11 エピローグ 一年後 side 忍
最終話です!スナック菓子をポリポリする気軽さで、評価をお願いします!
初音と結婚してから一年後――。
俺は何度もスマートフォンの画面を確認していた。
初音のメッセージが来ていないか確認しているが、彼女からの返事はまだ来ない。
――大丈夫だったか?
そうメッセージを送ろうとして、やめた。
五分前にもしたばかりだからだ。
車で急いで家に向かっているところだが、やはり心配なものは心配なんだ。
「社長」
「なんだ」
「渋滞に巻き込まれました」
「――は?」
「初音さんに少し遅くなると連絡してみたらいかがですか?」
(人が急いでいるときに……!)
どうして道が混んでいるんだ。
「走るか、若林」
「十キロ爆走する気ですか。落ち着いてください」
「落ち着いていられるわけがないだろう! 今日は――!」
若林に怒鳴っていると、ピコンとスマートフォンからメッセージが届く。初音からだ。俺は食い入るようにそのメッセージを見た。
――産婦人科に行ってきました。今、八週目だそうです。
そう控えめな言葉と共に、エコー写真が送信される。
黒い胎内の中に、ぼんやりと小さな丸い命がうつっている。
それを信じられない気持ちで見ていると、初音からメッセージがまた届いた。
――忍さん、赤ちゃん、いましたよ。
にっこり笑顔のマークが語尾に付いていて、それを見た瞬間、目の奥が熱く痛くなった。思わずスマートフォンを固く握りしめ、額につけて目を固くつぶる。息を震わせながら、こみあげる思いをなんと返そうか考えた。
だが、何も出てこない。熱い涙がこぼそうになるばかりだ。
「社長、返事あったんですか?」
若林がいつもの調子で尋ねる。それに「ああ」とかすれ声で返事した。
「よかったですね。おめでとうございます」
少しだけ柔らかい声で、若林はそう言った。
結局、初音には「お疲れ様、すぐ帰る」とだけ返事をして、家に着いた。まだ感極まる心が落ち着けないまま、だが、早く彼女に会いたくて足を早める。
家に着くと、初音が微笑みながら待っていた。
瞳が潤んでいる。
もしかしたら、初音も俺と同じ気持ちなのかもしれない。
彼女を見た瞬間、俺は彼女のそばにより、新しい家族と共に抱きしめた。
体温が、確かに腕の中にあった。
やっと、この時がきた――。
そう思った。
家族を抱きしめながら、俺は涙の向こうに景虎の姿を見た――――。
――――景虎は君主の命じられるまま、戦い抜いた。
そして、すべてが終わる頃、ひとりで雅姫の姿を探した。
崖の下を探し回り、ようやく雅姫の姿を見つけた。
雅姫の体は、苔むして自然に還っていた。
彼女に贈った鈴が錆びて音を出さなくなったのを見た瞬間、景虎は己を呪った。
なぜ、誰にも看取られず、彼女はここで眠らねばならなかったのか。彼女は、こんな結末のために生まれてきたわけではない。
雅姫の前で熱い涙を流しながら、それでも景虎は自分がやったことを報告する。
「姫様、戦は起こりませんでした。あなたが命を賭けて、民を守ったんです」
報告を終え、もういいだろうと景虎は思った。
役目は終えた――と。
「姫様、私の体もあなたのそばにいかせてください」
魂は彼女に差し出した。
ここにあるのは抜け殻となった体だけだ。
緑に染まった彼女を抱きしめ、次こそ彼女と共にありたいと願う。
再び輪廻の中で出会えたのなら、そのときは、自分のすべてを駆けて彼女を生かそう。
そう誓いを立て、景虎は自分に向けて脇差を振るい上げた――――。
――――そして今。
再び出会った彼女は、俺の腕の中にいる。
小さな命をその身に宿して、確かな鼓動を打っていた。
こんなにも幸せなことがあるだろうか。
景虎と共に俺は、熱い涙を流す。
声なき声をあげ続ける景虎を感じながら、かつての自分に語りかけた。
――景虎、安心しろ。これが本当の結末だ。
お前の後悔を抱き込んでなお、俺は家族を守ろう。
ここはお前がつないだ未来だ。
だから、俺たちは幸せになると約束しよう。
そっと彼女から離れ、もう一度、その顔を見つめた。
涙越しに微笑みが見え、俺も微笑みながら胸のうちを言葉にした。
「……俺は幸せだ。ありがとう」
そう心から告げると、最愛の人は目を細めて、満面の笑みを見せてくれた。
(完)
<主な参考書著>
・習志野青龍窟 著 「忍者の技術 解剖図鑑」 エクスナレッジ (2025)
・建築知識 2023年9月号 和風住宅全史
ここまでお読みくださって、ありがとうございましたー!




