第五十七話 「経済網再編」
政宗・忠宗・片倉家・成実の密談を経て──
蔵王会はついに **“藩直轄”として再構築される”**運びとなった。
宗高は村田で新制度の草案を仕上げていたが、
その裏で重長と成実は既に南部領の有力者へ密かに根回しを始めていた。
柴田、角田、丸森、川崎、七ヶ宿──
村田の周囲を囲む五つの地は、
従来から農産・林産・水運の要を担う地域である。
そこに蔵王会の流通・医療・産業の仕組みを導入すれば、
“伊達南部の経済圏”は一挙に整う。
蔵王会の幹部となった福地右近、佐々木甚兵衛、浜田清十郎らが各地をまわり根回しをし、組織の柱となる文書・帳簿の仕組み・医療と産業の配備を進めた。
重長が言う、
「村田を中心とするだけでは限界があります。
南部を支え合う網を張らねばなりませぬ。」
対して成実は、
「川崎の山林、七ヶ宿の水、各地を繋ぐ街道の整備……
それぞれが蔵王の恵みを繋ぐ。
これを束ねれば、伊達はさらに強くなる。」
◆南部五ヶ所の協議
各地の領主、家老たちが村田へ招かれ、
福地右近が事業の説明を行った。
「蔵王会は、薬草、果樹、商い、医療、そして人の往来までも含めた
“南部共同の商会”となります。
皆で利益を分かち合い、皆で支え合う仕組みです。」
領主たちは驚き、そして興味深そうに頷いた。
「病の時に村田の医者が来てくれるというのか」
「道や川が整えば荷も早く届くな」
「荒浜新港から江戸へ直に出せる……?」
宗高が江戸で築いた信用は、
この場でも確かに生きていた。
ある日、大型の決定は仙台城で行われることとなった。
政宗・忠宗、成実、片倉重長、そして
北部領(岩出山・登米・涌谷・一関など)の領主・家老らも召集された。
広間には緊張が走る。
南部に続き、北部でも同様の仕組みを導入できるか──
それが議題であった。
政宗が口火を切る。
「南部での蔵王会の再編は順調だと聞く。
村田・柴田・角田・丸森・川崎・七ヶ宿……
いずれも順調進んでいるようだ。」
重長が報告を続ける。
「商家の巡回、医療隊の派遣、街道の補修、
それらを“組織”として動かせば、負担も少なく成果も早い……。
これは北部でも応用できます。」
北部の領主は警戒と期待が入り混じった表情で言う。
一関の家老は心配そうに言う、
「南部は宗高殿の地の利がございます。
北部でも同じようにいくものか……?」
その時、忠宗が力強く言葉を発した。
「宗高一人に背負わせるつもりはない。
伊達家全体の事業とするゆえ、
北部にも各地の強みを生かした“会”を設けるのだ。」
政宗もうなずいた。
「北部には北部の道がある。
山からの材木、馬産、米、津軽への街道……
それらを束ねる“北の蔵王会”を作ればよい。
宗高が南部で示したのは、その雛形に過ぎぬ。」
成実が続ける。
「北部の名前は“青葉会”とでもすると良い。
南部の蔵王会と対をなす、伊達の二つの翼だ。」
北部の領主たちは顔を見合わせ──
やがて一人が静かに言葉を漏らした。
「……やりましょう。
南部がこれほど栄えるならば、北部も遅れは取れませぬ。」
会議の空気が柔らぎ、方向が定まった。
政宗は席を立ち、
会議の総意をまとめ上げるように言った。
「よいか。
蔵王会も青葉会も、伊達家全体の力として扱う。
そのための直轄であり、拡大である。
この仕組みはやがて、伊達百年の礎となろう。」
忠宗も深く頷く。
「南北が手を取り合ってこそ、伊達の国が形を成す。
父上、必ずや成功させましょう。」
成実は笑い、重長は静かに頭を下げた。
こうして──
蔵王会は南部の共同商会として再編され、
北部にも新たな“青葉会”が生まれる方針が固まった。
伊達領は、かつてない規模の経済網を
ついに手に入れようとしていた。




