第二十二話 「黒前掛け組の評判と、政宗への献上料理」
澄王の恵 村田そら豆の名が領内に広まるにつれ、黒前掛け組もまた注目を集めていた。
村田城下の料理処では、組の若者たちが次々と新しい献立を生み出し、人々はそれを楽しみに列をなすほどだ。
「今日の“豆膳”は何が出るんだい?」
「そら豆味噌の田楽さ。あれは都でも食えん味だよ」
「黒前掛け組の連中は、料理が技ではなく“芸”になってるなあ」
そんな声が市のあちこちから聞こえてくる。
家老の福地右近は、その様子を嬉しそうに見守りながら宗高に言った。
「殿。黒前掛け組の評判は、もはや村田だけに留まりませぬ。岩出山からも“村田は腕の良い料理人が増えた”と噂が立っております」
「はは……それは頼もしいな。だが、調子に乗らぬように見てやれよ」
「承知しておりまする」
そんな折、仙台から急ぎの書状が届いた。政宗からの直々の命である。
――“村田領主 宗高へ。都より戻りしゆえ、久々に料理を振る舞ってみよ。
そなたの領の新たな名産、まずこのわしが味わう”――
右近は書状を読み終えるなり、目を輝かせた。
「殿! 政宗公への献上料理……これは黒前掛け組にとっても名誉にございます!」
「うむ。そら豆を中心に、村田の技を示さねばならん。……右近、皆を集めよ」
翌日、黒前掛け組が城に集った。
宗高は卓の前に立ち、真剣な面持ちで言葉を発した。
「政宗公が直々に召し上がる料理だ。村田の全てを載せるつもりで臨んでくれ」
組頭の権兵衛が力強くうなずく。
「任せてくだせえ殿! そら豆の旨味はわしらが一番知っております」
若い料理人たちも声をそろえる。
「最高の“澄王膳”を拵えましょう!」
献上料理は三品で決まった。
一、そら豆の白味噌和え
二、そら豆と山菜の蒸し物・蔵王香蒸
三、蔵王湧水仕立て・そら豆すり流し
宗高は一つ一つ試食し、丁寧に味を整えさせた。
「この味噌のまろやかさ……都で出しても負けはせぬ」
「蒸し物の香りがよい。蔵王の春そのものだ」
「すり流しは見事だ。政宗公の舌にも応えられる」
黒前掛け組は緊張しつつも誇らしげだった。
そして献上の日。
仙台城の大広間に通されると、政宗は静かに宗高を見つめた。片眼に宿る光は鋭く、だがどこか楽しげでもある。
「宗高。村田で良いものを育てたと聞いた。どれ、腕前を見せてみよ」
「はっ。村田領の恵み、心を込めて拵えさせていただきました」
三品が政宗の前に並ぶ。
政宗はまず白味噌和えを一口、ゆっくりと噛みしめた。
「……甘いな。自然の甘みというやつか。砂糖に頼らずこれを出すとは、見事よ」
続いて蒸し物。ほのかな山の香りが立つ。
「ふむ……蔵王の風が、そのまま口に流れ込むようだ」
最後にすり流し。政宗は匙を置き、深く息を吐いた。
「宗高、そなた……腕を上げたな。
いや、そなたの領民が成したことか。黒前掛け組とやら、ただの料理人ではあるまい」
「はっ。皆、村田を良くしたいと励む者ばかりです」
政宗は笑みを浮かべた。
「良い領主を持ったものだ、村田は」
宗高は深々と頭を下げた。
その瞬間、背後で控えていた右近の肩がわずかに震えた。それは緊張が解け、誇りが胸に満ちた証だった。
献上の噂は瞬く間に広がり、黒前掛け組は他の伊達領内でも名を知られる存在となった。
村田は新たな名産地として、その一歩を確実に踏み出していくのだった。




