表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】前世で死に別れた忍者に、現代で溺愛婚を申し込まれました  作者: りすこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/36

プロローグ

新連載です!

溺愛忍者(現代)です!

宜しくお願いします!

「――景虎(かげとら)、あなたは生き残りなさい」

 

 わたしは背後に切り立つ崖を指し示しながら、覚悟を決めて言いました。上忍(じょうにん)の景虎はわたしの前で(ひざまず)き、すぐさま声を張り上げました。

 

「姫様! 姫様の帰還を殿もお待ち申し上げおります。諦めずに共に参りましょう! この景虎、姫様を守り抜く所存」

 

 懇願するような眼差しをされましたが、わたしの心はすでに定まっておりました。

 

「なりませぬ」

 

 そして、彼から視線を外し、流れるように前を見据えました。不気味なほど夜空を赤く染めた森が広がっておりました。叔父の率いる賊は刻一刻(こくいっこく)と迫り、もはや時間もなく、抗う術もございません。

 

「そなたひとりならば、この崖も苦無(くない)を使って降りられるでしょう。密書を父に届けなさい」

「しかし、姫様!」

「なんのために、叔父の元に潜伏していたと思っているのです。すべては戦を起こさせぬため。緑豊かな、この地を守るためではないですか?」

 

 わたしは口元に微笑を浮かべ、景虎を見ました。


「景虎、あなたは上忍。宿願(しゅくがん)を果たしなさい」

 

 景虎は己の無力さを堪えきれないのか、跪いたまま拳を地面に叩きつけました。

 

 わたしは一向に動かぬ景虎に近づき、両手で彼の顔を包み込みました。左目の下にある泣きぼくろが涙で濡れております。景虎を失いたくないと強く思いながら、わたしは彼に微笑みました。


「……わたしの最後のわがままです。どうか、叶えて」

 

 彼は声を殺して涙を流しておりました。わたしを惜しむその雫が愛おしく、この人に出会えて本当に良かったと思いました。

 

 ひとしきり彼のぬくもりを確かめ、そっと離れようとした、その時でございます。わたしは彼に力強く抱き返されました。


「姫様……あなたの望みを叶えます。だから、俺の願いも叶えてください」

 

 景虎はわたしから離れると、涙に濡れた顔をわたしに近づけました。怯えるように震えた唇が、わたしの唇に触れます。

 

 それは、一瞬の触れ合いでございました。

 

 しかしながら、わたしにはこの上ない幸福に満たされたひとときでございました。景虎と口づけを交わすなど、夢にも見なかったことでございますから。


「俺の魂はここに置いてゆきます」

 

 景虎がわたしから離れ、再び跪きました。涙で濡れた熱い眼差しで見上げられ、わたしの心臓が高鳴りました。そこまで捧げられたら、わたしも心の内を吐露したくなるというもの。わたしは涙を堪えきれず顔を歪ませながら、彼に深愛を捧げました。


「なら、わたしの魂を連れていって」

 

 景虎がまた、瞳から涙を頬に滑り落とします。わたしも声を上げて泣きとうございますが、口づけの余韻に浸る時間は残されておりませんでした。背後では人の声が近づいてまいりますから。わたしは未練を振り切るように前を向きました。


「景虎、行きなさい! 決して、後方を振り返ってはなりません!」

 

 そう叫ぶと、後方でじりじりと土を踏む音がして、彼の気配が消えました。


 彼が行ってくれた安堵と、今生の別れで胸が押しつぶされそうです。でも、わたしは振り返りませんでした。逃げもいたしません。賊を足止めしなければなりませんから。

 

 やがて、松明(たいまつ)を持った賊たちが森を焼かんばかり現れました。

 まあまあ、たくさんおりますこと。娘ひとり捕らえるのに、ずいぶんとご丁寧ですわね。


(みやび)! 逃げ惑うのもここまでだぞ!」

叔父上様(おじうえさま)、ごきげんよう」

「はっ、その強りがりはいつまで持つかな。お前が盗み出したものを出せば、命だけは助けてやろう。抵抗すればその身がどうなるか……分かっているだろう?」

 

 じり、じりと抜き身の剣を構えた賊たちが、わたしに迫ってきます。それを見ても、わたしは恐れを抱きませんでした。むしろ小賢しいこと、と心の中で嘲って差し上げましょう。

 

「わたしは蘆水(あしみず)家が娘! お前たち如きに奪われるものは何ひとつない!」

 

 わたしは着物の帯に仕込んでおいた小脇差(こわきざし)を抜き放ちました。

 リン――と鞘に巻きつけていた鈴の音が鳴ります。

 その涼やかな音を聞きながら、刀を首元に向けました。


 誰かの手にかかるくらいならば、自ら散ってみせましょう。


 それはさほど恐ろしいことではございません。

 わたしの魂は景虎が持っていてくれました。

 ここにあるのは抜け殻となった体だけでございます。

 

 景虎ならば父上に書簡を届け、無法者どもを成敗してくれるでしょう。

 無用な血は流れず、この地はあるべき姿のまま。

 誰よりも彼を信じておりますわ。

 

「お前たちの計略は、わたしの命と共に終わる。余生はないと、怯えるがいい!」

 

 わたしは艶やかに笑いながら、小脇差を振り上げました。


「それでは皆々様、ごめん遊ばせ」

 

 命が尽きるとき、景虎のことを思いました。

 わたしの最愛の人。

 叶うならば、次の世では、共に生きとうございますわ――――。



 


 ――――そんな夢を見て、わたし、青葉初音(あおばはつね)、二十三歳は目を覚ました。

 

 ある時から、何度も見ている夢だ。時代劇のような世界なのに妙に現実味があって、景虎のことを思うと涙が出てくる。雅姫の思いが今も胸の奥に残っているみたいだ。

 

 乱れた呼吸を整えて、重いまぶたを開ける。周囲を見渡すと、そこはかび臭く、薄暗い物置だった。


 両親の位牌(いはい)が寂しそうにわたしを見ている。

 物言わないそれに、わたしは強がって言った。


「心配しないで。わたし、まだ大丈夫よ」


 そう言ったものの、わたしの声は虚空に溶けていく。


「お父さんたちが守りたかったものを、守りたいわ。……そのためにも、叔父さんには会長の座を引いてもらわないと」


 ふたりに手を合わせて、立ち上がる。

 どれほど虐げられても、わたしにはやるべきことがある。


 叔父の不正を公にしたい。

 ――雅姫のように。


 彼女の気高さが心の支えだ。


 でも、わたしには味方が少ない。


 景虎みたいな人も、いなかった。



12時、20時に更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