第43話 「あの男――ロッシを捕らえてくるのよ」
魔王リムガルドの眼が、モニター代わりの偵察蟲にさらなる映像を要求する。
現在の彼の様子はどうなっている?
映し出されたのは――極寒の雪原での野営風景だった。
「……なっ!?」
リムガルドは絶句し、思わず玉座から立ち上がった。
そこには、異様な光景があった。
一人の女が全裸に近い姿で蒸気を噴き出し、白目をむいて痙攣している。
そしてロッシは、そんな彼女をまるで「焚き火」か「道具」のように扱い、平然と暖を取っているではないか。
あまつさえ、その背中に足を乗せている。
「な、なんてこと……」
リムガルドの頬が、カッと朱に染まる。
彼女の目には、それが「寒さを凌ぐための苦肉の策」などではなく、「メスを徹底的に管理し、道具として使い潰す、冷酷無比な魔族の王の所業」として映ったのだ。
「自分のメスを、あんな風に……。人間風情が、あのような魔族的な所業ができるとは……。以前の甘っちょろい坊やとは大違いね」
ゾクゾク、と。
背中の羽が小刻みに震える。
蟲の社会において、女王は絶対的な支配者だ。すべてのオスは彼女に傅き、死んでいく消耗品に過ぎない。
「……いい。いいわ、ロッシ」
彼女は熱っぽい瞳で、モニター越しのロッシを舐めるように見つめた。
「貴方を、私の『種馬』にしてあげる。……その傲慢な顔が、私のフェロモンで快楽に崩れるところが見てみたいわ」
殺してはならない。
そんな極上の「種」を、みすみす失うわけにはいかない。
「いでよ!我が愛しき拘束者!」
リムガルドが指を鳴らすと、天井の闇から巨大な影が音もなく降りてきた。
八本の節足。濡れたように黒光りする甲殻。そして、腹部から滴り落ちる粘着質の糸。
魔将軍『アラクネ』(蜘蛛型)
。
絡め取り、麻痺させ、獲物を生きたまま保存することに特化した、生体捕獲のエキスパートだ。
「ギチチ……女王陛下、御下命を」
「行きなさい、アラクネ。あの男――ロッシを捕らえてくるのよ」
リムガルドは自身の胸元を爪でなぞりながら、艶然と命じた。
「決して殺してはだめよ?五体満足で、元気なまま……ここへ連れてらっしゃい。たっぷりと、『教育』してあげるから」
蟲毒の女帝は、まだ見ぬ愛しい種馬を想い、ねっとりと舌なめずりをした。
まさか相手が、ただ暖房器具を囲んで暖まっているだけだとは夢にも思わずに。




