第二十三話 「村田の市の賑わい 」
春の兆しが蔵王の裾野に降りてくると、村田の町にも柔らかな風が流れ込む。
その朝、城下の大市は、いつになく活気に満ちていた。
並んだのは、峰雪の雫、澄王の恵み村田そら豆で作られた味噌、黒前掛け組が仕込んだ惣菜など、村田の名物ばかり。
それらを目当てに周辺の村から人が集まり、ついには他国の商人まで足を運ぶほどになっていた。
「いらっしゃい! 峰雪の雫は香り高いよ!」
「そこの兄さん、そら豆味噌はいかが? 政宗公にも献上した逸品だ!」
店主たちの声が行き交い、市はまるで祭のようだ。
宗高と家老・福地右近は市の上を見渡せる高台に立っていた。
はるか下では、人の波が絶えずうごめいている。
「殿、見てくだされ。あれが、村田の今の姿にございます」
右近の声は、どこか誇らしげだった。
宗高もまた、その光景に自然と笑みを漏らした。
「右近。ここまで来るとは、正直、思わなかったな」
「皆が殿に導かれ、励まれた賜物にございまする」
「いや……皆の努力だ。酒も、味噌も、そら豆も。作ったのは領民だ」
宗高がそう言うと、右近は苦笑した。
「殿は、いつも民を持ち上げてばかりですな。
しかし、そのお心があるゆえに人は殿を慕うのです」
宗高は市の中へ足を踏み入れた。
「お、お殿様だ!」
「宗高さま、おはようございます!」
領民たちの声が上がり、宗高は一人一人に気さくに応じた。
「そら豆の出来はどうだ?」
「おかげさまで、今年は虫も少なくて上々でございます!」
「それはよい。収穫時期には黒前掛け組にも声をかけてやってくれ」
宗高は各店を回り、その努力や工夫を聞いては励ました。
それはただの領主としてではなく、同じ土地に生きる仲間としての姿だった。
その途中、黒前掛け組の屋台に行き当たる。
若い料理人・清六が手際よく“澄王の恵み 村田そら豆の素揚げ”に塩を振っていた。
「殿、お待ちしておりました! ぜひ一つどうぞ!」
「……ほう。良い香りだな」
一つつまむと、宗高は思わず目を細めた。
「うまい。中がほくほくだ。塩加減もちょうど良い」
「へへっ、ありがとうございやす! これ、仙台でも評判になってて、注文が止まらねぇんです」
「そうか。無理はするなよ。ただ……村田の味を大事にしてくれれば、それでいい」
「へい!」
その時、周囲で見ていた客たちが次々に声をあげた。
「お殿様も食べたんだろ? じゃあ、俺も一つ!」
「わたしにも!」
「清六、追加だ追加!」
屋台は一気に人だかりになり、宗高と右近は苦笑しながらその様子を見守った。
市の中央では、商人たちが交渉に精を出していた。
その中で、旅姿の京商人が宗高の前にひざまずいた。
「村田様、このそら豆味噌、ぜひ京にて売りとうございます。
あの地の貴族方は、香りの良い品を好まれますゆえ……」
「京へ、か」
宗高は右近と目を合わせ、うなずいた。
「よかろう。ただし――粗悪な品を混ぜたり、名だけを利用したりしてはならん。
“村田”の名前は、皆の汗でできている」
「ははっ! 必ずや誠実に扱うことを誓いましょう!」
こうして、村田の名はさらに遠くへと広がることとなる。
日が傾き始め、市はなお賑わいを見せていた。
「……ここから先、もっと先へ行けるだろうか」
「ええ、殿ならば」と右近。「村田はまだ伸びます。
それを信じて皆が働いている……今の市こそ、その証にございます」
宗高は小さく笑い、歩き出した。
――村田の賑わいは、領民と宗高がともに築いた未来の形。
その躍動は、これからさらに大きな波となり、仙台、江戸、京へと広がっていくのだった。




