第三十五話 「薬草酒と果実酒の開発」
――養生と嗜みを兼ねる“蔵王の一滴”
養生処が整い、医食同源の料理が広がりつつあったある春の日。
宗高は、結姫、福地右近、そして黒前掛け組の弥兵衛を薬草果樹園に呼び寄せた。
「皆に集まってもらったのは、新たな品を作るためだ。
蔵王の薬草と果実を使った――“薬草酒”と“果実酒”をな」
笹丸の目が輝く。
「酒とは! 宗高様、また面白ぇもん思いつくじゃねえですか!」
右近が慎重に問いかけた。
「薬草酒……となると、身体を整える酒をお作りになるおつもりで?」
「うむ。飲みすぎは毒だが、適度な酒は薬にもなる。
結姫の知識と、黒前掛け組の技、合わせ村田の新たな特産としたい」
結姫は静かに頷き、袖口から小さな紙束を出した。
「実は、蔵王の薬草を使ったお酒……昔から細々と作られていた記録がございます。
強壮、胃の通りをよくするもの、血の巡りを良くするもの……」
「それは好機だな。村田の名産として、形にしよう」
◆試作開始――香りと効能を探る
薬草果樹園の奥、試作小屋に集まった一同の前には――
蔵王薬草の束と、果樹園の果実が並んでいた。
・白蔵草
・蔵王生姜
・紅花の花弁
・山葡萄
・蔵王赤梅
宗高はそれを眺め、深く息を吸った。
「まずは三種作る。“疲労回復”“巡りを整える”“胃を守る”酒だ。
味が悪ければ広まらん。黒前掛け組の腕にかかっているぞ」
「へへっ、任せといてくだせぇ!」
笹丸が大釜を持ち上げると、小屋はすぐに湯気と甘酸っぱい香りに包まれた。
結姫は薬草を丁寧に刻み、説明を添えていく。
「白蔵草は香りが強いので、果実と合わせると良うございます。
これは山葡萄と調和いたします」
「では“蔵王葡萄酒”にするか」
宗高の提案に、右近が苦笑しながら書き留めた。
「名前を決めるのが随分早いですね」
「名があれば、完成形も見えてくる。商いはそういうものだ」
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◆果実酒の誕生――“蔵王星霜”
二ヶ月後。
樽の中の果実酒の試飲会が行われた。
「まずは山葡萄だ」
宗高が杯を手に取る。
深い紅紫色、強い酸味の中にほのかな甘み。
口に含むと、身体の芯に火が灯るような力強さがあった。
「……これは良い。香りも味も、武家にも旅商人にも好まれよう」
笹丸が胸を張る。
「この“蔵王星霜”、渾身の出来でさぁ!」
右近が驚いたように眉を上げる。
「星霜とはまた……壮大なお名ですな」
「山葡萄の強さと蔵王の厳しさを込めたんだ。覚えやすく、売れる名だ」
◆薬草酒の誕生――“白権の雫”
次に薬草酒。
薄い琥珀色の液体を杯に注ぎ、宗高がそっと香りを確かめる。
「白蔵草に蔵王生姜……か。身体が温まる香りだな」
ひと口含む。
苦味は柔らかく、後からじわりと甘みが追いかけてくる。
「これは……巡りを整える酒だ。飲んだ瞬間に、身体の芯が緩む」
結姫も杯を口にし、頬を赤らめた。
「ふふ……心地よい温かさがございます。
“白権の雫”と名付けてはいかがでしょう。
蔵王権現様の加護をいただく酒として……」
宗高は微笑んだ。
「良い名だ。村田の守り神の酒、それだけで力となる」
◆赤梅の酒――“結の紅”
最後の赤梅酒。
鮮やかな紅色が美しく、甘酸っぱい香りが漂う。
「これは……若い娘にも好まれそうですわ」
結姫が嬉しそうに杯を掲げる。
宗高が口に含むと、強すぎない酸味と柔らかい甘さが広がった。
「軽やかで飲みやすい。祝いの席にも使えよう」
「ならば……“結の紅”と」
結姫はそっと視線を伏せた。
「結ぶ、の意味も込めて……」
宗高は一瞬言葉を失い、やがて優しく頷いた。
「良い名だ。村田の祝いの酒としよう」
七翼たちは顔を見合わせ、にこりと笑った。
◆村田に新たな名産誕生
こうして――村田の新しい名産が誕生した。
◆ 蔵王星霜(山葡萄果実酒)
◆ 白権の雫(薬草酒)
◆ 結の紅(赤梅果実酒)
薬草酒は養生処で、果実酒は村田の市で人気となり、
やがてそれらは仙台、江戸へと評判が広がることになる。
宗高は皆を見渡し、静かに告げた。
「これらの酒は、村田の恵みが形になったものだ。
皆で守り、育てていこう」
「おおーっ!!」
春空に響くその声は、村田の未来を祝福するように明るかった。




