第24話 「来たか……!国賊ロッシ!!」
スクーティア王国の王都。
その正門前に、俺たちは堂々と姿を現した。隠れる必要などない。コソコソと裏口から入るには、俺たちが連れてきた「絶望」は大きすぎる。
「来たか……!国賊ロッシ!!」
城門が開くと同時に、怒号が飛んだ。待ち構えていたのは、魔導騎士団長ベルドール。彼は数百の精鋭騎士を従え、全身から禍々しいほどの魔力を立ち昇らせていた。
「貴様のような汚物は、この神聖な王都には入れさせん!全員、強化魔法は済んでいるな!?」
「「「応ッ!!」」」
騎士たちの身体が、紫色のオーラに包まれている。
宮廷魔術師キジルによる幻術魔法の支援だ。筋力、反応速度、そして恐怖心の麻痺。本来、俺のような魔法を使えない剣士が彼らと戦う場合、こちらも魔術師による支援があってようやく互角になる。それが戦場の常識だ。
支援のない状態で、強化された騎士団に突っ込むなど、裸で猛獣の檻に入るに等しい自殺行為。
ベルドールは勝ち誇った笑みを浮かべ、自身もまた、通常の騎士の数倍の濃度の魔力で体を包み込んだ。彼の鎧が軋み、筋肉が不自然に膨張する。
「すり潰せ!ゴミ掃除の時間だァ!!」
殺到する数百の刃。地面を揺らす足音。紫色の光が渦を巻き、殺意の塊となって俺たちに押し寄せる。だが。
「……あくびが出るな」
人間を辞めた俺。『金神経化』により性能が大幅に向上した俺の眼には、彼らの動きは止まって見えた。
喚き散らす口元の唾液。振り上げられる剣の軌道。キジルの魔法によって強制的に引き上げられた、不自然な筋肉の収縮。すべてが極限遅延の彼方にある。
(魔性解放を使うまでもない)
「お遊びだ」
俺は一歩踏み出した。
ドォォォン!!
衝撃波が駆け抜けた。俺が剣を抜き、振り抜くまでのコンマ数秒。それだけで、直線上の十名の騎士が、上半身と下半身に分かれて吹き飛んだ。
「な……ッ!?」
ベルドールの笑みが凍りつく。だが、彼は腐っても騎士団長。瞬時に反応し、魔力で強化された大剣を俺の首目掛けて振り下ろした。
「調子に乗るなァ!ただの人間がッ!!」
ガキィィン!!
俺は振り返りもせず、その一撃を左腕の籠手で受け止めた。衝撃で地面が陥没する。だが、俺の腕は微動だにしない。
「ば、馬鹿な……!?キジル様の三重強化を受けた私の一撃を、片で……!?」
「遅い。重い。……話にならん」
俺は冷たく吐き捨て、受け止めた腕を軽く振った。それだけで、ベルドールの大柄な体が、石ころのように後方へ弾き飛ばされた。
「ぐあっ!?」
ベルドールは数名の部下を巻き込みながら地面を転がり、城門の前で受け身をとった。鎧がひしゃげ、口から血が溢れる。だが、彼はまだ死んでいない。魔術による強制的な生命維持と、彼自身のプライドが、彼を立ち上がらせた。
「おのれぇ……!殺す!殺してやるゥゥ!!」
ベルドールが血走った目で咆哮し、再び俺に向かって突進しようとした。その時だった。
「君、うるさいよ♪」
ベルドールの背後に、影が落ちた。ネオンだ。彼女はいつの間に移動したのか、音もなく彼の真後ろに立っていた。
「なっ、貴様いつの間に――」
ベルドールが振り返ろうとした瞬間。
ネオンは武器すら持っていない。ただ、手刀を、ベルドールの顔面に向けて突き出しただけ。
ズブッ。
「あ、が……?」
ネオンの指先が、バターのようにベルドールの顔面を貫通し、後頭部へと突き抜けた。強化された鎧も、魔術による防御障壁も、彼女の指先の前には紙切れ同然だった。
「え……弱」
ネオンがつまらなそうに手を引き抜くと、ベルドールは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。脳幹を破壊された騎士団長、即死。
「団長が……素手で……!?」
「う、わあぁぁぁ!!化け物だァ!!」
残された数百の騎士たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。恐怖心すら麻痺させていたはずの強化魔法が、それを上回る絶望によって打ち砕かれたのだ。
逃げ惑う兵士たちの間を、サメトナだけが「わー、お城だー」と、戦場を散歩するようにウロウロしている。
俺は血振るいをして、開かれた城門を見据えた。邪魔者は消えた。
「行くぞ。本命は奥だ」




