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あべこべ世界でVtuber探偵ごっこ  作者: 浜彦
ウェディング・マーチ
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第1話 ヘンテコ男の探偵ごっこ

※実験的な近未来・貞操観念逆転世界を描いた作品です。どうぞよろしくお願いします。

※連続殺人事件、および軽度の性描写を含みます。これらの描写が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

 この世界で、最初に男を「花」に喩えた人は、どんな気持ちだったんだろう。


 ただ静かに蝶の訪れを待つだけの存在。

 それは、オトコである。


 だとすれば、俺みたいなのは、この世界が言うところの「男」からは、きっとずいぶんかけ離れてるんだろうな。


 そして今、スクリーン越しに、あるいはフルダイブで俺の配信を見ているお前たちも、そんな変わり者の男を好む物好きってわけだ。


「強き光に焼かれた影にこそ、こぼれ落ちた真実がある。初めまして。そして、久しぶり。俺はシオン、夜の語り部。闇を裂き、真実を拾い上げる時間へようこそ。共犯者きょうはんしゃ諸君」


 夜。

 激しい雨。

 外では雷鳴が轟き、稲妻が空を裂いていた。


 いつもの前置きを終えて、俺は薄暗い部屋へと足を踏み入れた。空気にはタバコと火薬の匂いが漂っている。だが、それよりも強く鼻を突いたのは——鉄錆てつさびの匂いだった。


 俺は匂いの発生源へと近づき、しゃがみ込む。

 差し出された手袋を受け取り、それをはめる。


 ヴェールをそっとめくると、そこには美しい少年の顔があった。


 綺麗な肌、整った顔立ち、ふっくらとしたくちびる、長いまつげ。

 白い衣装を身に纏い、まぶたを閉じたその姿は、まるで童話に登場する白雪姫——いや、白雪の王子と言うべきか。


 そして俺は目にした。

 雪と対になる、林檎の赤。


 湿り気を残した、胸のど真ん中に、大きく広がる紅。


「銃か」


「はい、銃です」


 俺の独り言に答えたのは、部屋に入った時からずっと後ろに控えていたパートナーだった。

 鈴のように澄んだ、成熟した女性の声。

 彼女は淡々と告げる。


「被害者の身元は判明しました。データベースによると、この辺りを縄張りにしているエーデルス家の一員。あのマフィアの息子です。男性保護ネットワークに登録されているハイリスク対象ですね。データだけ見れば、今回の事件も単なるマフィア同士の抗争による報復殺人と分類できるかと……ですが」


「……ああ。なんせ、これがあるからな」


 俺は視線を死者の手元へと移す。

 そこには、真紅のブーケが握られていた。


 花束を彩っているのは、無数の彼岸花ひがんばな

 左手の薬指が、なくなっている。


「これで今月、二件目か」


「はい。累計では、すでに七件を超えています。この調子だと、さらに増える可能性も」


「そっちはどうだ?犯人像のプロファイルは進んでるか?監視カメラに怪しい人物は?」


「ご存じの通り、私たちは有罪を前提とした行動ができません」


「……だよな。悪い。余計なことを聞いた」


 俺は小さくため息をつき、ゆっくりと立ち上がった。

 視線を落とし、被害者を見下ろす。


 新郎しんろうの純白の装い。

 手に握られたブーケ。

 胸の中心を貫いた一発の銃弾。

 失われた薬指。


 ――獲物から「戦利品」を奪い取り、それを物として扱い、装飾として仕立て上げる。まるでインスタレーションアートのように。


 手口は、これまでとまったく同じだった。けれど、俺の胸には、拭いきれない違和感が残っていた。まるで、精緻に描かれた絵の一部が、誰かの手で巧妙に塗り替えられている。

 おかしいとすれば──たぶん、奪われたあの薬指だ。

 けれど、すぐにはその違和感の正体を言葉にできなかった。

 ただ、直感だけが刺さる。

 背筋を走る棘のように、喉に引っかかる小骨のように。


「……今回の被害者も、若いな」


「はい――シオンさま、貴方と同い年です。それに、シオンさまも婚約者持ちですから……標的にされる可能性もあるんです。そう思うと、怒りがこみ上げてきます」


 俺は視線を死体から外し、隣に立つパートナーを見る。


 すらりとした体躯。

 後ろで一つに束ねた長い髪。

 目を引く曲線を描く、豊満なプロポーション。

 艶やかという言葉が似合う女。


 だが、あの目がどこか無機質な光を宿している。


 そう。


 外見こそ人間そのものだが、彼女は本物の人間の女ではない。

 俺が幼い頃から共に育ち、常に傍らにあった、仮生の人工知能《AI》。


「ありがとう。大丈夫だよ。俺は普通の男とは違う。そんなに脆くないし――何より、お前がいる。イマリ」


「……はい。仰るとおりです」


「うん。それより。被害者がここにいるなら、パートナーはどうなった?」


「パートナーなら――こちらに」


 イマリに続いて部屋の隅に向かい、俺は眉をひそめる。


 そこにあったのは、完全に破壊され、ぐしゃぐしゃに歪んだ、かつて人型だった何か。


 もし男性の遺体が芸術品として丁寧に飾られていたなら、これはまさに踏みつけられ、吐き捨てられたゴミ。


「……酷いな」


「はい。いつも通りです。明確な憎悪が感じられます」


 だが、どうやって?


