笑う門には
笑う角には(お六と権兵衛)
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「え?トメさん亡くなったの?」
町外れに住んでいたトメさんはだいぶの年寄りだった。旦那さんが死んでからは塞ぎ込んでしゃべることもなくなり、腰も曲がって歯なんて全部抜けちゃって。それでも最近はよく声を聞いた。楽しそうに笑っていて、聞き取れないけど声が大きくなってみんなそれを見て安心していたのに。トメさんの弔いに顔を出して、線香の一つも上げようと思ったらトメさんちのお隣さんに聞かれた。御用聞きに、何か言っていたの?何のことかと思えば、清六がよく足を運んでいたという。あいつ、何か余計なことを……!私はすぐに店にとって返した。清六は、いつも通り胡座をかいて指を組んでいた。
あんた、トメさんに余計なことした!?そう聞くと「したかもしれない」と言っていた。こいつのせいでトメさんが死んだとしたら……ゾッとして怒鳴りつけようとしたら、清六に先手を取られた。京の都では、歯に色を塗る女が多いという。真っ黒に塗るものだから歯がないみたいに見える。気味が悪いという者もいるが、歯がない女を見た者は口の中を少しだけ真似る。そしたら周りの人は……少しずつだが、元気になっていくという。
「トメさん、歯がなかっただろ?」
……そういう考えが、なかったわけではない。そう言って黙り込んだ。私は、叱らないといけないから……「次から気をつけなさい!」と言って部屋を出ていった。清六が組んだ指を、平たく合わせていたのが襖の隙間から見えたような気がした。




