第41話 「さあ、ご褒美にビンタを」
「クシュ!」
「おいおい、前はこんなに寒くなかったぞ」
俺とサメトナ、ネオンは、選抜を勝ち抜いた10人と共に、新生北伐隊として、北の大地を目指していた。
日は沈み、極寒の荒野に夜が訪れたため、俺たちは風除けの岩陰にテントを張り、野営の準備をしていたのだが……。
「ロッシのテントにはボクが入るの。当然でしょ?護衛が必要なんだから」
「むー。ネオンは外で番犬。ロッシはワタシの湯たんぽ」
「お待ちなさいお二方。ここは新参者の私が、入り口で『足拭きマット』になりますわ!どうぞ、私を土足で踏みつけて中に入ってくださいまし!」
何故か勃発する寝床争奪戦。
ネオンとサメトナが火花を散らす中、ドロレスが頬を染めて斜め上の提案をしてくる。
「断る。邪魔だ」
「そんなぁ……殺生な……」
俺が即答でドロレスの提案を却下した、その時だった。
ギチチチチッ……!!
不快な摩擦音が闇を切り裂いた。
雪の中から飛び出したのは、透明な刃のような鎌を持つ、巨大なカマキリ型の魔獣「斬蟲」。
リムガルドの領地に近いせいか、現れる魔獣も昆虫じみた異形ばかりになってきている。
「チッ、敵襲か!」
俺が剣の柄に手をかけた瞬間、ドロレスが恍惚とした表情で前に躍り出た。
「私の出番ですわぁッ!!」
何故か武器も持たず飛び出す回復役。
ドスッ!!
案の定、先頭の斬蟲が振り下ろした鋭利な刃が、ドロレスの肩口に深々と突き刺さる。
「はぁ、何がしたいの……キミ」
ネオンが呆れて、仕方なく応戦しようと近づき、驚きの光景を目撃した。
ドロレスの頭の角から「プシュゥゥゥーッ」とピンク色の蒸気が噴き出し、傷口がみるみる塞がっていく。
普通なら肩ごと腕が切断されてもおかしくない一撃。
だが、彼女の改造された肉体は、即座に再生を始めており、その斬蟲の刃をも取り込もうとしていた。
「あぁんッ♥痛い……なんて鋭利で……野性的で……素敵……!」
そんなドロレスは、悲鳴を上げる代わりに、自分を刺した斬蟲の前脚を優しく抱きしめた。
「もっと……もっと奥までぇ……!」
ギ、ギチ……?
魔獣の動きが止まる。
斬蟲からしてみれば、獲物が恐怖するどころか、発情している。本能レベルで「何かおかしい」と察知したのだろう。
魔獣は慌てて刃を引き抜き、完全に戦意を喪失して後ずさった。
ドン引きだ。虫ですら引いている。
「あ、逃げるなー。ご飯ー」
その後、動きの止まった哀れな魔獣は、背後からサメトナによって殻で粉砕され、おやつ感覚で捕食されたのだった。
■ ■ ■
「……とんでもないのを連れてきてしまった」
俺は頭を抱えた。
戦闘は終わった。さっさと寝よう。
俺がテントに入り、寝袋に潜り込もうとした時だ。
ヌッ。
テントの入り口から、血まみれ(修復済み)のドロレスが、四つん這いで侵入してきた。
その瞳はギラギラと潤んでいる。
「ロッシ様ぁ……♥お守りしましたわ……」
彼女は荒い息を吐きながら、ジリジリと俺に這い寄ってくる。
頭の煙突から出る蒸気が、テント内を一瞬でムワッとさせた。
「私、頑張りましたの……。さあ、ご褒美にビンタを……いえ、その靴底で顔面を……」
バサッ
俺は無言で、テントの入り口を閉めた。
下までしっかりと。
「ああっ、せめて罵声をっ!!」




