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【完結】前世で死に別れた忍者に、現代で溺愛婚を申し込まれました  作者: りすこ


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3-5

 日向様の家は顔認証機能付きで、家の前に立つと自動でドアが開いた。ドアを閉めると、自動で施錠された。

 ハイテクな仕様には、まだ慣れない。

 

 わたしはさっそく持ってきた割烹着に袖を通し、キッチンに立った。広々とした夢のようなキッチンだ。料理のしがいがある。


 ワクワクしながら、わたしは戸棚にあった土鍋を使って、お米を炊いた。肉じゃがとだし巻き卵、きゅうりの和え物を作った。


「うっまそー!」

 

 料理を並べると、カナちゃんが歓喜の声を上げた。わたしも嬉しくなって「どうぞ、召し上がれ」と言う。


「あ、日向に写真、送って自慢しよっ」

 

 カナちゃんはスマートフォンを取り出して、写真を何枚も撮った。そして器用に両手の親指を動かして、メッセージを送信する。

 

「よしっ。食べよ」

「う、うん」

 

 カナちゃんと横並びになり、ライトアップされた日本庭園を眺めながら食事をする。景色がいいと、目の前の料理が一段と美味しく感じる。

 

「くうう、うっめー!」

 

 カナちゃんが喜んでものすごい勢いで食べてくれる。それにクスクス笑っていると、カナちゃんのスマートフォンがピコンと鳴った。

 カナちゃんは箸を箸置きに置くと、スマートフォンを手にして「ぶっ」と噴き出した。

 

「どうしたんですか?」

「くくくっ。日向のやつ、めっちゃ嫉妬してる」

「え?」

 

 カナちゃんはにやにやしながら、スマートフォンを見せてくれた。そこには日向様からのメッセージが表示されていた。


『なぜ、お前が俺より先に初音の料理を食べているんだ。俺の分は?』


 パッと内容が頭に入って、鼓動がどんどん早くなっていく。


(わたしの料理、食べたがってくれるんだ……)


 嬉しさをそっと隠していると、カナちゃんがにやにやしながらスマートフォンを操作した。


「ないよーって、返事してやろっ」

「えっ。あ、日向様が帰ってきたら、作ります!」


 咄嗟に言うと、カナちゃんがメッセージを打ち終わって、歯を見せて笑った。


「なら、そう打ったら? ほら、スマートフォン」

 

 スマートフォンを渡され画面を見ると、メッセージが進んでいた。


『全部、オレが食べた』

『は?』

『日向は今日、帰ってこないだろー。残念だったなあ』

『……覚えてろ』


 怒りがこもったメッセージが来ている。


(わあ、わああっ)


 わたしは慌ててメッセージを打った。


『初音です。こんばんは。日向様が帰ってきたら料理を作ります。』


 打ち込むと、すぐさま返事が来る。


『初音? カナタ、初音のふりしてるのか?』

 

 どうやらわたしだと信じてもらえないらしい。


「日向のやつ、疑ってんなー。そうだ。写真送ってやろー」

 

 カナちゃんはわたしからスマートフォンをひょいと取り上げると、わたしの肩に腕を回してきた。びっくりしたけど、スマートフォンを持ったまま腕を伸ばして「笑って!」と言われてしまった。

 シャッター音もなく写真が撮られ、カナちゃんが撮れた写真を見せてくれる。


「うん。可愛く撮れた」

 

 満足そうに笑って、カナちゃんはメッセージを送った。するとピリリッと電話の着信音が鳴った。


「電話?」

「うん。もしもしー。どうしたー。え? なんでそんなに怒ってるんだ? こっわ。はいはい、初音ちゃんに代わるよー。日向からだって」

 

 カナちゃんからスマートフォンを渡され、耳につけた。


「……もしもし」

「ああ、初音か」

 

 ほっとしたような低いくぐもった声が聞こえ、ドキドキが増した。

 

「カナタと買い物を楽しんできたようだな」

「はい……とっても楽しく過ごしました」

「……そうか。言い忘れていたが、カナタはああ見えて男だ」

「――え?」

 

 わたしは思わずカナちゃんを見た。ポニテールの可愛らしい女の子が、にぱっと笑っている。


「おとこのひと?」

「女装が趣味だ」

「……な、なるほど」

「だからな。……あまりカナタとベタベタするな」

 

 かすれたような声が聞こえ、一瞬、何を言っているのか分からなかった。ただ心臓の音が大きく弾む。


「カナタも男なんだ。……俺は、嫌だ。あいつは距離をぐいぐい詰めてくるから」

「え? なになにー? オレのこと?」

「きゃっ!」

 

 急にカナちゃんが、じゃれつくようにわたしに抱きついてきた。思わず悲鳴を上げると、日向様の怒鳴り声がスマートフォンから響く。


「おい、カナタ! 初音に何してんだ!」

「えへへ。初音ちゃんとハグしてんの」

「あぁ?」

「オレと初音ちゃん、仲良しだもん」

「……後でぶっ飛ばす」

「そんなに怒んなって。仕事終わらせて、さっさと帰ってくればいいじゃん。じゃーな」

「あ、――おいっ!」

 

