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伊達政宗の七男に転生?!転移?!         ~伊達宗高伝~  作者: 榊原ヨッチロ
第一部 伊達政宗の七男宗高

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第五十二話 「灯火の柱」

 江戸の夜は、静寂に包まれていた。

救援活動が続く中、宗高は疲労の極みに達し、横になった途端に意識を落とした。


その瞬間——


冷たい風が吹き抜け、

闇の中に青白い光が揺らめき始める。


宗高は夢だと気づきながらも体を起こした。

目の前には、深山の霊気をまとった巨大な影が立っていた。


青い炎をまとい、険しい相貌そうぼうのままに慈悲を内に秘めた存在。


蔵王権現が顕現したのである。


宗高は思わず膝をつき、額を地につけた。


「——宗高」



雷のようであり、深き谷底の響きのようでもある声が、宗高の胸奥を震わせる。


「そなた、よくここまで民を救った」



その言葉は温かい。しかし、続く声には厳しさが宿っていた。


「だが、そなた一人では……いずれ身が裂け、魂が磨耗しよう」




宗高の肩が震えた。

自分自身、限界に近いことを痛感していた。


「しかし、我が止まれば救える命が——」



蔵王権現の光が一段と強くなった。


「命を救うとは、“そなたが倒れぬこと”もまた含まれるのだ」



宗高ははっと息を呑んだ。


蔵王権現は続ける。


「江戸の町にも修験の道を歩んだ者、加持祈祷を学んだ僧がいる。

彼らを疑うな。彼らを導け。

そなたの力を“柱”として、周囲を束ねよ。」



青い炎が宗高の胸に触れる。


「そなた一人が光となるのではない。

多くの灯火ともしびを集め、大きな明かりとせよ——」



その言葉と共に光が爆ぜ、宗高は息を呑んで目を覚ました。


汗が額を伝い、胸には未だ温かな霊光の感覚が残っていた。



翌朝、宗高は意を決し、僧侶の寺を訪ねた。

先日申し出をしてきた僧侶が迎え入れ、宗高の姿を見て驚いた。


宗高は深く頭を下げた。


「先日の申し出、受けさせていただきたく思う。

私ひとりでは……皆を救いきれぬ」




僧侶は驚きと安堵の入り混じった表情で頷いた。


「宗高殿……! 必ずや力となりましょうぞ」



その日の午後、寺の本堂に修験者や僧たち八名が揃った。

山伏装束の者、念珠を指に巻いた僧。


宗高は静かに目を閉じ、彼らに語り掛けた。


「我らは、蔵王権現の慈悲のもとに集った。

力を合わせ、病に苦しむ者たちを救いたい。」




修験者のひとりが問う。


「祈祷の作法や力の扱い、我らは宗高殿に従えばよろしいか?」



宗高は頷き、蔵王権現の言葉を伝えた。


「我は“柱”となる。

皆はその灯火として、祈りの力を重ねてほしい。」


僧たちは深く合掌し、修験者たちは大きく息を吸い込んだ。


「宗高様のお導き、しかと受け賜ります。」



その夜から、養生処では八名の祈祷が同時に行われるようになった。


宗高が中心に立ち、

修験者たちは護摩を焚き、

僧たちがで経を唱え、

複数の祈りが“ひとつの力”となって集まっていく。


宗高が祈祷を行うときの負担は劇的に軽減され、

祈りの効果はより広く、より深く、江戸市中に広がり始めた。


病に伏していた者たちが次々と回復し、

武家も町人も、宗高とその協力者たちに頭を垂れる。



宗高を柱として始まった祈祷は、日を追うごとに大きな力を帯びていった。

宗高が祈りを捧げるその背後で、修験者たちは護摩木を焚き、炎が天へと昇る。僧たちの読経は波のように広がり、養生処の空気は凛とした霊気に満ちていく。


薬草茶の香り、薬膳粥の湯気が静かに漂い、

人々が次々に運び込まれるたび——

祈祷と看護が淡々と、しかし確実に繰り返された。


やがて、ひとり、またひとりと、目を開く者が現れ始めた。


「……息が、楽に……」

「熱が……下がった……」


弱々しい声であっても、生の響きを持つ言葉。

看護に当たっていた女衆は目に涙を浮かべ、僧たちは静かに合掌した。


それは宗高だけの力ではない。

皆の祈りと手が重なり合った結果であった。



祈祷の成果が広まると、江戸の武家屋敷から次々と礼の使者が訪れた。


病に伏せっていた家臣が起き上がったと知ると、ある旗本は宗高の前に深々と頭を垂れた。


「宗高殿……このご恩、家門の宝といたします。」




普段は誇り高い武家たちが、膝をつき、額を畳に擦りつけた。


「蔵王会の皆々のおかげで、家が救われました」

「この恩を忘れませぬ。必要なものがあれば何なりと……!」


そう言って米、材木などを惜しみなく差し出す者もいた。

中には、祈祷に参加したいと願い出る若侍まで現れた。


宗高は丁重に頭を下げつつも、心のどこかで権現の言葉を思い出していた。


——多くの灯火が、そなたを支えよう。


その通りになりつつあることを、宗高は静かに噛みしめた。




江戸の町々でも回復者が増え、蔵王会につながる道すがら、町人たちが手を合わせる姿が増えた。


「宗高様、ありがとうございます!」

「蔵王会の方々のおかげで、うちの母も……!」

「配っていただいた薬草茶、確かに効きました!」


薬膳粥の炊き出し場に列を成した町人たちは、

食器を返す際に、

「ありがてぇ、ありがてぇ」と涙ぐみながら手を合わせた。


宗高が通りを歩くと、自然と人の輪が開き、

子どもたちは「蔵王さまのお手伝いする!」と笑顔を見せた。


不安と死の影で覆われていた江戸が、

少しずつ、人の温かさを取り戻していく。



病が最も激しかった地区では、

かつて閑散としていた通りに、

小さな商店の暖簾が再び掛けられ始めた。


職人の槌音が響き、商家が活気を取り戻し、

行き交う人の声に明るさが戻りつつある。


「今日は暖かいなぁ……」

「ほんに、ありがたいことだ」


そんな他愛のない会話が流れ始めることこそ、復興の兆しであった。


幕府からも使者が来て、

養生処の設置と活動についてねぎらいの言葉が届く。


宗高は夜空を見上げ、

いつもより低く見える江戸の月を眺めながら静かに呟いた。


「蔵王権現様……江戸は必ず、立ち上がりましょう」



その胸に、僅かだが確かな希望の灯火が揺れていた。


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