第四十三話 「江戸商い」
荒浜新港の整備が進み、蔵王丸の往来が安定した頃。
江戸から、蔵王会宛てに「嘆願」が相次いだ。
「奥州村田産の薬草は、いずれも上質。
だが深川の船宿での『仮売り』では数が限られてしまう。」
「薬草酒と果実酒、白石和紙、村田の加工品……
常に手に入る場所がほしい!」
それは江戸の商人だけでなく、武家や医家からも届いた声であった。
蔵王会の三役は村田の宗高のもとへ集まり、商談の書状を並べる。
福地右近が真剣な顔で言う。
「殿。江戸に常設の店を構えたいという声、日に日に増しておりまする。
しかし、江戸で店を出すには幕府の許可が不可欠……。
これは一商会だけでは成し得ませぬ。」
片倉家から出向している佐々木甚兵衛も続けた。
「白石和紙は江戸での需要がきわめて高い。
深川の船宿だけでは到底賄えません。
常設の蔵と売店……できれば店舗兼、物産の見本会所を」
右近が頷き、地図を広げる。
「深川か、あるいは日本橋の一角が望ましいでしょう。
江戸の中央に蔵王会の旗が立てば、伊達の名も一層輝きまする。」
宗高はしばし沈黙し、静かに言った。
「……常設店舗。
江戸の大市に、蔵王会の顔を持つということか。」
結姫が茶を運び、微笑む。
「伊達領内の品が江戸の人の暮らしを支える。
素敵なことではありませんか、殿。」
宗高は茶碗を置き、力強く頷いた。
「よし。
許可を得るため、幕府へ願いを出そう。
伊達家の後押しを得るため、まずは父上に相談する。」
仙台城・御座之間にて。
政宗は宗高の書状と計画図を熟読し、片目を細めた。
「江戸に常設の店、とな。」
「はい。
江戸深川か日本橋に、伊達南部領の物産を一堂に揃えた店を。
薬草酒、白石和紙、村田の加工品……そして荒浜を中心とした海産。
江戸の需要は増える一方です。」
政宗は墨を含ませた筆を軽く 走らせながら言う。
「宗高……これは伊達家にとっても大きな利となる。
だが、店を構えれば江戸の商人たちとの軋轢も生まれる可能性がある。それでもやるか?」
宗高はまっすぐに応える。
「はい。
江戸で求められる品を届ける。ただそれだけでございます。
我らが暴利をむさぼるのではなく、誠実をもって商うならば、
いずれ江戸商人の理解も得られましょう。」
政宗は豪快に笑った。
「はっはっは!
見事な覚悟だ。
ならば、この政宗が後押ししよう。」
政宗は筆をとり、宗高の願い書に自ら花押を置いた。
「これを持って江戸へ送れ。
家光公も薬草酒を気に入っておられた。
うまくいけば、幕府から直接の許しが下りよう。」
宗高は深々と頭を下げた。
「父上、ありがとうございます。」
政宗の目は、どこか誇らしげだった。
一月ほど経ち、ついに江戸より書状が届いた。
福地右近が震える手で書状を宗高へ渡す。
「殿……なんとありましたか……?!」
宗高が手に取ると、そこには確かに書かれていた。
『伊達領南部商会・蔵王会
江戸日本橋に物産店兼見本会所の建設、これを許す。
但し、武家地・寺社地の妨げとなるべからず。
巡見使来訪の折は協力あるべし。
— 家光』
右近が目を潤ませて叫ぶ。
「許された……!
江戸に、我らの店が建つのです!!」
福地右近は肩を震わせながら笑った。
「村田の品々が、江戸の大通りに並ぶ日が来るとは……
これ以上の喜びはござらぬ!」
宗高は書状を胸に抱き、静かに呟いた。
「……ついに、道が江戸に根を下ろした。」
結姫がそっと手を添える。
「おめでとうございます、殿。
村田も白石も亘理も、みんなの力が一つになりましたね。」
宗高は深く頷いた。
「さあ、江戸に店を建てよう。
奥州伊達の未来を、江戸の大地に刻むために。」




