第十八話 「村田への帰還 春の蔵王祭と秋の布袋祭」
京の町で疱瘡に苦しむ民を癒した宗高は、将軍家と朝廷からの褒美を携え、ついに故郷・村田へと戻ってきた。春の風はやわらかく、蔵王連峰の雪解け水が川を満たす季節だった。
城下の人々は、一目宗高を見ようと道の両側にずらりと並び、歓声が上がる。
「宗高様のお帰りじゃ!」「ほんに、生きて戻られたのじゃな!」
宗高は馬上から静かに手をあげた。
「皆、留守をよく守ってくれた。今日よりまた共に歩んでゆくぞ。」
その声は、どこか京での経験を経て大きくなった。家臣たちも誇らしげにうなずく。
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◆春の蔵王祭
その夜、蔵王権現を祀る社では、蔵王最大の行事――春の蔵王祭が始まる。境内には灯籠の光が揺れ、山の気配が神秘を帯びて迫る。
笹丸が囁く。
「宗高様……蔵王権現がお喜びでござる。都での御働き、必ずや天空へ届いておる。」
宗高は頷き、拝殿の前に進むと、そっと手を合わせた。
「――蔵王権現。お導きにより、多くの命を守ることができました。どうか、これからも蔵王村田の地をお守りください。」
突然、山風がひときわ強く吹き抜け、境内の灯が揺れた。赤坂兵部が驚きつつも、どこか誇らしげにつぶやく。
「……これは、権現様の御返答か。」
やがて祭囃子が鳴らし、村娘たちが舞い始める。宗高のそばで清三郎が笑う。
「宗高様、都でも名を轟かせたお方が、こうして蔵王の祭りの真ん中におられる……なんだか、夢のようでございます。」
「夢で構わぬ。だが、この夢は必ず形にする。村田を、皆が胸を張れる地にしてみせる。」
夜空には春の星が光り、村人たちの歓声がいつまでも続いた。
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◆秋の布袋祭
季節は巡り、実りの秋。もう一つ大祭、村田の布袋祭がやってきた。豊穣を感謝する祭りであり、村田の商いの神でもある布袋尊が祀られる。
商人たちの市が立ち、峰雪の雫の酒が並ぶ。香りを嗅ぐだけで、誰もが笑顔になるような豊かな仕上がりだった。
「ほう……峰雪の雫の出来は格別ですなあ。」
「京でも評判でしたぞ。宗高様が戻られた証じゃ。」
宗高は蔵王七翼を従え、布袋尊の御前に進む。
「今年も豊かな実りを賜り、感謝申し上げる。」
日下十蔵が帳面を持ち、低くささやいた。
「宗高様、峰雪の雫は京・江戸への出荷も倍増の見込み。来年はさらに蔵の増築を……」
「うむ。村田の地が豊かになれば、民の未来も明るい。進めてくれ。」
祭りの山車が動き始め、布袋の人形が村娘たちのお囃子とともに舞っていた。
「笑う門には福来るぞー!」「豊年万作、村田ばんざーい!」「ちょっい!ちょっい!ちょいな!」
有見勘平が笑いながら言う。
「宗高様、あっしらも乗りましょうや! 布袋様に続いて、領主様が笑えば、来年の実りは倍でさ!」
「はは、それは少し派手すぎるな。」
そう言いながらも、宗高の顔には柔らかな笑みが浮かぶ。
祭りの最後、宗高は静かに城下を見回した。灯籠の光に照らされながら、家族のように笑いあう民。商人が声を張り、子供が走り回り、酒の香りが漂う――
この光景こそ、宗高が守りたかったものだった。
「……蔵王権現よ。この地を必ずや千年先まで栄えさせてみせる。」
その言葉に応えるように、蔵王山の方角から、一筋の風が祭りの通りを吹き抜けた。
宗高はその風を受けながら、静かに目を閉じた。
村田の未来が、確かに動し始めていた。




