあまり音を立てずに、私の二つぐらい後ろの席に座る。
・・・ここは空き教室で、机と椅子はあるものの使用者はいない。
私はそれを利用して、一人でとあることについて考え事をしたいとき、ここにいる。
「・・・先輩」
「あ?」
「よく、ここに来てるんですか」
「・・・まぁ、たまにな・・・一人になりたいときとか」
先輩のその言葉に冷や汗が流れ出した。だったらよけい、私は邪魔じゃないか。
「ほ、本当にいていいんですか・・・?」
「・・・いいっつったろ。お前だったら、いいや」
顔が熱くなるのを感じた。
私と先輩との関係は、単なる「腐れ縁」だ。
中学の時、美化委員会という委員会活動で知り合った。
無愛想だし、怖そうだった所以、最初はおそるおそる仕事をしていた。
だけど、その中で、面倒見がよく、ただの付き合い下手な一面を知って。
それなりに、仲良くなった・・・うん。たぶん。
・・・そのころから、この気持ちは抱いてきたんだと思う。
高校に入ってその姿を見つけたときは、嬉しさに震えた。
まぁつまり、私は、先輩のことが、
「・・・ちくしょ」
思考の中突然降ってきた声に、私はびくりと肩をすくませた。
静けさの中、突然先輩が言葉を発したせいである。
何に対する悪態か予想がつかず、振り向けないでいると、「あーあ」というどこか気の抜けたため息が聞こえてきた。
「・・・・・・好きだったのにさ・・・・・・」
「・・・ぇ」
突然の言葉に思考回路が乱れる。小さくこぼれた声は、それでも我慢した結果だ。
好き、だったって、何が?
話の流れからして、私のことじゃない。悲しいけど、それは事実だ。
じゃあ、何?
先輩、好きな人がいたとか・・・?
「・・・ちくしょ・・・!」
そりゃ、そうだよね。
先輩だって、恋するんだもんね。
当たり前だよ。誰しもが両思いになったり、頑張れば恋が実るわけじゃないんだ。
知ってたはずのことなのに、どうしようもなく混乱する。
「・・・・何なんだよ・・・何だって言うんだよ・・・!」
私は振り向けなかった。先輩の顔を見ることなど出来やしない。
声は次第に震え始めた。あぁ、泣いてるんだろうか。そんなことをぼんやり思った。
その涙の相手は、誰なんだろうな。・・・私だったら、・・・私、だった、ら。
私自身は何もないはずなのに、どうしようもなく泣きたくなった。
・・・空を、見ていた。先輩のことを考えていた。
どれくらい時間がたっただろう。後ろから聞こえていた嗚咽は、もう静かな呼吸に戻っている。
ずっとずっと、先輩は泣いていた。私は何もできなかった。
何もすることなどできないだろう? それがふつうだと思う。
「・・・みっともないだろ」
ふと、後ろから声が聞こえた。いつもの先輩の声より、少しかすれた声になっている。
それが私に当てた言葉だと気づくのに数秒。慌てて返した。
「まさか! みっともないなんて・・・!」
「・・・愚痴だけどさ、聞いてもらっても良いか」
小さく懇願するような声に何も言えなくなって、小さくうなずく。
先輩はためらいがちに、切り出した。
「俺・・・さ、今日告る予定だったんだ。好きな、奴に」
あぁ、やっぱりかーーーと胸の内に黒いもやが広がる。
「でもなぁ・・・そいつの友達から、止められてさ」
泣いている場面に遭遇すれば、だいたい想像できることだ。
わからないのは・・・何で、私にそれを話すか。
「あの子、中学の時から一人だけを見てますーだってさ・・・・・・何も言い返せねぇよな。それ聞いて、告れるわけ、ないよな」
あぁ、また。先輩、声が震えてるじゃん。
「何で俺じゃねぇんだって思うけど、まぁ・・・あれだよな。仕方ねぇ、か」
自嘲するような笑い方。やっとの覚悟で振り向くと、先輩は目元を手で覆って、笑っていた。
隠された目元は、見なくてもわかる。
「・・・先輩」
「・・・・・・こっち、みんなよ」
嫌そうに顔を逸らす先輩の目元は、やっぱり赤かった。
「・・・なぁ」
「はい?」
「お前はさー、俺のどこがダメだと思う?」
「・・・・・・えっ、と」
唐突な質問・・・というか無茶ぶりに、頭をフル回転する。
ダメだ・・・先輩のダメなところなんて出てこない・・・。
「・・・じょーだん。お前にダメなところ言われたら二度と立ち直れないような気がするわ」
苦笑しての言葉に、意表を突かれて硬直する。
だって、そんな言葉。
私のことを恋愛対象じゃなくても特別に見てくれてる・・・。
そう、思えるから。
先輩は顔を隠すようにして、机に突っ伏した。
そのまま「あー」とか「うー」とかうなり声を上げる。
また泣きそうになっていることは、だいたい察した。
「・・・先輩」
「なんだよ」
「私も今、実は失恋しかけてるんですよ」
「・・・・・・は?」
「私の好きな人も、違う人を好きだったらしくて」
「・・・・・・はぁ」
いぶかしげな顔で先輩は相づちを打つ。
とうの先輩のことなのに、きっと気づかないんだろう。
「仲間ですね、先輩」
「・・・・・・そ、だな」
先輩は少し笑った。私も少しだけ笑った。
「お互い、大変だよなぁ」
「そうですね・・・」
先輩への思いを隠して、笑った。
「・・・先輩、その人のことあきらめるんですか?」
あまりしちゃいけない質問だとわかっているけれど、勇気を出して聞いてみる。
先輩は、空を見上げた。
「・・・迷ってる。しつこいのかもしんねぇけど、気持ちは変わってねぇんだ、これが」
「・・・そんなものですよね」
心の中のがっかりを隠して、相づちを打って。
「お前は?」
なんて質問に硬直して。
「仲間の先輩があきらめないなら・・・、私も、あきらめませんかね」
「そか、頑張れ」
「・・・ですね。だからーーー」
私は席を立ち上がった。
なんか変なスイッチが入った。
何となく気分が高揚する。それと同時に、今しかないって心のどこかで思う。
「結果は知りませんが、告白しようと思います」
「・・・へ」
先輩の拍子抜けしたような顔が妙におもしろかった。
「が、頑張れよ」
「はい、頑張ります」
「・・・今から?」
「はい、今この瞬間に」
「・・・連絡ついてんの? 今放課後だけど」
「目の前にいますから」
先輩が、目を見張る。
「・・・は? はぁ? どういう、は?」
「は?」ばかり連呼する先輩に私が笑う。口を開く。
「私、先輩のこと、」
「・・・待てよ」
突然の舌打ち混じりの制止。腕を引っ張られる感触、ぽふりと、先輩の匂いが広がる。
抱きしめ・・・られて、る?
「そういうことか・・・なんだよあのエセ友人め、恥ずかしいじゃねぇか。無駄に泣いた」
「え、せんぱ、どういう、」
「いろいろごっちゃになってんなぁ」
頭上で、私を抱きしめる先輩の、小さな笑い声。
「だったら、俺に言わせろーーー好き、だ」
嘘・・・そういうこと・・・?
私の好きな人は先輩で。先輩の好きな人が私で?
先輩の好きな人に好きな人がいるって、私が先輩のこと好きってこと?
絡まり合った「好き」たち。
なんだ、結局、両想いなんて。
* * * END * * *
読んでくださりありがとうございました。




