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過去の錯覚

「お待たせいたしました、タラコの和風パスタとゴッソリカツカレーです。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

「ごゆっくりどうぞ、失礼いたします」

注文した飯をテーブルに置き、定番文句を述べて去っていく店員。

既にドリンクバーからレモンソーダを持ってきた俺はそれを一口飲み、まずカツカレーから手を付けた。

口に入れようとしたその時、何処か近くのテーブルで会話をしている女性二人の会話が偶然、耳に入った。

「DVってやつー?あゆみったらそれで別れちゃったんだよ」

「え、そうだったの!?そういえばDVで思い出したんだけど、さっき凄かったねー。結構回りに迷惑感漂ってたけど」

「殴られた女の子痛そうだったけどかなり申し訳無さそうだったねー。アタシあんな彼氏絶対イヤ。っていうか有り得なくなーい?」

「何であんなことしたくなるのかね。男ってホントわかんない」

何故そんな言葉が耳に入ったのか分からないが、俺は気にせず飯を食べる。

「よく考えたらあの殴られた女の子って柏木高校の制服じゃない?着崩してた上にカーディガン羽織ってたからちょっと分かりにくいけど」

「えー!?あそこ名門じゃん!優等生かぁー、アタシ無理無理。よくあんなのと付き合えるよねー…」

「本当にね。制服の襟の色を見る限り2年生のはずだよ」

「マジ?ってかエリカ詳しいねー。何で知ってんの?」

「へへー、仲良しの従妹が柏木の2年生なんだよねー。でもあの子見たことあるんだよなぁー…。名前なんだっけ。たか…高峰…?うーん、忘れた!」

俺の手が、止まった。

何も考えず、気付けば俺は注文表が書かれた紙とお金をレジに置いて、店を出ていた。

何となく直感で、大きな道路を渡り、駅の方へ走っていた。

『もし、本当に俺があの子の兄なら…家族に空気のような扱いを受けても、あの子が存在を変えてくれたのなら、ただの恩返しかもしれないけど助けてやりたいって思うよ…!』

何故か祐史に先ほど怒鳴られ言われた言葉が頭の中で再生される。

長い階段を上り終えると、駅の前の広場でいつもと違う光景が広がっていた。

男の上に、祐史が跨って、顔を殴って、それを見ながら大泣きする少女。

そしてそれを止めようとする、警官。

どうして、こんな光景が広がっているのか分からない。

大泣きする少女に、眼鏡をかけたおさげ髪の女性が話しかけ、優しく抱擁して。

警官に捉まって無理矢理立たされる祐史。

殴られ続けた男はもう一人いた警官の手に摑まり立ち上がって、ゆっくりと少女の元へ歩き出す。

そして女性を突き飛ばし、少女を立たせ、彼女の頬に男の拳がめり込んだ。

俺は衝動的に、警官よりも早く男に掴み寄って男を殴った。

一人の警官は俺と押さえ、もう一人は男を連れてその場を立ち去っていく。

その場に残された四人は皆静かで、たった一人だけ、警官は電話をしていた。


"俺"の意識が戻ったのは病院だった。

あの後警官が呼んだ救急車に皆乗り込み、少女は診察を受け、祐史はガーゼや絆創膏を張ってもらい、女性は俺を含む三人の付き添いをしていた。

「落ち着きました?現場に着てから魂が抜けたようになっていましたよ?」

目の前で優しく、仲江さんが微笑んでいた。

あぁ、あの女性はやっぱり仲江さんだったんだ。

「…その、私も吃驚しました。会社から駅に向かっていたら、広場で男性があの子を殴ったから…。それからすぐに、あの男の方がやってきて…」

俺の隣に座って、仲江さんは話を続ける。

「でも、高峰先輩は来ると思っていましたよ?お兄さんだもの」

にこりと仲江さんが微笑む。

「兄だからと言って…妹の元へ行かなくてはならないんでしょうか…」

「寧ろ、兄弟だからこそ、行くんだと私は思いますよ?」

仲江さんの言葉に、少しは考える。

だけど、やっぱりそういう気持ちは分からない。

「……わかりません…」

「こいつはそういう奴っす。その…先ほどは助かりました、ありがとうございます」

診察室から出てきた祐史が仲江さんの前で頭を下げる。

「いえ、打撲で済んで良かったです。えと…貴方は先輩と仲良しなんですか?」

「いや…まぁ高校からの馴染みっすけど…コイツは家庭の事情で家族が信じられず、家族の意味も知らない大馬鹿者ですよ。そういう話は何話しても全然通らないから諦めた方が良い」

無言で、俺を見てくる仲江さんに、俺は少し苛立った。

「何すか…」

「そういえば治、御咲ちゃんは全治6ヶ月だって。良かったね、生きてて。お前がそんなんじゃ無ければきっと、いや…絶対小さな怪我だけで済んだのにな。あとで謝っておけよ、全部。それじゃ俺帰るんで」

「あ……」

軽く、手をヒラヒラさせて祐史は病院を去っていく。

仲江さんはその姿が無くなるまで見つめていた。

「……」「……」

重い沈黙がやってきた。

だけど仲江さんは直ぐに俺の手を取り、

「行きましょう。御咲さん、待ってます」

強引に俺を、妹の元へ案内した。


仲江さんがコンコン、と軽いノックを鳴らすと、中から「どうぞ」という声が聞こえた。

「失礼します。…えと…御咲、さん…。体は大丈夫ですか?すごく…痛かったですよね…」

グッタリとベッドに横たわる御咲に話しかける。

御咲はゆっくりと目を開けて、明るく微笑んでいた。

「いえ……こんなの、大丈夫……。それよりも…ありがとう、ございました…。その…兄まで、見てくれて…」

「大丈夫、先輩は会社の方で私の方がお世話になってますから。その…御咲さんが良ければ、これからもお見舞いに来ても良いですか?ね、先輩。一緒に反省会とお勉強会をしましょう」

「……は?仲江さん何言って……」

にこりと微笑む仲江さん。

この人、目がマジだ。本気すぎる。

「えと…家族が、来て…くれると…すごく嬉しいです…。これからも…よろしく、お願いします…」

妹はにこにこと返事をしていた。

俺は、この空間が分からない。

気持ち悪い。

吐き気が出そうだ。

「という事で……その、いきなりだし良く分からない空気かもしれませんが…私と付き合ってください。出来れば、家族と言う意味で」

多分もう2,3話で話終わる予定でう。この展開意味分からん!と思った方々しかいないと思いますが実験的に書いてる話なので気にしないでいただければ幸いです…!(ノД`)

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