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【完結】前世で死に別れた忍者に、現代で溺愛婚を申し込まれました  作者: りすこ


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7 溺愛婚を申し込まれました

 忍さんが玄関の扉を閉めた。

 音もなくロックされたのを見送り、わたしは手を前に組んだ。


(今日はいってきますのキスがなかったな……)


 甘い触れ合いが、今朝はなかった。彼はわたしに対して申し訳なさそうで、あれほど近かった距離がひと晩で遠くなった。

 

 わたしは覚悟したことだったし、昨晩の出来事に後悔はない。なかったことにしないけど、彼を責めもしない。そう思ってごくごく普通にしようと思ったのに、彼の方はあの夜は過ちと思っていそうだった。


(幸せだったのにな……)


 それがどうやったら伝わるのだろうと悶々と考え込んでしまった。

 振り返るとわたしは忍さんに与えられているばかりだ。

 わたしが彼に差し出したものは、ささやかな情報と、わたし自身だけ。

 ふと首に下がるネックレストップを触る。

 

 ――リン。

 音を鳴らしながら、このままではいけないと思った。


「わたしも忍さんを大切にしないと」


 態度だけでは伝わらなかったのもしれない。

 いてもたってもいられず、わたしはカナちゃんにメッセージを打った。


 ――カナちゃん。忍さんのプレゼントを選びたいです。付き合ってくれませんか?


 そう送信して三分後、ドアベルが鳴った。

 

 あまりの早さにびっくりしてドアホンを覗くと、ポニーテルを揺らしながら満面の笑顔でOKサインを出すカナちゃんが見えた。

 それにほっとして、わたしはドアを開いた。


 

 ***



 その晩、忍さんの好物で食卓を飾り、彼の帰りを待っていた。


(プレゼントも用意した。カナちゃんに聞いて、忍さんの好きな日本酒も用意した。ばっちりなはず)


 ドキドキしながら、彼の帰りを待つ。そわそわして落ち着かなく、居間をうろうろしてしまう。何度も準備のチェックをして待っていると、ピコンとスマートフォンが鳴った。

 画面を見ると忍さんから『もうすぐ着く』とメッセージが来ていた。

 わたしは『お疲れ様です。お待ちしています』と返して、ほっと息を吐く。


「よし、大丈夫。大丈夫よね」


 自分に言い聞かせて、玄関へ行く。

 ドアが開かれるのを今か今かと待っていた。

 

 やがて車が止まる音がして誰かの話し声が聞こえてくる。忍さんと若林さんみたいだ。わたしは口を引き結んでドアを見る。

 音もなく静かに開かれたドアの先に、愛しい人を見つけた。


「おかえり……なさいませ」


 笑顔で迎えようと思ったのに、彼の姿に驚いて言葉が途切れた。


「ここで、待っていてくれたのか……」


 朝と同じくどこか弱々しい声で、彼はわたしに小さく微笑んだ。


「はい……早く、顔が見たくて」


 するりと言葉を言うと、彼が苦しそうに顔を歪ませる。ぎこちない笑みと相反して、彼の手には赤薔薇の花束があった。

 これから鮮やかに咲き誇るであろう花が十二本。


「この花……」

「初音に。ここで渡してもいいか」


 差し出された花束を両手で受け取る。可愛らしい花の姿に、胸の奥がきゅっと熱くなる。


「……ありがとう存じます」


 感謝を込めて見上げると、彼が少し笑った。


「着替えてくる」

「夕ご飯の支度をして待っています」


 花束を抱えてわたしは居間に、彼はコートを脱ぎにクロークへ行く。

 テーブルに薔薇を飾ると雰囲気がいっそう華やかになる。それを幸せに思いながら目を細めていると、和装に着替えた彼が居間にやってきた。

 テーブルの上を見て、穏やかに眉を下げる。


「……これはご馳走だな」


 わたしは彼を見上げて、はにかんだ。

 彼はわたしの横に正座すると、こほんと咳ばらいをした。何か大事な話しそうな空気を感じて、わたしも正座をして向かい合わせになる。


「初音、昨晩は悪かった」


 突然、頭を下げた彼に驚いて、声を上げそうになる。しかし彼はすぐ顔を上げ、わたしを制するように軽く手をあげた。


「初音が嫌ではなかったと分かっている。これは、俺のけじめだ」


 そう言って、彼は深く息を吐くと、飾られた赤い薔薇に目を向けた。わたしも自然に薔薇に目を向ける。そうしていると、名を呼ばれた。彼を見ると真剣な目と視線が絡まる。


「初音、俺と結婚してくれないか」


 その一言に息が止まるかと思った。

 彼は切なく微笑ながら、わたしに告げる。


「夢がどうであれ、今の俺が選ぶのは初音だ。

 そして俺は……君に、選ばれたい」


 その眼差しは、誰よりもわたしが大切だと言っていた。

 胸の奥が苦しくなる。


(この人は、本当に……)


 どこまでもわたしの気持ちを優先してくれる。

 とても強い人なのに、わたしに選択させてくれる。


「わたしが……選んでいいんですか」


 泣きそうになりながら、静かに話すと彼はぐっと喉を詰まらせ、低い声で言い切った。


「――当然だ」


 迷いのない言葉に涙がこぼれ落ちそうだった。

 どこまでも誠実な黒い瞳を見ながら、わたしは目尻の涙をぬぐいながら立ち上がる。


「少し、お待ちください……」


 そう言って軽く頭を下げ、キッチンに行く。食事の後に渡そうと思ったプレゼントの袋を取った。

 それを両手に抱えて彼のところに戻り、浴衣をさばきながら正座をする。

 彼の前に贈り物を置き、指で軽く押して差し出した。


「これは……」

「忍さんへの贈り物です」


 目を見張る彼を見ながら、わたしは左手を床につけ、次に右手を置き、八の字にすると、ゆっくり頭を下げて座礼をした。


 リン――。

 鈴の音を鳴らしながら、わたしは彼に最愛を捧げる。


「プロポーズをお受けいたします。末永く、あなたのそばにいさせていただきます」


 顔を上げて、幸せですと伝わるように微笑む。

 忍さんは一瞬目を伏せ、それからゆっくりと背筋を正した。

 わたしと同じように手をつき、深く座礼をする。


「こちらこそ、末永くよろしく頼む」


 顔を上げた彼は、少し泣きそうな顔で微笑んでいた。


「共に、季節を廻ろう」


 それはどんなプロポーズよりも胸に響いた。

 春は桜を見上げ、夏は蝉の声を聞き、秋は銀杏が落ちる中を歩き、冬は肩を寄せ合いたい。

 そんな日々が、彼と共にやってきそうだ。

 

 きっとわたしは何度もこの夜を思い出すだろう。

 

 テーブルに飾られた赤い薔薇。その先に見える日本庭園。

 静寂の中にも、彼の笑みがある。

 

 すべてが、忘れがたい記憶だった。




 

エピソード16の答え合わせはここで。

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「共に、季節を廻ろう」 これもいつかパクります!
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