第五十八話 「二つの翼」
村田城の政務部屋にて、宗高は帳簿の整理をしていた。
村田・白石・亘理・柴田・角田・丸森・川崎・七ヶ宿──
八ヶ所を結ぶ新しい流通網の地図が机に広げられている。
その時、早馬が駆け込んだ。
「殿! 仙台城より急ぎのお達しにございます!」
封には政宗の紋。
宗高はすぐに開封し、目を走らせ──
息を呑んだ。
「蔵王会を藩直轄の南部統括組織とする……
さらに北部にも“青葉会”を設け、
南北二翼として伊達家の産業を担わせる……!」
文面には、
宗高個人の組織としてではなく、
“伊達家全体の繁栄を見据えた制度”として
再編される旨が明確に記されていた。
宗高の胸に、安堵と責務が同時に湧き上がる。
福地右近、赤坂兵部、結姫らが集まり、
宗高は政宗からの書状を読み終える。
「……これでもう、蔵王会は今までの南部領内一つの力ではない。
南部八ヶ所を束ねる“南の翼”となり、
北部には“青葉会”という、もう一つの翼が生まれる。」
「おお……! ついに村田の仕組みが藩の制度となるのですね!」
「殿のお働きが、多くの人を救い、道を開いた証にございます。」
宗高はそっと首を横に振る。
「いや……皆の働きあってのことだ。
今後は、むしろここからが本当の始まりだ。」
その目は、静かに燃えていた。
数日後──
仙台城の大広間には、
南北から主だった領主、家老らが勢揃いしていた。
壇上には政宗、
脇には忠宗、成実、片倉重長が並ぶ。
そこに宗高が進み出る。
ざわめきが広間を満たした。
政宗は立ち上がり、
ゆっくりと皆を見渡す。
「今日この日を以て──
伊達南部の商い・医療・産業・流通を束ねる“蔵王会”、
伊達北部の新たな柱となる“青葉会”を発足させる。」
広間にどよめきが起きる。
「宗高が江戸を救った働きは確かに見事であった。
しかし、これは宗高一人の功にあらず。
南部領内の地力、
そして蔵王の恵みを分かち合う皆の力があってこそ成ったものよ。」
忠宗
「これより蔵王会は南部の共同組織として、
青葉会は北部の共同組織として、
互いに手を取り、伊達家の国を豊かにする柱となる。」
片倉重長と成実が前に進む。
重長
「蔵王会は村田城を本拠とし、
南部の産業・商い・医療・学びをまとめる。」
成実
「青葉会は登米を中心に、
北部の材木、馬産、米、漁業を束ねる。」
政宗に促され、宗高が一歩前に出る。
「皆の衆──
蔵王会は村田だけのものではない。
南部の村々すべてのもの。
いや、伊達家すべての未来を担うものだと思っております。」
「私は、ただ人が病で倒れぬ世を願い、
村が飢えぬ仕組みを作りたいと動いたに過ぎませぬ。
だが、それがこのような形となったのは……
皆が信じ、支えてくれたからです。」
宗高の言葉に、
会場のあちこちで涙ぐむ者さえいた。
政宗が高らかに宣言する。
「南の蔵王会、北の青葉会──
二つの翼を得て、伊達は天高く飛ぶであろう。
今日ここに、正式に発足を宣言する!」
家臣たちは一斉に頭を下げ、
南北の代表たちは拳を握りしめてうなずいた。
蔵王と青葉。
南と北。
宗高と忠宗、そして伊達家。
伊達領は今、かつてない規模の“二つの翼”を手に入れた。
その瞬間が、
仙台城の静かな石垣に響き渡った。




