第四十七話 「江戸からの急報」
秋の風が村田の山里の木々を揺らす頃、宗高は蔵王薬草果樹園の整備に目を向けていた。
結姫は雪王丸をあやしながら、薬草の干し場を見守っている。
「殿、今年の“白蔵草”は出来が良うございます」
「うむ、これなら薬草茶の増産もできよう。日本橋店の売れ行きも良いそうだ」
その時であった。
「殿!! 江戸より早飛脚が参りました! 危急との事です!」
駆け込んだ家中の者の声は切迫していた。
宗高が立ち上がると、息を切らせながら巻紙を差し出した。
「江戸・蔵王会の大沼庄太郎殿からの急報にございます!」
宗高はすぐに封を切る。庄太郎の端正な筆で、しかし震えるような文字が記されていた。
『宗高様
江戸にて、流行り病の兆しが見え始めました。
ここ数日、町人の間に喉の腫れと高熱、倦怠の症状が散見され、
医師たちは、最初に症状を訴えた者の名から、“八重熱”と囁いております。
まだ大騒ぎには至っておりませぬが、
市中の薬種問屋は薬草茶と薬酒を求め、当店に殺到しております。
しかし、このままでは在庫は数日ともたぬ見込み。
どうか村田より薬草茶、薬酒、生葉を、
一刻も早くお送り願えませぬか。
症状は京の疱瘡とは異なりますが、
宗高様の知識こそ、この危機を救う道と存じます。
江戸の町は、不穏でございます。
どうかご決断を――。
大沼 庄太郎 拝』
宗高は書状を読み終えると、すぐ右近と蔵王七翼を呼び集めた。
「右近、状況は看過できぬ。江戸で流行り病が広がれば、
商いどころか江戸の町そのものが危うい」
右近は真剣な表情で頷いた。
「庄太郎殿の文面……ただ事ではありませぬな。
症状からすると、呼吸を弱らせる熱病か」
日下十蔵が記録帳をめくりながら言った。
「宗高様、過去の文献では“喉熱”と呼ばれた病に似ております。
水気と空気の悪い場所で広まりやすいと」
「江戸は人口が多い。広がれば一気だ」
宗高は眉を寄せる。
疱瘡から京を救った時の記憶がよぎった。
自身には蔵王権現の加護がある――
だが江戸の民を守るためには、知恵と準備が必要だ。
「……よし、すぐに動く」
宗高の声は強かった。
「菅野権七、“白蔵草”を採取する者を集めよ。乾燥したものと、生葉と両方だ。
有見勘平は船の準備を急ぐ。蔵王丸に積めるだけ積んで江戸へ送る」
権七と勘平が力強く頷く。
「清三郎、薬草茶と薬草酒の在庫を洗い出せ。足りぬ分は急ぎ増産を手配せよ」
「承知!」
「十蔵、症状の記録をまとめて送る。江戸の医師が役立てよう」
「すぐに書き上げます!」
右近が一歩進み出る。
「宗高様も江戸へ向かわれますか?」
宗高はしばらく考え、静かに答えた。
「……庄太郎が“兆し”と書いたということは、
まだ広がる前に手を打たねばならぬ、ということだ。
私は蔵王権現の加護を受けている。
この力は、人々を救うためにある。
仙台の父上に事の次第を急ぎ送ろう」
その言葉に、家臣たちの表情が引き締まる。
「殿……!」
「私は江戸へ行く。
だが、村田と蔵王の仕事は止めぬ。
皆の力を借りるぞ、蔵王七翼!」
「はっ!!」
声が城中に響いた。




