【短編小説】かみさま
パロディ宗教だと思っていた。
そんな馬鹿げた宗教があるかと笑うとしことま怒られた。ひとの宗教を笑うもんじゃあ無いのは確かだ。
反省して、お詫びに次の巡礼に付き合うことにした。
女は喜んで牛丼の残りをかき込むと、おれの頬についた米粒を取って口に含んだ。
つるつるの土に足を取られながら、おれはラバーソールみたいな靴で来た事を後悔していた。
どこまでも続く鳥居が恨めしい。
「どう?バイク乗ってばっかだとキツいでしょ」
そう言って笑う女の履く足袋も、鼻緒に擦れたのか血が滲んでいた。
「なぁ、思うんだが鳥居ってのは潜るときに頭を下げて挨拶するだろ?こんだけ並んでるとそういうのは良いのか?」
いちいち頭を下げていたら日が暮れるよなと軽口を叩くと、女は足を止めて
「まぁいいんじゃない?アンタんとこの御神山じゃ、道中にいくつもよその神様の宣伝が立ってるじゃない」
心が広いのよ、日本の神様はね。
そう言って再び登山を始めた。
サンダルとヒールじゃなくて良かったと思うが、デートには少し不向きだったと思う。
しかし今さらそんな後悔をしても始まらないし、引き返すにしても同じ事だ。
二人して息を切らせながら山道を登る。
鬱蒼とした林からは木漏れ日が差して、まるで日頃の鬱屈だけをピンポイントに焼き切ってくれる様な気がした。
木々が揺れて起こすざわめきは、やはり日頃の耳障りな出来事を洗い流すようだった。
「これだけでもだいぶデトックスされる気がするよ」
女が指摘する通り、バイクに乗ってばかりで鈍った足腰にはキツい登山だけどと笑うと、先を行く女もこちらを見て「わたしも普段は坂道の無いところしか歩かないから」と言った。
そこで会話は途切れた。
しかし気まずさは無かった。
木々の隙間から覗く陽射しだけが雄弁に二人の行先を照らしている。
「着いたね」
少し先を歩く女が振り向いて笑った。
あとを行くおれからも見えた。鳥居が途切れた先に巨大な本殿が建っている。
開け放たれた本殿の奥に、巨大な牛丼が鎮座しているのが見えた。
おれは動揺を隠して訊いた。
「あれがご本尊かい?」
女が振り向いて笑う。
「えぇ、海を泳ぐ牛丼教のご本尊よ」
女が膝を降り、懐から箸を取り出した。
おれもそれに倣い、続いて右手で持ち上げた箸に左手を添え、右手で持ち直してからご本尊の牛丼に頭を下げた。
「ふふ、これであなたも今日から海を泳ぐ牛丼教の教徒ね」
女が笑う。おれも笑った。




