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伊達政宗の七男に転生?!転移?!         ~伊達宗高伝~  作者: 榊原ヨッチロ
第一部 伊達政宗の七男宗高

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第四十六話 「庄太郎の奮闘」

 江戸・日本橋。

 蔵王会の新店が開かれてから、十日余りが過ぎた。


 大沼庄太郎は、朝の光が差す店先に立ち、深く呼吸を整えた。


「……今日も勝負の一日だな」


 庄太郎はもとは村田の商家で帳付から身を起こした叩き上げの男だ。

 勤勉と倹約を身上とし、さらに宗高の改革に触れて大きく視野が開けた。

 右近から店を任されたあの日、胸の奥で何かが燃え始めた。


「この江戸で……必ず蔵王会を一番の店にしてみせる」


 そう誓った。



 だが最初の数日は混乱の連続だった。


 蔵王丸で送られた商品は、どれも質がよく珍しい。

 そのため、想定を超える客が押し寄せ、手代たちはてんてこまい。

 庄太郎自身も、商談と品出しと棚卸しで片時も座れなかった。


「庄太郎さん! “結いの紅”がもう残りわずかです!」


「薬草酒を求める客が裏まで並んでおります!」


「この酒の銘は何というのだ? 試飲はできるのか?」


 声が次々と飛び、庄太郎は息をつく暇もない。


「千吉、裏から追加を運べ!

 伊助は客の案内を頼む。薬草酒は試飲を一杯まで、客を待たせるな!」


 庄太郎の声は大きく、しかし落ち着いていた。


 ――江戸は戦場。

 品も人手も限りがある。

 だが、ここを乗り切らねば蔵王会の名は立たぬ。


 庄太郎は休むことなく動き続けた。




 やがて、江戸の名だたる商人たちが来店し、商談の席を求めるようになった。


「庄太郎殿、この“薬草茶”を百箱仕入れたい。いかほどで売ってくれる?」


「百箱はありがたいが……品質維持のため、一度に大量には送れません。

 代わりに、ひと月に二十箱を五ヶ月続けて納めましょう」


「なんと、回し売りか……うむ、悪くない。よし、それで契約しよう」


 客の希望に迎合しすぎず、だが断らず。

 丁寧に、だが商売としては妥協せず。

 この絶妙な駆け引きこそが、庄太郎の真骨頂だった。


 さらに、庄太郎は客の言葉を細かく書き留めていった。


「薬草酒の“香りをもっと強く”か……これは村田に戻すべき要望だな」

「干し果実の追加の味も求められている……右近様と相談しよう」


 江戸の声を村田に返す――

 それが商務方の務めである。



 ある日、江戸でも名の通った酒問屋の主・中村清兵衛が訪れた。


「庄太郎殿、ここの酒……“峰雪の雫”とやら、なるほど噂に違わぬ。

 わしの知る限り、この香りは江戸にはない」


 庄太郎は静かに応じた。


「ありがたいお言葉です。ですが、これは村田の蔵人と、蔵王の水の賜物。

 まだまだ良い品をご覧いただけます」


「ほう……ますます興味が湧くわ。

 この酒――江戸城の台所方へ納めることを考えているが、手を貸してくれるか?」


 庄太郎は一瞬だけ考え、すぐに答えた。


「清兵衛殿が取り計らってくださるなら、これ以上の機会はありません。

 ですが、峰雪の雫は大量生産ができません。

 代わりに、季節ごとの“限定酒”を企画してはどうでしょう?宗高様へは、私の方から限定酒の相談をしてみます。」


「限定……酒だと? 面白い!」


 こうして、庄太郎は江戸城に品を届ける道筋まで作りつつあった。



 夜。

 皆が寝静まったあと、庄太郎は一人、帳場で灯りをつけた。


「……今日も品が足りぬ。

 だが、村田は村田で忙しいはず。こちらで出来る工夫はすべてやらねば」


 丁稚たちへの指導も怠らない。


「品の説明は短く、分かりやすく。

 味を語るのではなく、どう使うかを伝えろ。

 “買ったあとを想像させる”のが商いだ」


「はいっ!」


 若い者たちの目が輝くたび、庄太郎は笑みを浮かべた。

 ――これは宗高様が教えてくださった姿勢だ。

 “人を育てよ、人が育てば地は豊かになる”と。


 その精神を江戸で実践していた。




 やがて、店の前に並ぶ人の中には武家の姿も増えた。


「これが“蔵王養生茶”か。主のお気に入りでな」


「薬草酒を二瓶。母がよく眠れると申しておる」


 品は売れ、評判は立ち、商人たちは商談を持ち込む。

 店は日に日に大きくなり、蔵王会の名は江戸中に広がった。


 その中心で、大沼庄太郎は常に走り続けていた。


「宗高様――

 日本橋店、必ずや我が守り抜いてみせますぞ」


 その決意に、迷いはなかった。

 蔵王の風は、江戸でも確かに吹いていた。


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