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伊達政宗の七男に転生?!転移?!         ~伊達宗高伝~  作者: 榊原ヨッチロ
第一部 伊達政宗の七男宗高

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第五話 「黒影の笹丸」

 春の陽が村田の屋敷に差し込んでいた。

 梅が香り、山の雪もようやく溶け始めた頃。

 黒前掛け組と黒脛巾組の協働によって、領内は目に見えて活気づいていた。


 そんな折、宗高は庭に一人の影を呼び寄せた。


「笹丸。近う寄れ。」


 忍び装束のまま現れた笹丸は、静かに膝をつく。

 その動きは無駄がなく、風のように軽やかだった。


「此度の街道整備、そして商路の護衛、見事であった。お前がいなければ、味噌も塩も仙台には届かなかったろう。」


「恐れ入ります。しかし、我らは影。光の中では消えるものにございます。」


 宗高は微笑を浮かべた。

 その眼差しは穏やかで、どこか寂しげでもあった。


「影があるからこそ、光は形を持つ。

 お前のような者がいて、俺は領主でいられる。」


「……宗高様。」


 笹丸は、少しだけ顔を上げた。

 宗高の言葉には、飾りも打算もない。

 その誠実さが、笹丸の胸を強く打った。


「笹丸。」


「はっ。」


「黒脛巾組の鷹丸からだ。

 ――お前を、俺の側に置きたいそうだ。」


「……側に、でございますか?」


「うむ。黒前掛け組と黒脛巾組、両方を繋ぐ“橋”が必要だ。

 お前のような者にこそ、俺の傍で風を読んでもらいたい。」


 笹丸は息を呑んだ。

 忍びにとって、“主の傍に仕える”とは名誉であり、死を意味する。

 命を預け、常に影として生きるということだ。


「宗高様。それは、我が命を捧げる覚悟を問うことでございますか。」


「違う。」

 宗高はゆっくりと首を振った。

 春の風が髪を揺らし、声が柔らかく響く。


「俺はお前に、命を預けたい。

 忠義ではなく、信頼で繋がりたいのだ。」


 笹丸の胸が熱くなった。

 忍びとして生きてきた彼にとって、

 “信頼”という言葉は、最も遠いものだった。


 戦場では裏切りも嘘も日常だった。

 だが、宗高の目には一片の疑いもない。


「……宗高様。

 我が刃、この身、この影、すべて貴方に預けます。

 陽が沈もうと、貴方の光を見失いませぬ。」


「うむ。ならば、これを。」


 宗高は懐から一枚の布を取り出した。

 黒前掛け組の象徴――黒い前掛けだ。

 だが、それには小さく「影」の字が縫い込まれている。


「黒前掛け組と黒脛巾組、二つの印を重ねた。

 お前は今日から、“黒影くろかげ”の笹丸だ。」


 笹丸はその布を両手で受け取り、額に当てた。

 忍びが誓いを立てるときの仕草――それは命を捧げる証。


「笹丸、御命に従い、光と影の境を守りましょう。」


 宗高は立ち上がり、笹丸の肩に手を置いた。

 掌の温もりが、笹丸の心に深く沁みた。


「これからは俺の目となり、耳となれ。

 そして――迷ったときは、俺の味噌を味わえ。

 味が濁っていれば、俺もまた迷っているということだ。」


 笹丸は微笑んだ。

 忍びである自分が、こんなにも心を許せるとは思わなかった。


「……承知いたしました、宗高様。

 味が濁らぬよう、風のごとく見張りましょう。」


 宗高が頷く。

 その背後を春の風が撫で、笹丸の黒装束を揺らした。

 光と影が、ひとつの庭に溶け合うような静けさが広がっていた。


---


 こうして笹丸は、宗高の“影の護衛”として仕えることになった。

 彼は以後、宗高のそばに常に控え、黒前掛け組と黒脛巾組の橋渡しを務める。

 村田の発展の裏には、必ず笹丸の影があったという。


 そして人々は後に語る――

 「村田には、光を支える黒き影がいた」と。

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