第二十六話 「襲撃者の正体」
宗高一行は江戸での献上料理を果たし、帰郷の途につくため品川宿に逗留していた。
襲撃は凄烈であったが、笹丸と兵部ら蔵王七翼の面々の奮戦により、大事には至らなかった。しかし捕らえられた襲撃者たちは、頑として口を割らず、彼らの目的は依然不明のままだった。
「宗高様、捕縛した者の一人が……ついに口を開きました」
兵部がやや緊張した面持ちで部屋に入ってくる。宗高は筆を置き、静かに頷いた。
「申せ。何者であった」
「……畠山家の旧臣を名乗りました」
その名に、宗高の眉がぴくりと動く。
「畠山……奥州の旧家、伊達家との因縁も深い。すでに断絶して久しいはずだが」
「はい。しかし連中は、“村田の名産を奪い、献上品として朝廷へ差し出すことで畠山再興を願う”——そのように申しております」
宗高は深く息をついた。
「なるほど……あの襲撃、金ではなく“村田の産品”が狙いか」
笹丸が部屋の隅から口を挟む。
「つまり、俺たち黒前掛け組の料理やそら豆、峰雪の雫……それを盗んで、自分らの功績にしようとしたってわけか」
「うむ。村田の名産が“伊達家の新たな力”として評価されつつあるのを察知したか。再興の足掛かりにしようとしたのだろう」
宗高は天井を仰ぎ、小さく呟く。
「……民の努力が、他家の虚栄のために奪われるとは」
兵部は護衛としての判断を述べる。
「宗高様、この件、政宗公にすぐ報告を上げるべきかと。畠山旧臣の動きは偶然ではございません。背後に支援する勢力がある可能性も」
「うむ。父上ならば、裏の裏まで読むであろう。すぐに文をしたためよう」
宗高は筆を取る。
だがその筆先は一瞬止まる。
「……だが、畠山旧臣を全て断罪することが正しいとも言えぬ。
彼らもまた、かつての主家を想い、何かに縋らずにはいられなかったのだろう」
その言葉に、兵部が目を見開く。
「宗高様は……お優しすぎます。襲撃は命を狙った重罪。情を掛ければ、また牙を研いで戻って来ましょう」
「わかる。だが同じ志すならば、力の使い方を誤らなければ……その忠義は別の形で生かせたはずだ」
それを聞いて、笹丸が呟く。
「料理や作物だけで家を戻せると思ったのか……夢見すぎだな。だけど、それだけ村田の産品に価値を見てたんだ」
「裏返せば、われらの努力がそれほど世に響いたということよ」
「しかし……民が育て、仲間が汗して作ったものを奪い、名を騙るとは赦せぬ」
宗高の眼差しは鋭く光った。
「宗高様、戻られましたら村田の警備を強化いたしましょう。佐藤直成に命じれば、領内の巡邏もより厳しくできます」
「ああ。それと同時に——産品の管理と輸送の仕組みを整える必要がある。
これから名産と名がつくほどに、狙う者は必ず現れる」
「御意!」
宗高は立ち上がった。
「畠山旧臣の行いは許されぬ。しかし……彼らの焦りと苦しみを、ただ断じるだけでは何も変わらぬ。
われらは、“再興とはこうあるべきだ”と示さねばならぬ。
村田の名産を、民のため、未来のために育ててゆくのだ」
兵部も笹丸も、深く頷いた。
襲撃者が判明したことで、宗高は新たな決意を固めていた。
村田の名が江戸で響くということは、同時に——野心ある者たちに狙われるということでもある。
だが宗高の目は迷いなく、ただ前を見据えいた。