 この世界で男性に配給されるパートナーたちは、危険に備えるため、すべて軍用レベルで設計されている。

 素体は軍規格。高度な戦闘教範に基づき、近接戦闘から各種兵器の運用まで叩き込まれている。


 そんな彼女たちを打ち倒すなんて、並大抵のことじゃない。

 ──にもかかわらず、現場の痕跡からは、ほとんど戦闘の形跡が感じられなかった。

 まるで、抵抗する間もなく一方的に破壊されたかのように。


「やっぱりか……犯人は、パートナーを無力化する何らかの手段を持っている」


「はい。可能性は極めて高いです」


「ふむ」


 どちらであろうと、それは違法な行為だ。

 この閉ざされた楽園ユートピアの中では、どちらも異端。


 まるで完璧に構築されたプログラムの中に、理由不明のまま紛れ込んだ、「バグ」のような存在。


「シオンさま、取材はひとまずここまでにしておきましょう。警察の方々が、すでにこちらへ近づいています」


「ああ」


 イマリが差し出した傘に身を潜らせ、俺はもう一度だけ、事件現場を振り返った。


 この美しさに、心を奪われる俺も——やはり、この世界にとっては異物いぶつなのだろうか。




 ◇


 俺とイマリが皆の前に現れる姿は、暗号化された演算を通じて生成されたバーチャルな外見だ。現場から中継してても、身元を明かさずにアバターの姿で配信できる。旧時代の言い方を借りるなら――そう、俺たちはいわゆる「Vtuber」というやつに分類されるかもしれない。


 現場に足を運んで、ちょっとした冒険をして、それを配信で雑談と朗読に仕立てて語る――それが我がチャンネルのスタイル。


 俺とイマリの設定は、名家の御曹司そして語り部と、武芸百般に長けたメイド。

 まるで古き良き時代のホームズ小説に出てくる主人公たちみたいに。


 演算能力が通貨として運用され、あらゆる創作活動が人工知能に代行されるこの時代において――

 それでもなお、俺はアバターをまとい、実際に配信することに、心を惹かれ続けている。


 他人の目には、きっと偏執に映るだろう。

 非効率だと、笑われるかもしれない。

 けれど、それでも俺は、自分の声で語りで演出するあの感覚が好きなのだ。


 取材をし、構成を練り、台本を整える。

 娯楽が溢れかえるこの世界でチャンネルを運営するのは、決して容易なことではない。


 AIの演算によって生成された映像や仮想現実のほうが、直感的でわかりやすい。曖昧で掴みどころのない言葉や語りよりも、多くの人にとっては魅力的かもしれない。


 それでも俺が信じたい。

 人の手と声によって紡がれた表現には、機械にはない「温度」が宿ると。

 ただの語りだけで、幻覚のような情景を視聴者の脳裏に浮かび上がらせる。

 語り部としての古の技法。その在り様に、俺は惚れ込んでいる。


 例え視聴者が少なくても、大丈夫。

 そもそもこの活動の原点は、自己満足にすぎないのだから。


 それに、俺の配信にはある。

 きっと他では得られない、「非日常」の香りが。


「このままじゃ、いつか人として死ぬわよ。シオンくん」


 嘲るように、皮肉るように、あるいは心配するように。

 そう言いながら、俺の前にいる女は肩をすくめ、深くため息を吐き、椅子にもたれかかった。

 黒く塗られた爪、メガネ越しに覗く泣きぼくろ。

 耳にはこれでもかというほど銀のピアスが飾られ、左手の薬指以外すべてに指輪をはめている。

 女には、どこか退廃たいはい的な美しさがあった。

 安物のタバコの煙を長く吐き出したあと、彼女は俺に、笑っているんだか呆れているんだかわからない顔を向けてきた。


 その言葉に対して、俺は肩をすくめるだけ。

 そして、テーブルの上にあったコーヒーを手に取り、一口。


 ――相変わらず、安っぽい酸味。


「シオンくんが、うちみたいなマイナー事務所とずっと契約を続けてくれてること、本当に感謝してるの」


 女は眼鏡を押し上げ、こちらを見る。


「だからこそ、これからも君と仕事を続けていきたいと思ってる。今回も、実際の犯罪現場にまで取材に行ったんでしょう?危険すぎるわ。もし犯人と鉢合わせでもしたら、シオンくんの身に何かあったら……」


「考えすぎだ、イズモさん。現場に行かなきゃインスピレーションの鮮度が落ちる。安全面だって、毎回イマリがいるし、大丈夫さ」


「イマリが一緒なら、なおさら止めてくれればいいのにね。まったく、ご主人さまに甘すぎよ」


 イズモは呆れたように腕を組み、俺の隣に控えるイマリをにらんだ。

 だが高性能な俺のパートナーは、相変わらず無表情のまま、空になったカップにコーヒーを注ぎ、砂糖を加えるだけ。


「でもさ、俺が現場に行けなくなったら、一番困るのってイズモさんなんじゃない?犯罪マニアのイズモさんにとって、俺の配信って、けっこういいネタなんじゃないの?」


「……まあ、否定はできないわ。シオンくんの配信は面白い。統括AIに犯罪データの照会を求めるのは簡単じゃないし。正直、私の興味に一番役立ってるのは、シオンくんのチャンネルなのよ。そして何より、うちで一番売れてるのも、君なんだから」


