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第20話 「逃げるなよ、隊長サン♡」

挿絵(By みてみん) 

特務部のネオン

 数日後。


 俺たちを乗せたボロ商船は、レクイウム連合王国の領土、アルゴエイムの港に到着した。


 ここは大陸の玄関口。活気ある市場、行き交う人々、そして平和な喧騒。

 かつての俺なら、この光景に安らぎを覚えただろう。だが今の俺には、すべてが色褪せた作り物のように見えた。


「うわー、人がいっぱい!美味しそうな匂い!」


「はぁー。うるさい街。全員斬り捨てたら静かになるかな♪」


 はしゃぐサメトナと、物騒なことを呟くネオン。

 この二人の「劇薬」を連れての旅は、精神衛生上よろしくない。


 俺は早々に馬車を手配し、人目を避けるように街を出て、スクーティア王国へと続く街道を急いだ。


 ■ ■ ■


 道中、日が傾きかけた頃。

 鬱蒼とした森の中で、俺たちは休憩をとることにした。

 馬を休ませるため、街道から少し外れた開けた場所で馬車を止める。


「あーあ、暑い暑い。潮風でベタベタするし」


 馬車から降りたネオンが、いきなりシャツのボタンを外し始めた。


「お、おい!何をしている!」


 俺が慌てて顔を背けると、ネオンはケラケラと笑った。


「何照れてんのさ。戦場で裸なんて気にする余裕ないでしょ?」


 彼女は上着を脱ぎ捨て、晒し巻だけの上半身を露わにする。

 その肢体を見て、俺は息を呑んだ。


 美しい褐色の肌。だが、そこには無数の古傷が刻まれていた。

 剣創、火傷、刺し傷。


 それは彼女が生きてきた戦場の凄惨さを物語る証明そのものだった。

 特に目を引くのは、左脇腹から背中にかけて走る、巨大な斬撃の跡だ。


「……酷い傷だな」


 思わず漏れた俺の言葉に、ネオンは傷跡を愛おしそうに指でなぞった。


「ああ、これ?これはね……ちょっと前に『ヴェナ』って女とやり合った時につけられたんだ」


「ヴェナ?」


「そ。ボクが殺しきれなかった数少ない相手。……強いよ、あいつは。いつか絶対に殺してやるけどね」


 ネオンの瞳に、昏い情熱が宿る。

 彼女の狂気は生まれつきのものだが、その肉体には確かに積み重ねてきた「戦士」としての歴史があった。


「あ、水だー!」


 サメトナの声が響いた。

 茂みの奥に、透き通った湧き水の泉があったらしい。

 彼女は迷うことなく服を脱ぎ捨て、真っ白な全裸になって水辺へと駆けていく。


「ちょ、サメトナ!?」


「おっ、イイねぇ。ボクも浴びよっと」


 ネオンも躊躇なく晒しを解き、下着も脱ぎ捨てて全裸になった。

 褐色の傷だらけの肌と、白磁のように無垢で傷一つない肌。

 対照的な二人の裸体が、夕陽を浴びて艶かしく輝く。


「……俺は馬の番をしている。お前らだけで――」


 俺が踵を返そうとした瞬間、背後から濡れた腕が俺の首に絡みついた。


「逃げるなよ、隊長サン♡」


「うおっ!?」


 ネオンだ。とてつもない怪力で俺の服を剥ぎ取り、泉へと引きずり込む。


「背中流してよ。トモダチでしょ?」


「馬鹿、離せ!おまッ……!」


 ドボォン!!


 抵抗も虚しく、俺は服ごと泉に投げ込まれた。

 冷たい水しぶきが舞う。


「ぷはっ!……お前らなぁ、少しは羞恥心というものを……!」


 俺が顔を拭いながら抗議しようとすると、目の前には、腰まで水に浸かった二人の裸体が迫っていた。


「羞恥心?何それ、美味しいの?」


 サメトナが不思議そうに首をかしげる。水滴が彼女の鎖骨を伝い、豊かな胸の谷間へと流れ落ちる。


 ネオンはニヤニヤしながら、俺の背後に回り込んできた。


「ほらほら、じっとしてなって。洗ってあげるから」


 ネオンの身体が密着する。

 柔らかい感触と、引き締まった筋肉の弾力。

 濡れた肌同士が触れ合う感覚に、俺の心臓――魔族の心臓までもが、ドクンドクンと早鐘を打ち始めた。


(まずい……これはまずいぞ)


 健全な男として、この状況は刺激が強すぎる。

 俺は必死に理性を保とうと目を閉じた。


 だが、身体は正直だ。


「ん……?なんかボクの腰に、硬いものが当たってるんだけどぉ♪」


 ネオンが耳元で囁く。

 その声は、明らかに状況を楽しんでいた。


「なになに?何が当たってるの?」


 サメトナが興味津々で近づいてくる。


「や、やめろ!見るな!」


「んー、よく見えない」


 ザブン。


 サメトナが水中に潜った。

 水面下で、彼女が俺の腰元をまじまじと観察する気配。


「バッ!お前……ッ!!」


 俺が叫ぼうとした瞬間、サメトナがプハッと顔を出した。

 そして、真顔で、とんでもないことを言い放った。


「あー。ロッシ、繁殖期なの?準備できてた」


「ブッ!!!!」


 俺の顔から火が出そうだった。

 繁殖期。あまりにも直接的すぎる。

 彼女には「エッチ」とか「情事」といった概念がない。ただの生殖活動としての認識だ。それが余計に恥ずかしい。


「あーあ、バレちゃった。ロッシ君ってば、ムッツリなんだから」


 ネオンがクスクスと笑いながら、背中からさらに強く抱きついてくる。

 豊満な胸が背中に押し付けられる。


「サメトナってホント野性的だねー。で、ロッシ?キミはボクと彼女、どっちに興奮したの?」


 ネオンの手が、俺の胸板を這う。


「ボクみたいな傷だらけの身体?それとも、サメトナみたいなツルツルの身体?」


「うっ、うるさい……!離れろ……!」


「離さないよ。……ねぇ、せっかくだから試してしてみる?」


 ネオンの吐息が首筋にかかる。

 逃げ場がない。


「あ、ロッシ、顔が赤い!ズルい、ワタシもやる!」


 サメトナが対抗意識を燃やしたのか、正面から抱きついてきた。


「むぎゅ」


「ぐ、ふ……っ!?」


 背後からネオン。正面からサメトナ。

 特務部最強の二人に挟まれ、視界がいっぱいの肌色で埋め尽くされる。

 柔らかい。いい匂いがする。でも殺人的な圧迫感。


「サメトナ、もっと密着しなよ。こうやって」


「こう?……あ、ロッシの心臓、すごい速い」


「だ、だめ……もう……限界……」


 俺の血管が、限界圧力を超えた。


 ブシュウゥゥゥッ!!!


 盛大な音と共に、俺の鼻から鮮血が噴き出した。

 視界が赤く染まり、続いて真っ白になる。


「あ、ロッシが怪我した」


「あはは!情けなーい!」


 二人の笑い声を遠くに聞きながら、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。

 魔族の心臓も、金色の神経も、彼女たちの前では無力だった

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