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【完結】前世で死に別れた忍者に、現代で溺愛婚を申し込まれました  作者: りすこ


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1-4 side 忍②

「本当に日向様ですのね……テレビでお聞きしたお声と同じです……」


 奥ゆかしくも愛らしい声に、胸の奥が奇妙にざわめいた。


(なんだ、これは……)

 

 もっと声をよく聞きたくて、俺は思わず携帯を耳に押し当てた。


「ああ、テレビをご覧になっていたのですね。私、本人です。ご安心いただけましたか?」

「ええ……とても」

「それは良かったです。夜分遅くにメッセージを送ってご迷惑ではなかったですか?」

「いえ……わたしの方こそ、こんな時間にお電話を差し上げまして申し訳ありません」

「お気になさらず。この時間ではないと会話がままならないことは承知しております」


 俺はよそいきの声を出しながら、慎重に彼女から情報を引き出そうとした。

 

 ところがだ。

 

 彼女の声に意識を奪われ、探りを入れるはずの会話は、いつの間にか素のやり取りに変わっていた。彼女と会話するのが不思議なほど心地よく、気づけば、弱々しい声を出す彼女のことを案じている自分がいた。


「辛い環境に置かれているようですね。あなたの叔父上は、あなたに過酷な労働を強いているのでしょうか」


 電話越しに小さく息を呑む音がした。


「……監視の目は常にあります……」


 諦めたように呟かれた言葉に、思わず眉根が寄った。


「ですがわたしはすべてを見聞きしていました。信じてもらえないかもしれませんが、詳細なデータを記憶しています。その一部に、あなたの会社のことがありましたので」


(……俺と同じか?)


「私も同じく、記憶力には自信があります。だから、あなたの言葉を信じます」

「……日向様もですか……?」

「ええ、友人にはバケモノと呼ばれています」


 喉を震わせて笑うと、電話越しに鈴を転がすように笑う声が聞こえた。


 (声が軽やかだな……どんな容姿をしているんだ)


「一度、お会いしませんか?」

「え……」

「直接、お会いして、話をしたいです」


 言ってから、少し踏み込みすぎたかと思った。

 だが彼女が本当に黒川の内情を握っているのなら、会社のメリットにもなる。

 そして、彼女が理不尽な目にあっているのは、我慢できなかった。


「青葉初音さん、あなたの近くに行きます。場所はどこにしましょうか」


 そう尋ねると、慌てた声がした。


「き、来ていただくなど……そのようなことまでしていただくわけには……」


 困ったような可愛い声が聞こえ、つい口角が上がった。


「――なぜ?」

「なぜって……日向様はお忙しいでしょう? 会社は東京と存じ上げておりますし……」

「近々、東海地方に行く用事があります。その時にお会いしましょう」

「それでしたら……場所は……」


 彼女は恐縮しながらも、凛とした声で言った。


「伊藤電機店へ来ていただけますか。この電話は伊藤さんのものです……」

「SNSのアカウントに使われていた場所ですね。承知いたしました。では後日、連絡いたします」

「……ありがとう存じます。おやすみなさいませ」


 小さく言われた挨拶に、くすりと笑みがこぼれた。


「おやすみなさい。青葉初音さん」


 そう言うと、相手が通話を切るまで、耳に電話を当てていた。

 無音が妙に名残惜しくなりながら、携帯を閉じた。

 携帯をデスクの引き出しにしまって、椅子に体重を預け天井を仰いだ。

 しばらくの間、彼女の声が脳にこびりついて離れなかった。


「青葉、初音……」


 名をつぶやいて、体を起こす。

 デスクに置いてあった個人用のスマートフォンを持ち、若林にメッセージを送った。


 ――明日から東海地方に行く。朝一の会議に出た後、すぐに出発する。


 深夜だというのに、返信はすぐ来た。


 ――は? 深夜に何言ってんだ。さっさと寝ろ。


 苛立った文面を前に、すました顔で返信を打った。


 ――重要な会議は二日後だろ? 一日、休みを取る。


 メッセージを送ると、白い熊が『しっかり休めよ!』と怒り狂っているスタンプが送られてきた。そんな反発に笑いながら、スマートフォンを閉じる。

 

(若林はなんだかんだ言って、俺がいなくても調整するだろうな)

 

 俺は再び椅子に深く腰掛け、明日からの東海地方行きに思いを馳せた。

 彼女はどんな女性だろうか。

 容姿を想像したとき、不意に――。

 

『景虎……景虎』

 

 姫が俺を手招く声が聞こえたような気がした。

 

 中学生から繰り返し見ていた夢の声だった。

 俺は忍者で景虎(かげとら)と名乗り、(みやび)と名乗る姫を一心に愛していた。

 

 忍者といえば、手裏剣を投げ天井を走るものだと思っていたが、実際は違った。忍者はその時代の危機管理のスペシャリストと思える職だった。そして主への忠誠心が異様に高かった。

 

 実際、景虎は優秀だった。賢かった。だが、爪が甘かった。

 愛する女をみすみす死なせる選択をしたんだからな。

 

(俺ならもっとうまくやる。いいや、俺なら絶対に、彼女は死なせない)


 彼らの切なく甘いラブストーリーを夢で見るたび、腹の底から怒りが湧いたものだ。そんな反骨精神を抱く夢をなぜ今、思い出したのだろう。


「あれは夢だろう……」

 

 そう自分に言い聞かせて、俺は椅子から立ち上がった。


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― 新着の感想 ―
あの記憶術は転生者ならでは!?最強のカップルになりそうですね……
メッチャワクワクする( ˘ω˘ )
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