 カナちゃんはピッと一方的に通話を切ってしまった。


「日向の奴、ちょう慌ててるな」

 

 カナちゃんは楽しそうだけど、わたしはポカンだ。

 

「日向様、お仕事、大丈夫でしょうか」

「大丈夫だって。あんなに元気なんだからさ」

 

 カナちゃんはにっこり笑って、ちょっぴり冷めた肉じゃがをほおばる。

 

「……カナちゃんは、本当に男の人なんですか?」

「そうだよ。性別は男。でも、男とか女とか、あんまり気にしてないかな。自分が好きな格好してるんだ」

 

 そう言うカナちゃんはキラキラしているように見えた。


「成人したし、もう自由でいいっしょと思ってさ。好きにしてる」

 

 わたしの中には存在しなかった発想だった。大人になったから、自由。


(わたし、自分が、我慢すればいいと思っていた)

 

 カナちゃんの考えは、素直に羨ましかった。


「……カナちゃんの考えいいですね。今の格好もとってもお似合いです」

 

 そう笑うと、満面の笑みが返ってくる。


「初音も自由でいいんだよ。大人なんだし!」

「えっ」

「初音はさー。自分の気持ちとか我慢しすぎだと思うな。もっと自由でいいんだよ」

 

 それはわたしの心に爽やかな風を吹かせた。頬が緩んで、はにかんでしまう。

 

「わたし、自由でいたいです」

「だろお! そうこなくっちゃな! オレ、初音だったら、ずーっと一緒にいてもいいな」

「え……?」

「長くいてよ。もっともっと一緒に遊ぼう」

 

 カナちゃんの笑顔は、ありのままのわたしを受け入れてくれているようだった。

 

 男の人だと知って驚いたけれど、カナちゃんはカナちゃんだった。


「わたしも長くここにいたいです」

 

 早く出なくちゃと思っていたけど、その焦りはカナちゃんの笑顔と共にほぐれていった。


 ご飯を食べて、カナちゃんは帰ってしまった。また明日も来てくれるらしい。しかもカナちゃんと若林さんは向かいの家に住んでるそう。

 

「まったなー!」

 

 元気に手を振って、カナちゃんは帰っていった。

 静まり返った部屋に、ぽつんとひとりになった。寂しく感じると思ったが、そんなことはなかった。


 中庭の日本庭園が幻想的でいつまでも見ていられる。足元の床暖房は指先をじんわりあたためてくれる。人の気配がないのに、ここでは孤独を感じなかった。


「不思議だな……」

 

 誰かの目を気にすることがない生活が、こんなにも心を楽にするとは。

 二十三年も生きてきたのに知らなかった。

 わたしは伸びをして、ベッドルームに行った。

 

 朝は整える暇がなかった荷物を紐解く。両親の位牌を取り出して、ベッドの横のチェストの上に置かせてもらう。日向様が帰ってきたら、どこに置いていいか、聞いてみよう。

 ふたりに手を合わせ、今の報告をした。

 

「住み慣れた家じゃないけど、わたし、元気よ。安心してね。青葉を取り戻すから」

 

 優しかった両親の顔を思い出し、ぐっと胸の奥が熱くなる。

 こっちに来てから、わたしは涙もろくなってしまったらしい。目尻に溜まった涙を指で拭い、ふたりに微笑かけ、本棚に目を向けた。

 

 壁一面が棚になっていて多種多様な本が並んでいる。興味津々で近づいて、ある書籍たちに目を留めた。

 

「忍者?」

 

 そこにあったのは忍者関連の書籍だ。歴史、忍術、今年発売された図解まである。


「お借りします……」と呟いて、図解を手に取った。愛嬌のある忍者のキャラクターが忍者とは何かを解説してくれている。

 

(影虎が言っていた『古法十忍』の意味が載っている!)

 

 わたしは、頭の中に流れ込んでくる情報を夢中で整理した。よく分からなかった単語に解説が付いて興奮しながら、あっという間に読んでしまった。


「まだある……」

 

 次は活字ばかりの本だ。出版年を見ると、九年前に出版された本らしい。それは忍者の兵法が書かれていて、のめり込むように読んだ。


「実際の忍者は術を唱えてドロンと消えるものではない……そうね……景虎も消えたり、がまがえるになったりしなかったわ……」

 

 知らなかった忍者の世界に触れて、ふと思う。

 あの時、景虎は何を感じて過ごしていたのだろう。雅姫から見た景虎はいつも優しく、穏やかで正義感にあふれた人だった。読み終わったあと、まだある本に首をひねる。

 

「日向様も忍者が好きなのかしら……?」

 

 そうだったら嬉しい。共通点ができたみたいで、胸が温かくなる。わたしは笑顔で本を読みふけった。


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― 新着の感想 ―
ここまで拝読しました。 土鍋でご飯とか、今どきの女の子にはあまり無い初音ちゃんの日本人的な奥ゆかしさ、でも色々と目覚めていく過程、芯は強いところ、魅力的ですね。 日向さんの溺愛スピードがすごくてニヤニ…
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