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【完結】前世で死に別れた忍者に、現代で溺愛婚を申し込まれました  作者: りすこ


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3-2

 食べ終わると、食洗機の使い方を日向様から教わった。これがまたすごい。

 さっと皿をすすいで洗剤を入れれば、勝手に食器を洗ってくれる。

 

「金をかけているだけだ」と、彼は言うがわたしから見れば、お金のかけ方が異様だった。社長とはそこまで金銭的に、ゆとりがあるのだろうか。

 素敵だと思うよりも、恐縮してしまう。

 まだここに住むという実感がないまま、わたしは契約の話を尋ねた。わたしが覚えているデータは、どう扱えばいいのだろうかと。

 

「ああ、今日はいい。ゆっくり休んでろ」

「……でも」

「日向家の社訓で、プライベートが充実していない者は、いい仕事もできない――というのがあるんだ」

「はあ……」

「午後から出社してくる。初音の護衛を呼んだから、頼るように」

「そこまでしていただかなくても……」

「なぜだ? セキュリティは万全にした方がいいだろ? 初音は特別なんだからな」

 

 言い切られ、きっとわたしの持っているデータが大事だからだろうと思った。そう頭では分かっても、なぜか胸の奥が落ち着かなかった。

 自分の感情に名前を付けられず、首を傾げていると、彼は一枚のブラックカードをわたしに手渡した。


「護衛と一緒に必要なものを買ってくればいい」

「えっ」

「ん? 上限額は設定していないぞ?」

 

 淡々と説明され、カードを持つ手がプルプルと震えた。

 

「こ、怖くて、使えそうにないのですが……」

「我慢して使うんだ。スマートフォンは俺のを貸す。口座を開設するまでの間だけだ」

 

 次は白いスマートフォンを手渡された。


「好きなように使っていい」

「スマートフォンって……何台も持てるものなのですね……」

「仕事で必要なだけだ。それに、初音。君は無一文だろ?」

「ぐっ……」

 

 そうだった。日向様がいないと生活ができない。


「ああ、いい方が悪かった。そんなに震えるな」

「……いいえ。反論の余地もありませんから……」

「今は、という意味だ。君の資産は取り戻す」

 

 日向様は淡々と説明してくれた。


「君は青葉氏の一人娘で、ご両親の資産は全て君のものだ。後見人と名乗る他人が住んでいるが、本来、彼らの方が居候なんだ」

 

 彼の笑みには、凄みがあった。


「弁護士を立てて、取り戻す。君の権利と一緒にな」

 

 かっと燃えるように胸の奥が熱くなった。


「……ありがとう存じます」

「気が引けるというなら、資産を戻したら俺に請求すればいい。それなら遠慮なく使えるだろう?」

 

 そうは言ってくれるが、これは彼の配慮だ。何も持たないわたしに戦うための武器をそろえてくれている。


「青葉の不正を公にするために、君を個人的に雇うよ。おっと。時間だな」

 

 時計を見た彼は着替えるために出て行ってしまった。わたしは改めて手渡されたカードを見つめる。艶のない黒いカードだった。


「クレジットカードってどうやって使うんだろう……」

 

 持ったことも、使ったこともなかった。

 本当にわたしは何も知らなさすぎだ。

 

「……落ち込んでいる場合じゃないか」

 

 くよくよしたって解決しない。今は生活を整えることに集中しよう。わたしも着替えをするために、ベッドルームに戻った。


 やがてドアベルが鳴り、スーツに着替えた日向様が、ドアホンのボタンを押す。

 

「今、開けた。入ってきていいぞ」

 

 そう言うと、しばらく経ってから扉を開く音がして、バタバタと軽快な足音がした。

 

 居間にひょこっと顔を出したのはポニテールの可愛らしい女の子だ。わたしと目が合うと、猫のように目を細め、ニヤリと笑う。そして廊下に向かって、大声を出した。


「兄貴! 日向の彼女、やっぱり清楚な小動物系だったぞ!」

 

 溌剌とした声がして、続いて音もなく廊下を歩いてきたのは、スーツ姿で眼鏡をかけた男性だった。男性はわたしを見ても、無表情だった。


「……確かに、清楚系だな」

「だろ! へへん。オレの勝ちだな! はい、千円」

「後で払ってやる」

 

 嘆息して男性を見ていると、日向様がふたりに近づいていった。


「なんだ、賭けでもしてたのか?」

「そうだよー。日向が女の子を住まわせるっていうから、どんなの子なのか賭けていたんだー」

「緊張感のない奴らだ」

 

 くつくつ喉を震わせて日向様は笑い、わたしに向き直った。


「初音、紹介する。こっちの眼鏡は、俺の秘書の若林だ」

「眼鏡と紹介された若林凛太郎(わかばやしりんたろう)です。社長とは大学からの付き合いです」

「……お世話になります」

 

 礼をすると、ポニテールを振りながら女の子がわたしに近づいてきた。

 

「オレは若林カナタ。カナちゃんって呼んでな」

「あ、カナ……ちゃん?」

「うんうん。アンタは初音だろ? 初音ちゃんって呼んでもいいか?」

「ええ。お好きなようにお呼びください」

「えへへ。じゃ、初音ちゃん。オレが護衛だ。宜しくな!」

 

 無邪気な笑顔に戸惑いつつ、握手を交わした。


「カナタは馬鹿に見えるが、腕の立つ護衛だ」

「あ、馬鹿はひどいじゃん」

「馬鹿じゃなくて、頭が悪いだけです」

「兄貴! ここぞとばかりに、のっかるなよ!」

 

 カナちゃんが頬を膨らませる。表情が豊かな方だった。

 一華に似ているんじゃないかと身構えたけど、そんなことなかった。カナちゃんはとてもしぐさが可愛らしい。


「社長、そろそろ時間です」

「ああ、そうだな。じゃあ、初音、行ってくる」

 

 日向様が、わたしを見て微笑む。


「買い物、楽しんでこい。今日は遅くなるから、先に寝ていてくれ」

 

 ぞくりとする色香を帯びた声だった。わたしは「はい」と小さな声で返事をした。

 日向様と若林さんを玄関で見送ると、カナちゃんが「きししっ」と笑い出した。


「日向、初音ちゃんにデレデレじゃんっ」

「え?」

「あんなに甘い顔した日向、初めて見た」

「……そうなんですか?」

「そうそう。日向ってわっかりやすいから。関心のない女を相手している時は、目が笑ってない」

 

 ぱちぱちと瞬きをしていると、カナちゃんが満面の笑みで言った。


「初音ちゃんって、日向に好かれているんだな!」

 

 ストレートな言葉に、顔がぽぽぽと火照った。日向様と親しい人に、そんな風に言われてしまうと意識してしまう。わたしを見るあの瞳は、契約を越えているんじゃないかって。


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