第二十八話 「蔵王七翼、荒浜へ翔ぶ」
村田へ戻った宗高を迎えたのは、荒れ残る書類の山と、民の期待、そして新たな危機だった。
畠山旧臣の襲撃を受けたことで、産品を守るための仕組みづくりは急務となった。
「殿、当面の改革を一覧にいたしました」
書類を抱え踏み込んできたのは、家老・福地右近。まだ二十五歳ながら政務に通じ、宗高の最も頼れる腹心だ。
「右近、任せる。村田はもう“のどかな城下”ではいられぬ。
この地を狙う影はこれからも増えるだろう」
「はい。ですので……蔵王七翼を中心に、分野ごとに再整備を進めます」
右近は紙を広げる。
「兵部殿は内政・治安。清三郎殿は勘定。十蔵殿は法度。
権七殿は産業。勘平殿は輸送。直成殿は警備。そして五郎助殿が側仕えとして情報まとめ……」
「うむ……“七翼”の名に恥じぬ働きだ。
皆の力を束ね、村田を翔ばせよう」
宗高がそう言うと、右近はわずかに目を輝かせた。
「殿。実は……村田の物流そのものを作り変える策を考えております」
「聞こう」
「陸路では限界がございます。今回のような襲撃のおそれもあります。
ならば——“水路と海”を使うのです」
右近の構想は大胆だった。
村田の荒川を下り白石川へ、さらに阿武隈川を通して太平洋の荒浜へ抜ける。
その荒浜を、伊達領南部の新たな“海の玄関口”として整備する。
そこから江戸までは那珂湊、銚子を越えて江戸の港へいたる。
「……大きな事を言ったな、右近」
宗高はため息をついたが、次の瞬間、口元が笑みに変わる。
「だが、それでこそ我が家老だ」
「恐れ入ります」
「ただ、水運と港開発は、幕府と仙台藩双方の許可が要る。
父上は認めてくださるだろうが……幕府だ」
「はい。しかし、家光公への献上料理の評判は上々。
“村田の名産は幕府の財にもなる”と示せば、許可は取れるはずです」
「うむ。ならば、申請書を作ろう。
十蔵、法度に沿い文を整えよ」
「承知!」
こうして始まったのは、前代未聞の“村田の物流再編計画”だった。
清三郎は費用の計算で寝る間もなく帳簿と格闘し、
権七は荒浜へ至るまで村田から周辺の地質や気候を調べ、どの産品をどう運べるか青図を描き、
直成は川沿いの治安を固め、
勘平は各村に連絡し橋や堰の整備計画をまとめた。
宗高は彼らの働きを見渡し、強く思った。
——これが、蔵王七翼だ。
——七つの力が揃えば、村田はどこまでも翔べる。
幕府への申請文を携えて宗高が江戸へ送っていた使者から、ひと月後に返書が届く。
宗高は封を切る。
中には家光の側近の筆による言葉。
『村田産の酒、豆、いずれも江戸にて好評。
ゆえに新たなる海路開発、幕府としても興味深し——認める』
宗高は息を飲んだ。
「……通った。幕府が、我らの道を開いたぞ」
「殿!」
右近の声が震えていた。
「これで……村田は羽ばたけます!」
「ああ。
だが、ここからが本番だ。
荒浜の開発には、亘理城主の協力が不可欠。すぐに書状を送る」
亘理城主・伊達成実との会談は驚くほど順調だった。
「宗高殿、海の道を作るという発想……若いが実に面白い。
荒浜は潜在力を持ちながら使われておらん。そこへ目をつけたか」
「はい。村田だけでなく、亘理、白石、大河原……
伊達領南部全体の流れが変わります」
成実は大きく笑った。
「よい。荒浜の港、我らと共に造ろうぞ!」
宗高と右近は深く頭を下げた。
そして工事が始まった。
荒川の流れを見て、権七が叫ぶ。
「ここは水深が浅い!
いっそ、川底を掘り下げて小舟を通せるように!」
勘平が測量しながら叫び返す。
「ではこちらの堰を調整し、流れを均一にします!」
直成は川沿いの野盗を追い払って警備を固め、
十蔵は周辺村との取り決めを作り、
清三郎は資金配分と労働者の管理に奔走する。
「殿!」
右近が工事現場の中央で声を張る。
「荒浜の堤防、八割完成です!」
「よし。
そして……村田の未来も、ようやく形になる」
宗高は海風を受け、ゆっくりと目を閉じた。
——この道は、民の汗が作る道。
——蔵王七翼の力が支える道。
——そして、海へ、江戸へ、京へ。村田が繋がる道だ。
村田から荒浜へ、未来へと向けて翔んで行く開発が進んで行くのだった。




