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異世界のような真世界

困った。

頭が痛い、本当に。

何故?どうして?

訳が分からない。

マジで、どうしてこうなった。

先生、気付けば俺はリア充になっていました。

え、何?仲江さんと妹は実は知り合いだったとか?

それとも兄(一応俺)の世界に対するイメージをがらりと変えようとかいうテレビ企画?

カメラさんも音声さんも照明さんすら何処にも居ないって。

「そもそも高峰先輩は家族に対してのイメージが余裕でおかしいです。何でそんなに自信が無いんですか?会社ではあんなに自信で満ち溢れてるのに」

今、何て言われた?

「高峰先輩、いつも妹さんお手製のお弁当嬉しいのに食べてるし、家族関係とか凄く良いんだろうなぁーって思ってました…」

仲江さんが、かなりしょぼーんとしている。

しかしその言葉は俺の中ではかなり耳障りで、聞くだけで奈落の底へと落とすくらいに殺傷能力が高かった。

「あ、あの…?」

「高峰先輩にお願いがあります。いくらご両親から嫌われていたとはいえ、今の貴方が居るのは妹さんのおかげなんです。だから、せめて妹さんだけで良いから、家族を愛してあげてください。愛情とか理解できなくても、元気かなー、とか何してるか心配だなー、とかでも良いんです。これ以上妹さんを苦しませたらダメですっ!」

あの仲江さんが会社でも、普通の会話でも、それ以上に話していることに驚く。

そして、何故俺はお願いをされているんだろう。頭の整理が付かない。

「えっと…先輩?その…返事くらい……」

「――あの、すみません」

突如、仲江さんの言葉がさえぎられた。

声のした背後を振り向くと、図体の大きい大男がいて、なんか手帳を掲げられている。

なんというか、『この紋所が目に入らぬかーっ!』って感じに。

どう見ても警察手帳です本当にありがとうございました。

「私、刑事課の奄美あまみです。貴方は高城さんのお兄さんですよね?妹さんのことで話を……」

「え、え?」

また新たな問題の予感。

「あのっ…!私、仲江と申します。…その、その話に私も混ぜてください」

「いやいや、これは家族のお話ですので……」

ダメ、と言う風に手をふる刑事に対し、仲江さんは胸に手を当てて立ち上がった。

「いえ…その……私も家族ですっ!しょ、将来ですけど…!」

何言ってんだこの人!


「……とりあえず彼は現行犯逮捕、暴行罪で起訴する予定です」

何だろう、この空気。

病院の休憩室でする会話じゃない。

ソファーの中央にどすっと大柄かつ大胆に座る奄美刑事と、会社と同じように足を斜めにセクシーで大人っぽく座る仲江さん、そして何故小さく丸まって座る俺。

そして刑事さんのおごりでそれぞれの手にはミックスジュース(紙パック)が握られている。

その持ち方まで個性的だがそこまで話すのは正直面倒。

ってか何故俺はこんな説明をせねばなるまい。

「あ、大島?一応メモっておけよ?」

「あ、はいっ…!」

眼鏡をかけた見た目クールビューティがあたふたとメモの準備をしている。

まだ慣れてないのか、あるいは緊張してるとか?よく分からない。

とりあえずこの奄美刑事のパートナーではあるようだ。

「それで話っていうのはね?彼、実は前に何度か補導してまして、少年院自体も一度行ってるんです」

「そ、そうなんですか…」

あれ、その台詞って本来俺言うべきじゃない?

と思ってたら仲江さんにキッと睨まれた。

あれ、怒られてる?

「それでね、彼女と彼がどれほど付き合っていたのか、とかその間に似たようなこととかあるかなと思って聞きにきたんですよ。お兄さん、わかる?」

「えっと…そう、ですね…。彼氏が居ると聞いたのは春で…4月終わりから5月にかけてだった気がします…。な、殴られたところは一度……ッ!?」

とりあえず俺が答えると、脇腹に痛みと言う名の衝撃がきた。

なんという肘鉄……仲江さんパネェです…。

「ふぅむ、そうか…。殴られた痕とかは見ないのかい?」

刑事さん、今の見えてないの?

「み、見ては無い…ですね…」

ヤバイ、本気で痛い。

「奄美さん、…、……。…どうしますか?」

「ん?そうか。じゃあそっちへ急ごう」

大島さんが奄美刑事に耳打ちをし、先に姿を消していく。

奄美刑事は帽子を被りなおし、出る用意をした。

「じゃあ私も忙しいのでそろそろ行くよ。また話を聞かせてくれ。では」

「あ、はい…」「ありがとうございました」

奄美刑事の別れに俺と仲江さんの声が重なる。

そして。

「高峰先輩がこんなに家族に無関心だとは思わなかったです……なんか私、先輩に対してのイメージ崩れちゃいました……」

落胆された。


多分そこは夢の中だ。

まるで水の中に投げ出されたように体が重く、そして妙な浮遊感がある。

だが、苦しくない。

「国治……国治…」

声が聞こえた。女性の声だ。

優しくて、どこか覚えのあるような、そんな声。

だがそんないつまでも聞きたい声が、突如豹変した。

「家族と言うのは切っても切れない縁だと思います。もしその存在が嫌いになっても…貴方はその存在を大切にしなければならない……それが、今の貴方を助ける存在なら尚更……」

これはきっと悪魔の囁きだ。

拒否してしまいたい。

耳を塞いでしまいたい。

「現実から逃げてはいけない……。自分は嫌われて良い存在なのだと、認めてはいけない……。自分という存在は、愛を知らない、愛を信じられない、と決め付けてはいけない……。いつまでも、過去に縋ってはいけない……」

その声が、怖い。気持ち悪い。

脳内に入ってくるその声が、吐き気を催すほどに、多分俺は涙を流した。

きっと自分の意識の何処かにあるパンドラの箱が、今開かれようとしているんだ。

「…目を覚まして。家族を、信じてあげて。過去の記憶を、思い出して…」

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