家族。
突然で、そしてこれは敢えてなのだが、まず最初に俺の妹を紹介させて欲しい。
まず名前は高城御咲と言う。
年齢は17の現役高校生で髪は胸にかかる程度。
胸はCカップ、スポーツはほどほどだが本人は「スポーツ自体は好きだけど恵まれていないだけ」と言っている。
趣味はぬいぐるみと仲良くすること。もふもふしたりなでなでしたり、咄嗟に母性本能が働き出し抱きついたりするのが楽しいらしい。
あとは家族と仲良く遊ぶことなのだそうだ。
妹は誰とでも仲良くできるらしく、クラスでは人気者。高校の中で知らない者は少ないらしい。
だが最近はアルバイトに興味があるらしく何かと暇になった時にはバイトしたいなぁ、と呟いていた。
生憎我が一家、父は大学を卒業してから郵便局の局長、母は自分が働くのが好きだからとパートに出かけている為お小遣いは毎月2000円。
少ないかどうかは他の家を知らないので何も言えないが妹はお金の遣り繰りがとても上手く俺のお金まで詳しく世話してくれたりする。
だから正直お金が欲しいとかそういう意味では無い。
多分、社会勉強とか"働く"ということがどんなことかを知りたいだけ。
そういう意味では、妹はちょっと特殊かもしれない。
別に脳に異常があるとか精神面がうんたらこんたら~なんて事は無い。
単に、一般人よりその感性が少し違うのだ。
たまに俺もなるほど、と言いたくなることもある。
だが妹はそれに気付いていながら別に気にする様子も無く自分の意見は述べ、周りの意見は全て受け入れている。受け入れ方はこうだ。
『考えなんて、人それぞれだよ』
そんなある日、妹が珍しく、真剣そうに化粧をしていた。
「どうしたんだ御咲?お前がお化粧なんて珍しい。彼氏でも出来たかー?」
「――うん」
淡々と答える御咲だったが、俺は吃驚した。
こう見えて妹は可愛いと人気がある奴だが彼氏を作ったことは一度も無かったからだ。
「お兄ちゃん、どう?どこか…変?」
正面に向き直り、少し照れくさそうに見つめてくる妹が、何処か別人に見えた。
正直に言うと、可愛い。こんな彼女が欲しいです。
あぁ、これがシスコンか?今までこんな気持ちが芽生えたことは無かった。もしかしてついに俺の脳にもシスコンという存在がそこたら中を走り出し、そしていつかはそれが当たり前になってしまうのだろうか。
「ちょっと、返事くらいしてよね!こっちは…そ、その…真剣に聞いてるんだから」
照れているのだろうか、そっぽを向く妹がまた可愛い。
俺もうだめだ。早く何とかしないと。
「あ、えと…に、似合うと思うよ。とても…か、可愛い……」
なんだよこれ!愛の告白か!?
「……そう?…ありがと。あ、今日お父さんとお母さん仲良く旅行なんだって。私今からデート行くけど、お昼ご飯はちゃんとテーブルの上にあるから。あと夜ご飯には遅刻するかもしれないけどご飯作ってるからお菓子食べてて待ってて」
わかった?と指を指されてしまった。
そして妹はそそくさと玄関へ走り、「いってきまーす」と明るい声で出て行ってしまった。
残された俺は勿論、ゲーム三昧。
妹お手製の昼飯を頬張りながら、俺は格闘していた。
何と?今度上司に渡す予定の会社向上案の内容と、気分転換に起動させたRPGゲーム。
言い忘れていたが一応自分、高城国治は今年で21歳の会社員。
これでも入社3年目で上司にもさり気なく期待されて入るのだ。
ちなみに今日は土曜日なので仕事もないし快適!明日も自由だー…なんて言いたいけどそれ所ではない。
いくらweb広報担当だからといって全員参加の向上案をサボる訳にはいかない。
大きなため息を漏らし、チャーハンを頬張る。
くそう、妹の優しい味だけが今の俺の心を癒してくれるぜ……ありゃ?
電子レンジで温めたはずのチャーハンが冷め切っていた。
「ただいまー…ってあれ、お兄ちゃん?おーいっ」
ぺちぺちと頬を叩かれている。
気がする。
ぺちぺち…ぺちぺち…
……気のせいではないらしい。
「ん…おぉ、妹よ帰ったか……本日の依頼はだな…」
「そのギャグ今週全部言ってた。もう飽きた。ご飯作ったから食べよ」
俺が起きたのを確認したからもう用済み、という感じでエプロンを脱ぎながら部屋を去っていく妹。
何だよ、寂しいじゃないか。…まぁ、ずっと同じギャグを使い続けた俺も悪いか。
大きく伸びをして、目の前の机を見ると、大変なものが目に入った。
シャープペンシルで書かれた「会社向上案」、紛れも無く、俺の字。
問題なのはそこではなく、"向上"周辺が薄い黄色いシミがついている。
向上の左隣に書いてある文字が読めない。
「こ、これは…俺の涎か!?やや、やっちまった…!ここなんて書いたっけ…うおー!!!!」
あまりの悲しみ(精神的ダメージは案外大きいんだ)に俺はつい叫んだ
「お兄ちゃんうるさい!!!早く降りてきて!!」
ら予想通り怒られた。まぁ、そうだよな、普通。
仕方なく階段を下りる。
若干テンションが下がり気味だったが、リビングに入るなり物凄く良いにおいがした。
ポトフ、日本人の神・米、サラダ、そしてメインであるデミグラスソースのハンバーグ…!!
「こっ、これは……!!」
「きょ、今日はいつもお兄ちゃんに遊んでもらってたのにそれが出来なかったからせめてこれで時間取り戻せたらなぁーって……」
何処か落ち込み気味に話す妹。
別にデートが上手くいかなかった訳じゃなくて、単に家族と過ごす大事な時間を取れなかったのが苦しかったんだろうなと俺は気付いた。
妹はそういう奴だ。
昔から、家族を宝物のように大事にしようとする。
俺は箸でハンバーグを切り、一口頬張る。
妹の優しい味がまた俺の舌を、心を癒す。
「どう?」
「ん、御咲はいつも料理が上手いなぁ。相変わらず美味しいよ」
「そっか、よかった」
とても嬉しそうに微笑む妹。
俺の心に少し、皹が入った。
高城御咲:家族を愛してやまない高校2年生。好きなものはぬいぐるみ。
小さい頃から父親と母親が居なかった為家事にかなり強い。
小学生中盤の時点で大体の料理レシピは覚えていた。
誰からも好かれる性格で、明るい少女。
高城国治:御咲の兄で会社員。
小さい頃から妹と仲が良く、学校が違っても妹を学校まで送ってから自分も登校をする程。
よくニートと間違えられる。友達はパソコン。