第六十四話 「被害報告と支援願い」
豪雨から五日後。
宗高は角田からの被害報告書を胸に、仙台城へと向かった。
本丸御殿の大広間。
そこに座すのは、
齢を重ねつつも瞳に鋭さを宿す伊達政宗、
そして、若くして家中を束ねる忠宗。
宗高が深く頭を下げると、
政宗は扇子を軽く持ち上げた。
「面を上げよ、宗高。
角田の様子、聞かせい。」
宗高は静かに報告書を差し出した。
「阿武隈川の氾濫により、
角田・丸森・川崎・七ヶ宿など南部領内に広範な被害が出ました。
田畑百二十町歩が水没、
家屋の倒壊多数。
幸い死者は少のうございますが、
生活再建に迅速な支援が必要にございます。」
忠宗が眉をひそめる。
「百二十町歩……。
南部領全体に、これほどの傷が……。」
宗高は頭を下げたまま続けた。
「蔵王会は現在、
炊き出し、仮住まいの設営、
田畑の泥出しなどに当たっております。
しかし……人手・物資ともに限りがございます。
なればこそ――」
宗高は深く、深く頭を垂れた。
「仙台本藩としてのご支援、
伏してお願い申し上げます。」
しばしの沈黙。
政宗は報告書を手に取り、
じっと目を通した。
扇子を閉じ、
低くつぶやくように言った。
「南部の地は……古より川に悩まされてきた。
されど、これほどの被害は久しい。
宗高、そなたは夜通し救助に当たったと聞く。
よう務めた。」
宗高はかすかに首を横に振った。
「皆の働きがあってこそ。
私は……ただ、導いたに過ぎませぬ。」
政宗はふっと笑い、扇子を膝上に置いた。
「導きすらできぬ者が、この世には多いものよ。」
忠宗が続く。
「宗高。
南部領の治水は、いま伊達の家にとって急務だ。
角田の者たちの多くが命を落とさずに済んだのは僥倖。
だが、次の豪雨ではより大きい被害になる可能性もある。」
忠宗の声は鋭いが、温かさを秘めている。
「南部領の復旧、我も全力で支える。
必要な物資、人員を申せ。」
宗高は即座に答える。
「まず、
米五百石の支援、
工事人足三百人、
そして……」
忠宗が促す。
「なんでも言え。」
宗高は一歩踏み出し、頭を深く垂れた。
「どうか、阿武隈川・白石川治水のため
本藩直轄の“御普請”として事業を認めていただきたい。」
広間に驚きの声が走る。
蔵王会主導の一地域計画ではなく、
藩全体の事業として扱えという意味だ。
ざわめきを受け、政宗が手を上げて制した。
「よい、静まれ。」
政宗は、鋭い眼光で宗高を射抜く。
「宗高よ……。
そなたは大きなことを言う。」
宗高は頭を下げたまま、一言も発しない。
政宗はしばらく黙し、
やがて深く、重々しくうなずいた。
「――よかろう。」
大広間が静まり返る。
「阿武隈川治水を“伊達家御普請”として認める。
仙台本藩の威信をかけ、再びあの川を従わせよ。」
忠宗も笑みを浮かべ、続けた。
「宗高。
そなたの願い、我ら父子が預かった。
南部領の復興は、伊達家全体の誇りよ。」
宗高は震える声で言った。
「……御恩、生涯忘れませぬ。」
政宗は宗高に歩み寄り、肩へ手を置いた。
「しかし勘違いするな。
そなたが頼もしいゆえ、助けるのだ。」
ふっと口元に笑みを浮かべる。
「南部領は、そなたの背にかかっておる。
頼んだぞ。」




