第十七話 「加護の光 都を照らす 」
宗高が奇跡のように疱瘡から回復した翌日、京の町は混乱に包まれていた。
西洞院、室町、七条――多くの屋敷が病で閉ざされ、人々は戸を閉め、息を潜めている。
医薬に通じる赤坂兵部が調べた報告は、重く沈んでいた。
「殿、疱瘡の蔓延は、都の中心にまで及んでおります。
幼子や老の者だけでなく、若き公家や武家も倒れ……医師らも手が足りませぬ。」
宗高は黙って報告を聞き、拳を握った。
胸の奥――蔵王の加護が微かに脈動している。
「兵部。私が癒したのは神の奇跡ではない。
蔵王の力と、現代の知識の合わせ技だ。」
「現代……?」
「清潔、隔離、消毒。そして、水と風の流れを正すことだ。」
現代で学んだ知識を、宗高は京の危機に使うと決めていた。
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◆京疱瘡鎮めの施策
宗高は朝廷に直談判し、蔵王七翼とともに“疱瘡対策所”を開設した。
すると、朝廷の使者が驚くような申し出を持ってきた。
「宗高殿、都を救うためならば――
その力、存分に振るわれよ。朝廷はすべてを許す。」
宗高は深く一礼し、答えた。
「この命、この力、民のために使わせていただきます。」
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◆癒やしの始まり
都の外れの院に運ばれた疱瘡患者は千人を超えた。
その中を、宗高が歩く。
痛みで泣く子供、うわごとを言う武士、気力なく横たわる町人――
宗高は一人ひとりの手を取り、祈りを捧げた。
胸の中で青い光が微かに揺れる。
> 「蔵王よ。この子の命を、人の未来につなぐ力を……。」
その瞬間、患者の呼吸が楽になり、熱が引いていく。
笹丸が震える声で呟いた。
「殿……これは……奇跡にございます。」
「奇跡ではない。生きたいと願う声と、治そうとする手……
その両方が揃って初めて、蔵王は力を顕す。」
宗高はそう言って、次の患者へ向かった。
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◆知識と神力が合わさる時
宗高は三つの改革を行った。
1. 清潔の徹底
病室を洗い、手を湯で消毒し、寝具を毎日干させた。
(京の医師は目を丸くした)
2. 隔離制度の導入
症状が重い者は屋敷ごと隔離し、感染を防いだ。
3. 風の道づくり
建物の壁を一部壊し、風が滞りなく流れる道を作らせた。
宗高が言うとおり、空気が澄むにつれ、病の広がりは目に見えて減った。
蔵王の加護は、宗高の胸で青く明滅する。
だが加護だけではない。
彼の知識が、蔵王の力を導いていた。
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◆京を包む、青白い光
ある夜、対策所の治療所の片隅に横たわる重病の子が息絶えようとしていた。
母が泣き崩れる。
「どうか……どうか……!」
宗高はその子を抱きかかえ、祈りの言葉を紡いだ。
> 「蔵王権現……火を鎮め、雪を与えるあなたよ……
この子の命の灯を消さぬよう、我に力を。」
青い光が宗高の手から溢れ、部屋全体を包んだ。
患者たちの咳が止まり、熱が下がり、苦しみが緩む。
医師も僧侶も、誰も声が出なかった。
そして、息絶えかけた子の瞳がっとうっすら開いた。
「……おっかぁ……」
母は声を上げて涙を流す。
「生きてる……! 本当に……本当に!」
その光景は京中に広まった。
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◆“蔵王の若公”、京を救う
数週間後、京の疱瘡は急速に終息した。
「蔵王の若公」と呼ばれ、朝廷より再び使者が訪れた。
「その命、その神業、神の奇跡としか申せませぬ。
朝廷はその御身を“蔵王院宗高”と号し、記録に留めまする。」
宗高は頭を垂れ、静かに言った。
「神の御名を戴くこと、恐れ多く存じます。
されど、この命は民のためにございます。
神に代わり、人を導くことが我が務め。」
夜。
宗高は東山から都を見下ろしていた。
満月が京の屋根を照らし、風に鈴が鳴る。
「死を越えてなお、生かされた命――
ならば、この身、すべて蔵王の道に捧げよう。」
笹丸が呟く。
「殿……人がこれほど救われる姿……初めて見ました。」
宗高は静かに空を見上げた。
「蔵王の力は、人を導くための光だ。
だが光だけでは道はできぬ。
人が歩むからこそ、道は生まれる。」
東の空――山の彼方。
宗高の胸に、蔵王の青が深く宿っていた。




