第二十四話 「家光への献上料理と人取橋襲撃」
江戸からの使者が村田城に到着したのは、そら豆の収穫が終わったばかりの頃だった。
「村田城主・伊達宗高様へ――将軍家光公より、“献上料理を所望す” とのお達しにございます!」
使者の声に、家老・福地右近は息を飲んだ。
「殿、とうとうこの時が参りましたな……江戸へ、村田の味を」
宗高は深くうなずいた。
「村田の力を示す好機だ。黒前掛け組にも準備を急がせよう」
献上する料理は三つ。
一、そら豆のすり流し
二、蔵王香味噌を使った焼き物
三、紅花香るそら豆の蜜煮
黒前掛け組総出で仕込みが行われ、宗高はその一つ一つを確認した。
「味は大事だが……家光公に献上するとなれば、見目も整っていなければならぬ。
右近、盛り付けの器はどうだ?」
「遠刈田の木地師より特別に仕上がりました。木の香りが、豆の甘みを引き立てましょう」
「良い。すべてを“蔵王村田”で整えたい」
宗高の言葉に、右近は嬉しそうに頷いた。
「殿こそ、村田の心にございますな」
出立の日。宗高の一行は江戸へ向けて街道を進んでいた。近習の赤坂兵部、高橋清三郎、そして黒脛巾組からは笹丸が護衛として随行している。
「殿、献上品の料理へ使用する荷は揺れぬよう固定してあります。道中の揺れも計算済みです」と清三郎。
「うむ、頼もしい」
だが、旅は順調に進むばかりではなかった。
人取橋――。
伊達家の歴史に名を残す、あの激戦の地である。
橋を渡り始めた時、笹丸が眉をひそめた。
「……殿。風の流れが変です。気配が、ひとつ、ふたつ……いや、多い」
「伏兵か?」と兵部が刀に手をかける。
答えるように、橋の両脇から黒ずんだ影が跳び出した。
「やってしまえッ! 村田の荷を奪うぞ!」
「殿、下がってください!」
兵部が宗高の前に立ち、清三郎は荷車を守る。
笹丸はひらりと前へ飛び出し、袖から小太刀を抜いた。
「黒脛巾組を甘く見ないことだ!」
襲撃者が殺到し、刀が火花を散らす。
だが、笹丸の動きは舞うように軽やかで、一瞬で敵の腕を弾き飛ばした。
「ぎゃっ……!」
「な、なんだこの速さ……!」
しかし敵の数は多い。一人、また一人と橋に現れる。
「兵部、笹丸、一歩も下がるな! 荷を守り抜くぞ!」
宗高が叫ぶと、二人は声を合わせた。
「御意!」
これ以上の長期戦は危険だった。
「右近がいれば策を……いや、ここは私が決めねば」
宗高は叫んだ。
「兵部、敵を川側に誘い込め! 笹丸、橋の中央を空けろ!」
「殿、承知!」
兵部がわざと隙を見せ、敵を川側へ引き寄せる。
その瞬間、笹丸が足元を蹴り払い、二人の敵をまとめて川へと落とした。
「うわああッ!」
「ば、ばかなッ!」
残る賊たちは恐怖で後退し始める。
「伊達の領主が、こんな……化け物め!」
「退け! 退けぇ!」
敵は散り散りに逃げていった。
静けさが戻ると、清三郎が荷物の箱を確認した。
「殿……すべて、無事でございます!」
「よくやった……皆、怪我は?」
「軽く切られた程度です」と兵部。
笹丸は笑って答える。
「殿の献上料理の荷を奪われるくらいなら、腕の一本ぐらいくれてやりますよ」
「くれてやる必要はない。お前の腕は、村田の宝だ」
宗高の言葉に、笹丸は照れたように頭をかいた。
こうして一行は江戸へ向けて再び歩みを進めるのだった。




