第六十一話 「牟宇姫」
蔵王会・青葉会の合同評定から数日後。
宗高は、政宗からの命を受けて角田へ向かった。
角田城下は、阿武隈川を抱える豊かな地であり、
新たな新田開発と水運の要地と見込まれていた。
角田城に着いた宗高を迎えたのは、母を同じくする
妹・**牟宇姫**であった。
「兄上……。
仙台でのご昇進、おめでとうございます。」
かつて共に育った日々を思わせる、柔らかな笑顔。
宗高はふっと肩の力を抜いた。
「牟宇……元気そうでなによりだ。
宗昭殿とは、うまくやっているか?」
牟宇姫は恥ずかしげに頷いた。
「はい。
宗昭様は角田の地の行く末を常に案じておられます。
兄上のお力を、とても喜ばれています。」
宗高はその言葉に耳を傾けながら、
妹が角田に嫁ぎ、立派に家を支えている姿に静かな誇りを覚えた。
角田城の主、**石川宗昭**は、
伊達家家中でも穏健で、土木・農政に明るい人物であった。
宗昭は宗高を迎えると、礼を深くしながら言った。
「宗高殿。
蔵王会と青葉会の再編は見事でしたな。
角田も、この流れに遅れぬよう動かねばなりませぬ。」
宗高は率直に切り込んだ。
「宗昭殿。
角田の課題は、阿武隈川の治水と新田開発。
加えて米を江戸へ流すための水運の整備……。
これらは一つの策として動かすべきかと。」
宗昭は机上の古地図を広げた。
そこには阿武隈川の蛇行、浸水地域、砂洲の位置が細かく記されていた。
「この川は恵みも多いが、
ひとたび豪雨となれば田畑を呑む“暴れ川”です。
しかし……河岸を整え、水門を設ければ、
角田は伊達領屈指の米どころとなりましょう。」
宗高と宗昭の目が合う。
「――では、共に取り組むといたしましょう。」
二人の握手が、角田の未来を大きく動かした。
翌日より、宗高と宗昭は早速現地を視察した。
農民たちが鍬を振るい、若い者は川沿いを測量する。
牟宇姫は村の女衆に声を掛け、炊き出しを担っていた。
「兄上。
村人たちは、新田が拓ければ皆、食に困らずに済むと……
皆、とても喜んでおります。」
宗高は妹の横顔を見つめる。
「牟宇。
この地は、お前が守り育てているようなものだ。
我らができることは、その後押しにすぎぬ。」
牟宇姫の目には、涙が光った。
宗昭は、阿武隈川の流れを見つめながら宗高に語った。
「川幅を広げ、天端の低い箇所を土塁で補強する。
さらに上流に堰を設けて水量を調整する……。
伊達家が本気で取り組めば、必ずや成る策です。」
宗高は深く頷いた。
「ここ角田の地は――米の生産地の柱だ。
舟運が整えば、荒浜新港へ直通し、
それはそのまま江戸への供給路となる。」
宗昭は目を細めた。
「……宗高殿。
兄妹の縁ばかりでなく、
角田と村田、そして伊達の未来を繋ぐために、
我らは互いの力を尽くしましょう。」
「いかにも。宗昭殿とは同い年同士、これからもよしなに頼みますぞ。」
こうして角田の新田開発と阿武隈川の治水は、
伊達領の大計の一つとして進み始めた。
これを機に、親交を深め互いに信頼しあい協力していくのだった。




