第十三話 「父と子 理想の国を語る 」
仙台城・奥御殿。
広間には香木が焚かれ、静かな光が障子を透かして差し込んでいた。
宗高は深く頭を垂れ、膝をつく。
その前に座すのは、月を背にした伊達政宗――
隻眼の覇者は歳を重ねてもなお、威厳を失ってはいなかった。
「……顔を上げよ、宗高。」
政宗の声は静かだったが、響くような重みがあった。
宗高は頭を上げ、父の目を見据えた。
「村田の地をよく治めていると聞く。
蔵王七翼――その名も、なかなか洒落ておる。」
宗高は一礼し、答えた。
「すべては父上の教えあってのこと。
民の声を聞き、国を磨くことが、武よりも強き力だと悟りました。」
政宗は笑みを浮かべた。
「ほう、武より強い力、か。
ならば問おう。――国を豊かにするとは、何ぞ?」
宗高は迷いなく答える。
「民が、笑って働けること。
その笑顔が、国の富にございます。」
政宗の片目が鋭く光った。
「理想を語るな。笑いなど、戦の後にしか訪れぬ。」
宗高は静かに首を振る。
「いえ、戦の後に笑うのではなく、笑うために戦うのです。」
政宗の口元がわずかに緩む。
「……面白い。
我が若き日にも、そう信じた時があった。」
障子の外で、春風が竹を鳴らした。
政宗は杯を取り、酒を注ぐ。
政宗は盃を傾け、一口含む。
そしてゆっくりと息を吐いた。
「……柔らかい。だが芯がある。まるでおぬしのようだ。」
「恐れ入ります。」宗高は頭を下げた。
政宗は静かに盃を置き、言葉を続けた。
「おぬしの領政は、確かに見事だ。
だが、世の中は“理”ばかりでは動かぬ。
他藩は動き、幕府も疑いの目を向けるだろう。」
宗高はその言葉を真っ直ぐ受け止めた。
「承知しております。
ですが、外の疑いよりも、民の不安を解くほうが先にございます。」
政宗が目を細めた。
「民のために、藩を危うくする覚悟があると?」
「はい。民こそ藩の根。
根を枯らしては、どんな城も倒れましょう。」
政宗はしばらく黙し、やがて笑い声を上げた。
「はははっ……やはり我が子だな。」
宗高が顔を上げる。
政宗は立ち上がり、宗高の肩に手を置いた。
「よいか、宗高。
我は覇で国を創った。
だが、おぬしは“誠”で国を繋げ。
――伊達の世は、その両の力で続く。」
宗高の胸が熱くなった。
「父上……。」
政宗は背を向け、障子越しに月を見上げた。
「いつかおぬしが、蔵王の麓を超え、この国を照らす光となるだろう。
その時、我が名など忘れてよい。
民の口に残るは“蔵王村田の宗高”であれば、それで足る。」
宗高は深く頭を下げ、涙を堪えながら答えた。
「父上の夢を、蔵王の風に託します。」
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謁見を終え、仙台城を後にした宗高。
外の庭には夜桜が咲き、笹丸が木陰から現れた。
「殿……政宗公のお言葉、聞こえておりました。」
「どうだった、笹丸。」
「まるで炎の中に月が浮かぶようでございました。」
宗高は微笑む。
「覇と誠――その狭間にこそ、真の国がある。
我らの道は、まだ始まったばかりだ。」
夜風が吹き、桜の花弁が舞う。
それはまるで、父から子への魂の継承が蔵王の峰へと昇るようであった。




