第四十五話 「繁盛へ向けて」
日本橋店の開店式が無事に終わった翌朝。
右近は、蔵王会商務方として名を上げつつある村田の商人――大沼庄太郎へ店の采配をゆだねていた。
「庄太郎殿、日本橋店はそなたに任せる。
三ヶ所(白石・村田・亘理)から集まった手代と丁稚も揃った。あとは采配一つで店は大きく育つ」
庄太郎は深々と頭を下げた。
「右近様、必ずや宗高様の名を汚さぬよう、江戸で蔵王会を大きく広げてみせましょう。
手代たちも皆、腕の立つ者を選びました。安心して村田へお戻りくだされ」
その言葉に右近は微笑み、庄太郎の肩に手を置いた。
「期待しておる。
江戸は広い。だが蔵王の品は負けぬ。庄太郎殿の目利きと才覚、頼りにしておるぞ」
こうして日本橋店を託した右近らは、奥州の地へと帰って行った。
村田城下に帰り着くと、宗高はちょうど蔵王薬草果樹園の巡視を終えて戻ってきたところであった。
「右近、無事に戻ったか。江戸の様子はどうであった?」
「はっ、殿――。
開店初日より、人で溢れかえりまして……これは、とんでもない店になりましたぞ!」
右近は嬉しさを噛みしめるように、江戸で見た光景を語り始めた。
蔵王会日本橋店は、開店初日からすでに話題の中心となっていた。
果実酒の香り、白石の加工品のうまさ、村田の薬草茶の効能――噂は瞬く間に広がり、店の前には連日行列ができる。
「おい、今日も人が多いな。薬草酒はまだ残っているか?」
「旦那様お急ぎを。午の刻には売り切れますぞ!」
「“結いの紅”を三つ。家内がすっかり気に入りましてな」
手代と丁稚たちは、ひっきりなしに入る客に追われながらも目を輝かせて働いていた。
江戸の大店の主たちも次第に姿を見せるようになった。
「ほう……これが噂の白権の雫か。香りが上品よのう」
「こちらの和紙は白石の品でございます。近年、京でも評判でして」
試飲した後、豪商の一人は目を見開いた。
「……これは売れる。大量に仕入れたい。
庄太郎殿、近いうち契約の席を設けていただきたい」
店の奥に控えていた大沼庄太郎は、深く頭を下げて応じた。
「こちらこそ、末永いご商売を願っております」
とくに薬草茶や薬酒は、江戸の医師たちの間で評価が高まっていた。
「蔵王産の“白蔵草”とは興味深い。
効能の記録を拝見するかぎり、胃と体の疲れに良い」
「薬種問屋でも取り扱いたいのだが……定期の入荷は可能か?」
庄太郎は誇らしげに答える。
「はい。荒浜新港からの海路が整っております。
伊達領より“蔵王丸”にて、ひと月三度の便がございます」
「素晴らしい!」
こうして薬草と薬酒は、武家屋敷や医家を中心に評判が広がっていった。
村田にて宗高へ語る右近の声は、熱気を帯びていた。
「殿……! あれはもう、ただの商売ではございませぬ。
江戸における伊達領の名声を広げる、大きな流れとなっております。
特に薬草酒と果実酒は、開店三日で初回分がほぼ売り切れ。
追加の注文が……山のように押し寄せております!」
宗高は驚きつつも、静かに微笑んだ。
「そこまでとは……。
だが、それだけ蔵王と村田の品が認められたということだ。
みなの働きが実を結んだのだな」
右近は深く頷いた。
「はい。大沼庄太郎殿も見事な切り盛りでございます。
江戸ではすでに、蔵王会の名を知らぬ者はおりませぬ!」
宗高は胸の奥に温かなものを感じつつ、遠く蔵王山を眺めた。
「……これも皆、蔵王が授けてくれた縁と恵みよ。
皆の働きで、村田はさらに豊かになるだろう。」




