第四十一話 「商業圏拡大へ向けて」
村田城の春は、雪解けの水が荒川を満たし、遠く蔵王の残雪が輝く季節であった。
宗高と結姫が新たな屋敷を構え、雪王丸の泣き声が屋敷に響くようになってから、しばらく時が流れた頃。白石城主・片倉小十郎重長より正式な書状が届いた。
> 「白石・村田・荒浜の三か所、これを一本の道として立て、商いの息を太くしたい。
結姫の嫁ぎ先である宗高殿と共に、伊達領南部の商業強化を図りたく存じ候。」
宗高は目を通すと、そっと息を漏らした。
「……結姫の縁が、ここまで道を開くとはな。」
結姫は微笑み、袖の中で小さく雪王丸の手を握る。
「兄も、村田の新しい動きに興味を持っておりました。
荒浜新港が開け、山の薬草と浜の海産物が結ばれた今こそ、白石も加わるべき時だと。」
すぐに村田城広間において、村田側の有力者、蔵王七翼の代表として福地右近、商工担当の小役人らが集められ、片倉家との協議準備が整えられた。
ーー白石城にて
片倉家は、武の家であると同時に、伊達家の知恵袋でもあった。
「宗高殿。結を宗高殿の嫁に迎えられた縁、これを商いにも活かしたく思いまする。」
片倉家から出された帳面。そこには、白石城下の特産品・技術が細やかにまとめられている。
・白石和紙
・白石木綿
・清流を使った染色技術
・職人による刃物、細工物
・蒟蒻・乾物・山菜の加工
宗高は目を見開いた。
「これほど……。白石の力は、武のみならず技とも共にあるのだな。」
重長は笑い、続けて言う。
「宗高殿の村田は、蔵王の薬草と果樹園、養生処の名が江戸にも響き始めております。
荒浜新港は海路の要所。われら白石は、蔵王の地との中継地となりたいのです。」
その言葉に宗高も頷く。
「武家は刀を振るうのみでは国を守れぬ。
商いが太くなれば、民は富み、領は安んじよう。
村田と白石、共に新しい道を作らぬか。」
重長は静かに息を吸い、深く頭を下げた。
「宗高殿、この縁、必ずや未来へ繋げましょう。」
会談は数日にわたり、実務方で議論が進んだ。
① 白石城下の特産品を荒浜新港経由で江戸へ
白石の職人技が海路で江戸に流れる道が新しく生まれる。
宗高は荒浜新港に白石専用の荷置き場を設置することを提案し、片倉側も了承。
② 村田の薬草・養生料理を白石の宿場へ供給
白石は奥州街道の要衝であり、旅人の出入りが多い。
養生食を出す茶屋を共同で設け、「蔵王薬膳」として売り出す。
③ 蔵王松川~白石川の河川航路の新設。
蔵王の宮地区に船着き場の新設
松尾丸の定期航路に白石便を追加
宗高は川船団の再編を提案。
重長は白石側の川舟職人を村田に派遣し、共同造船を始めることになった。
協議がまとまった夕刻、白石城の広間で慎ましい祝宴が開かれた。
重長は盃を掲げ、宗高と結姫に向けて言う。
「宗高殿、そして結。
この縁が結ばれたこと、亡き父も喜ぶであろう。」
結姫は紅を薄く引いた口元で微笑み、答えた。
「父が愛した白石と、私が嫁いだ村田が一つの道になること、娘として嬉しく思います。」
宗高は横にいる雪王丸を抱き上げた。
「この子が大きくなる頃には、白石と村田、荒浜新港、そして江戸までもがより強い一本の道で繋がっていることでしょう。」
白石城を出た帰り道、宗高は結姫に問う。
「白石の者たちも、よく動いてくれそうだ。」
「ええ。あの家は父の代から、民の暮らしを第一にしています。
商いもまた、領を守るための道具と考えております。」
宗高は頷きつつ馬を進めた。
「……村田と白石、二つの家が結ばれ繋がる。
これで、伊達領の南がさらに豊かになるな。」
結姫は柔らかく微笑み、雪王丸の寝息が背中から聞こえてくる。
「あなたが開いた道は、まだまだ広がります。
蔵王の噴火を鎮めたあなたが、今は領の未来を拓いているのです。」
宗高は照れを隠すように視線をそらした。
「……そんな大それたものではないさ。」
「いいえ、殿らしい道でございます。」
春の風が二人の衣を揺らし、白石から村田への新しい道が静かに開いていった——。




