閑話「父政宗の思い」
仙台城・本丸御座の間。
蔵王会・青葉会の正式発足式を終え、人払いがされた静かな座敷に、宗高だけが呼び戻された。
畳に落ちる障子越しの光は夕陽に赤く染まり、政宗はその前に立っていた。
背を向けたまま、静かに口を開く。
「宗高——」
声は低く、だがどこか親しみが含まれている。
「そなたの働きで、江戸は救われた。
だが…世はただ恩を喜ぶばかりではない。
僻み、嫉み、思惑——この政宗でさえ、すべてを払いきれぬ」
宗高が静かに膝をつく。
政宗は振り返り、その片目に柔らかな光を宿した。
「覚えておけ。
——力を持つ者は、必ず矢面に立つ。
ましてや、わしが守ろうとする者なら尚のことよ」
政宗は宗高の前に歩み寄り、肩に手を置く。
「ゆえに、そなたの敵は、
そなた自身ではなく——この政宗であると思え」
宗高は驚きに息を呑む。
政宗は微笑した。
その笑みは豪胆でありながら、どこか温かさを持つ。
「良き働きをする者ほど、わしの名と結びつけられる。
よいか宗高、そなたは伊達家の誇りだ。
だが、その誇りを守るのは家中の務め。
そなたはただ——己が信じる道を進めばよい」
宗高が深々と頭を下げると、政宗は静かに付け加えた。
「…宗高。
蔵王の加護を持つ男が、世の小賢しい策に怯えるでない。
わしがいる。忠宗も、成実も、重長も、皆がおる」
そして政宗は、ふっと小声で囁く—
「——だから、遠慮せずに暴れてこい。
そなたが動けば、伊達は動く。
その時、天下はきっと面白いことになるわ」
宗高は胸に熱を抱き、深く頷いた。
夕陽が傾き、障子に映る政宗の影が長く伸びる。
その影は、宗高にとって確かな支えの象徴となっていた。




