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【完結】前世で死に別れた忍者に、現代で溺愛婚を申し込まれました  作者: りすこ


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2-3

「そうと決まったらあなたの家に行って、結婚すると宣言してこよう。叔父上は在宅かな?」

「いますが……」

「せっかく花嫁になるんだ。着飾って愛らしくなろうか。君は、磨けばますます輝くタイプだな」


 そう言うと、日向様はわたしの手を握ったまま、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。


(あの……手、つないだままなのですが……)

 

 片手だけ彼の指と絡み合っている。慣れないのに、不思議と嫌じゃなかった。

 そんなわたしを視界に入れず、彼はどこかに電話した。


「お世話になります。ええ、お久しぶりです。今日は近くまで来ていましてそちらにお伺いしたいのです」


 ふっと日向様がわたしを見て、艶やかに笑った。


「俺の婚約者を連れていきます。美しく仕上げていただけますか」

「こっ……!」


(人前で言わなくてもいいのではないでしょうかっ!)

 

 日向様は余裕な笑みを口元に称えたまま、通話を終える。わたしの指を繋いだまま、小首をかしげる。


「さて、初音。行こうか」

「あ、えっと」

「知り合いがいるんだ。そこへ」


 そう言うと、日向様はわたしの手を握り直した。


「恋人らしく腕でも組むか?」

「えっ」

「くくっ。その反応、嫌ではないみたいだな」


 くすくすと笑われて、顔が火照った。さらりと流れるように日向様はわたしの手を引き、自分の腕に絡ませる。彼に近づくと、深みのあるセクシーな香りがした。


(……本当に恋人みたい)


 日向様と腕を組んだまま、事務所を出た。わたしたちを見た伊藤さんは驚き、丸椅子から転げ落ちそうになった。


「ひ、日向様。お嬢様をどうするおつもりで?」

「彼女を保護し、連れて帰ります」

「へっ」

「初音さんのたおやかさに惹かれてしまって」


 くすりと喉の奥で日向様が笑うと、伊藤さんはぽかんとした。わたしは小声で伊藤さんに言う。


「青葉を立て直すために日向様に協力するの。心配しないで」

「彼女の情報には価値があります。だから、俺が守ります」

「それなら……」


 伊藤さんはわたしを見てから、日向様に頭を下げた。


「先代が大事に大事にされていたお嬢様です。どうか、この禿げ頭に免じて、宜しくお願いします」

「……伊藤さん」

「お嬢様、あなたはずいぶん苦労なさった。幸せになっていいんですよ」


 目を潤ませながら言われて、わたしも涙ぐんだ。


「伊藤さん、いろいろとありがとう……」


 わたしは伊藤さんに頭を下げ、スマートフォンを返す。


「ああ、そうだ。もし何か役に立てることがあれば、すぐに連絡をください。私だって元青葉の人間ですから」


 そう言って伊藤さんは、わたしに携帯番号を教えてくれた。


「お嬢様、お達者で」

「……伊藤さんも」

 

 伊藤さんに頭を下げ、日向様と伊藤電機を出た。

 

 日向様は駐車場にレンタカーを止めていて、わたしに助手席に乗るように言った。わたしが座ると、彼は運転席に回った。向かった先は商業施設が多い駅前だ。やがて、日向様はビルの地下駐車場に車を止めた。


「日向家が管理しているビルだ」

「お、大きいですね……」


 ヘアカット、エステ、ブティックなど、一棟まるごと美を追求する会員制の複合施設だそう。


「時間をかけて、磨いておいで」


 日向様に言われ、彼とはロビーで別れた。

 それからが、大変だった。

 美しい女性たちに囲まれ、わたしはあれよあれよという間に磨き上げられていった。

 

 エステでは全身をゆっくりともみほぐされ、気持ちよかった。

 身に着けていた下着は「違うものを試しませんか?」と言われ、体にフィットするものを用意してくれた。

 歪に切られた髪を見ても美容師さんはにこりと笑い「長い髪をカットしませんか?」と提案してくれる。

 

(お母さんが亡くなってから伸ばしっぱなしだったから、切ろうかな)

 

「お願いします」と答え、ミディアムショートにしてもらった。うなじが見えるほど切られると、今までの未練とか、哀しみまでもなくなっていくようだ。

 

 こてを当てられ、黒い髪が軽やかに踊る。鏡の中の自分は自分じゃないみたいに華やかだった。


「短い髪、お似合いですよ」

 

 美容師さんに言われ、胸が弾んだ。


「素敵にしてくださって、ありがとうございます」

「うふふ♡ まだまだ、これからですよ♡」

 

 わたしがきょとんとしていると、次はメイクをしてもらった。

 

 その後、「こちらにお着替えください」と用意されたのは、上質なウールのニットワンピースだった。深い緑色で、肌に触れるところはシルクでできていた。


(着心地がいい……)

 

 外は寒いのでアイボリーのコートを羽織り、靴は足にぴったりの五センチヒールを履いた。仕上げに金木犀の香りを首筋にまとう。


「素敵ですよ」

 

 そう綺麗な女性に言われて、わたしは自分の姿が信じられなかった。

 鏡の中の私は、みじめではなく、華やかで上品。まるで魔法のドレスを着たシンデレラだ。


「これがわたし……」

「はい。おきれいになりましたね。さあ、日向様が待っていらっしゃいますよ」

 

 そう促され、ドキドキしながら彼の元へ行く。


(どう見られるだろう……)


 高鳴る心音のまま、彼に会うと、彼は目を見張ってわたしを見た。薄く口を開いて、無言の時間が続く。


(もしかして、似合わなかった⁉)


 あまりに沈黙が長くて、わたしは小声で尋ねた。


「あの……ご期待に答えられなかったでしょうか……」

 

 そわそわしながら前に組んだ指をいじっていると、彼はとろけるように微笑んだ。


「想像を超えた」

(え……)

「よく似合っている。綺麗だ」

 

 その笑みに胸の奥が、ほっと緩んだ。


「こんなに良くしていただいて、ありがとう存じます」

「気にするな。俺が好きでやっていることだ」

 

 日向様は満足そうにわたしを眺め、恭しく腰を曲げてわたしに手を差し伸べた。


「我が姫、敵城へ乗り込みに行きましょう。私が全身全霊で守って差し上げます」

 

 その古めかしい言葉に、どきっとした。


(まるで景虎みたいな言い方……)


 そんなはずはないのに、彼の真摯な瞳を見ていると、冗談にも聞こえない。

 わたしは雅姫になりきって、声を出した。


「あなたと一緒にいれば、怖いことはございません。連れていって」

 

 そう言うと日向様が小さく息を呑む。でもすぐに余裕のある笑みに代わり、わたしの腰を抱いてエスコートした。


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