第三十三話 「蔵王薬草果樹園と養生処」
宗高と結姫の婚礼から半月。
春のやわらかな陽光が村田の里に降りそそぎ、人々の顔にはどこか活気が満ちていた。
その中心にいるのは――もちろん、結姫だった。
「宗高様。まずは蔵王山麓に広がる薬草地を整えとうございます。
あの地には、多くの薬となる草木が自生しております」
「うむ。結姫殿の知識が頼りだ。行こう」
宗高と結姫、さらに福地右近と蔵王七翼の数名、そして薬師の志望者たちが連れ立って蔵王山麓へ向かった。
◆蔵王薬草果樹園の計画
蔵王のふもと、雪解け水の流れる渓流沿い。
そこは静けさに満ち、空気が澄み渡っていた。
「この地……香りが違いますね」
右近が鼻をすんと鳴らす。
「澄んだ空気と豊かな水が混ざり合うことで、薬草が育ちやすいのです」
結姫はしゃがみこみ、小さな葉を摘んだ。
「これは“白蔵草”。熱冷ましや疲労回復に効きます」
宗高はそれを見て、思わず感嘆した。
「結姫殿は本当に詳しいのだな」
「白石には薬草園がありましたので……宗高様のお力になれるよう、学んでまいりました」
その瞳は真剣で、どこか嬉しげだった。
結姫は地図を広げる。
「ここを“蔵王薬草果樹園”と名づけ、薬草を体系的に育てたいのです。
薬草だけでなく、蔵王に適した果樹――梨、桃、山葡萄、赤梅も植え、
薬にも加工品にも使えるようにいたします」
宗高は深くうなずいた。
「見事な計画だ。村田の新しい産業になる。皆、結姫殿に続け!」
「はっ!」
七翼が声をそろえ、作業へ取りかかった。
土地の整地、水路の確保、畝を作り、苗を植え、棚を整える。
宗高も右近も汗を流しながら働いた。
「殿、農民と一緒に鍬を振るわれては……」
「良いではないか。結姫殿がここまで熱心なのだ。私が動かずしてどうする」
宗高の言葉に、右近は苦笑しながらも嬉しそうだった。
◆結姫の想い
夕暮れ。作業が終わり、一同が休んでいると、宗高は緩やかに結姫へ声をかけた。
「結姫殿。今日の働きは見事だった」
「いえ……わたくしなどまだまだ。ですが――」
「ですが?」
結姫は少し恥ずかしげに笑った。
「この地には、生きる力が満ちています。
蔵王の山水、村田の人々……その力を結んで、
皆が病に倒れぬよう助けたいのです」
宗高は心の底からうなずいた。
「結姫殿のその心こそ、村田の宝だ」
◆養生処の構想
後日、蔵王七翼と黒前掛け組が集まり、城内の一室で会議が開かれた。
「薬草果樹園で育てた薬草や果実をどう使うか……ですね」
日下十蔵が記録を取りながら問いかける。
「はい」
結姫が答える。
宗高はその横で静かに見守っていた。
「薬草の加工、乾燥、煎じ薬の作成……。ですが本当に大切なのは、
“人が気兼ねなく治療を受けられる場所”を作ることです」
「病人が使える……治療所、のような?」
佐藤直成が首をかしげる。
「はい。名を――“養生処”としたいのです。
薬だけでなく、心も身体も休められる場所に」
蔵王七翼が一斉にざわついた。
「姫様、それは……まるで寺の施療院のような……」
「村田にそんな場ができるとは……!」
「有見勘平」
宗高が声をかける。
「はい、殿」
「輸送と街道整備の知恵を使い、薬草園と村田城下をつなぐ道を整備せよ」
「承知!」
「権七」
「はっ、産業係・菅野権七!」
「果樹園の果実を加工し、保存できる形に。薬にも、甘味にも使えるようにだ」
「任せておくんなさい!」
「十蔵、記録をまとめ、薬の効果を体系化しろ」
「承知!」
宗高は最後に、静かに結姫の方を向いた。
「結姫殿。そなたの想いを、村田の力にする。
“養生処”――必ず良い場にしよう」
結姫は深く頭を下げた。
「宗高様……ありがとうございます」
◆村田“養生処”の誕生
春が終わる頃、村田城下に新たな建物が姿を現した。
白木の香りが漂い、室内には蔵王薬草果樹園で採れた薬草が整然と並ぶ。
名は――村田養生処。
「ここが……村田の人々の、命をつなぐ場になる」
宗高はそう呟き、結姫と並んで新しい建物を見つめた。
結姫はそっと手を合わせる。
「どうか……この地に、病の苦しみが減りますように」
蔵王から吹く風が優しく二人を包み込んだ。
まるでこの地を守ると告げているかのように。
――こうして村田は、産業だけでなく“命をつなぐ地”としても歩みはじめたのであった。




