第二十七話 「村田への帰還と政宗への報告」
江戸からの長い道程を終え、仙台の城下が見えてきた。春の光がやわらかく差し込み、坂を下る馬上の宗高の胸は、不思議なほど静かだった。
人取橋での襲撃。
江戸での献上成功。
そして、襲撃者の正体が“畠山旧臣”であるという衝撃。
それらを携え、宗高は政宗の待つ仙台城へと向かう。
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仙台城の大広間。
独眼竜の鋭い眼光の前に立つと、宗高は自然と背筋が伸びた。
「戻りました、父上」
政宗はゆっくり頷き、宗高をひと目で見て、
「よく、生きて戻った」
と低く言った。
その声の奥に、微かな安堵が滲んでいた。
「献上した料理、あの『峰雪の雫』やそら豆尽くしの膳は、将軍 家光公の口にも合ったと聞く。
——見事よ、宗高」
「はっ。しかし……道中、懸念すべき事態がございました」
「襲撃の件か?」
「はい。文にて先に事の次第を送った通り、人取橋で襲撃した者たちは、畠山家の旧臣でした。
村田の名産を奪い、畠山再興の功とする——そのための襲撃だったのです」
政宗の片眼が鋭く光る。
「……ほう。
畠山ごとき、今さら何をもがく」
兵部も控えにひざまずく。
「その執念は、思いのほか深くございました。
村田の名産が“大きな力になる”と、彼らは信じている様子でした」
と兵部。
政宗は鼻で笑った。
「力を欲する者は、まず己を磨くもの。奪った名で家が立つなど、童子の夢物語よ」
だが政宗は続けて、ふっと目を細めた。
「……それだけ、村田の産が目立ち始めておるということだ。
よい兆しでもあり、危うい兆しでもあるな」
宗高は深く頭を下げる。
「はい。
このような者たちの再来を防ぐため、村田の警備、産品の管理、
そして輸送の仕組みを再整備したいと存じます」
「当然よ」
政宗は宗高を見据えたまま言う。
「お前は、もう“ただの息子”ではない。
村田を治める者。
その土地を狙う影が出るのは、力が生まれた証だ」
宗高は胸に熱いものが走った。
「……父上」
「しかし」政宗はゆっくりと宗高に歩み寄る。
その足音がやけに重く響いた。
「今回の件……お前は怯まず対応した。
この報告の仕方も、実に理にかなっておる。
——大儀であった」
その言葉に、宗高は思わず目を伏せる。
現代の青年であった自分が、政宗に褒められている。
それは時を超えた、奇妙で誇らしい感覚だった。
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「宗高よ」
政宗はふと声を落とし、宗高の肩に手を置いた。
「民を守るために戦う者は、武を振るうだけではない。
“奪われぬ仕組み”を作るのもまた、戦よ。
——お前はその道を歩き始めておる」
「はい。
これからも、村田を……いや、伊達の地を豊かにするため力を尽くします」
政宗は満足げに頷いた。
「良い覚悟だ。
ならば、まずは村田へ帰れ。
民はお主の帰りを待っているぞ。」
宗高は笑みを浮かべ、深く一礼した。
「父上、御意。
我が村田に——戻ります」
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城を出ると、仙台の春風が宗高の背中を押した。
その風は、まるで政宗の背中を思わせる力強さと温かさを帯びていた。
村田の未来を守るために。
再び、宗高は歩き出したのだった。