 再びため息をついたイズモは、両手をテーブルの上へと置いた。


「データベースの分析結果を見る限り……うちのチャンネルのフォロワーたちも、気になってるみたいなのよ。あの、『ウェディング・マーチ』の続きを」


「だね、俺もそう思うよ」


 なにせ、物語はまさに佳境に差し掛かっているのだから。


 国同士の争いが消え、平和が日常となり、仕事すらもほとんどが機械と人工知能に代行されるようになったこの世界。

 アルゴリズムによって量産される娯楽は溢れ返り、飽和している。


 そんな中で頭一つ抜け出せるのは——

 やはり、現実感のある、非日常の香りを帯びた、そして人の奥底に眠る「恐怖本能」を刺激するような……犯罪をテーマにした配信だ。


 不謹慎かもしれないが、俺自身も、次の展開を期待せずにはいられない気持ちでいる。


 すでに七人を超える被害者。

 守られるべきはずの男性たちを標的にした、恐怖の連続殺人。

 奪われた薬指は、本来ならば結婚指輪をはめるはずだった。


 すべてが、歪で、おぞましく、そして——俺の目にはどこか、美しい。


「……──綺麗だけど、見るだけにしておきなさい。今の暮らしを守りたいなら、深入りしないことだね、シオンくん。いろんな意味で」


「ん?ああ、わかってるよ」


「いや、たぶんわかってないね、君。昔から言うだろ。深淵しんえんを覗く時、深淵しんえんもまたこちらを覗いているって。朱に交われば赤くなる、墨に交われば黒くなるとも言う」


「はぁ」


「ましてや、まともな精神してたら、そもそもそんな配信の発想には至らないはずなんだけどね。ある意味、シオンくんももうこっち側の人間なのかも」


「イズモさんは相変わらずだね。博識をひけらかすみたいに、わけのわからないことを言うのが好きみたい」


「それは当然。だって、楽しいもの」


 病的なまでに美しい女は、ふわりと口元を緩めた。


「美少年を言葉でからかうのは、数少ない私の正当な趣味なんだから」


「それ、イズモさん的には正当な趣味に分類されるんだ。ていうか、性癖とごっちゃになってない?」


「否定はしないよ。だって、君をおかずにするなら、満点どころか百点オーバーしちゃう素材だもん」


「セクハラだよ」


「あら、ごめんごめん。冗談はこのへんにして、そろそろ本題に入ろうか」


 再び、イズモはカップを持ち上げた。

 だが中身が空なのに気づいて、眉をひそめる。

 彼女が指を鳴らすと、宙にいくつかのホログラムレポートが浮かび上がる。


「チャンネルの成長は順調。フォロワーもいいペースで増えてるし、視聴者からの反応もおおむね良好。もし一つだけ問題を挙げるなら、チャンネルのバックエンドに対する攻撃が相変わらず多いってところかな。まあ、この辺はいつものようにネットセキュリティ機関に任せるしかないよ。演算通貨もそれなりに払ってるんだから、しっかり仕事してもらわないと……総合的に言えば、いつも通りって感じ」


「でも?」


「シオンくんの活動、警察がちょっと目をつけてるみたいなんだよね」


「へぇ、そうなのか」


「ん。不安を煽る内容の拡散は控えるようにって要請が来てるよ」


「それがどうした?現場を壊したわけじゃないし。ただ通っただけなら、処罰の対象にはならないはずだ。それに――何を配信するかは、俺の自由だろ?」


「ええ。だから向こうも、今は指をくわえて様子見するしかない状態。でもね――」


 イズモはからかうような笑みを浮かべた。


「警察も、焦ってるのよ。早く犯人を捕まえたい一心で、どんな小さな手がかりでも逃すまいとしてる」


「なるほど」


「つまり、誰かが彼らより先に犯行現場を言い当てた場合、自作自演を疑われて、容疑者として名指しされる可能性すら、あるかもしれない。不用意に尻尾を掴まれないように」


「ああ、わかってるよ」


「うん、頼んだわ。……イマリが一緒にいるなら、まぁ滅多なことにはならないと思うけど、それでも今回の犯人にはパートナーを無力化した前例がある。くれぐれも、気をつけてね」


「善処する」


「それならいいわ。あなたのおかげで事務所も新しい選抜を始められるくらいには予算がついたの。スタッフも、新しいタレントも、きっとシオンくんの負担を軽くしてくれるはずよ」


「おお、新しいメンバーの選抜か。なんだか感慨深いな」


「だね。最初はシオンくん一人だけだったのに、今じゃ契約してるタレントが五人超えたんだ。事業もどんどん大きくなってきてさ、やることも増えてきて、正直ちょっと手が足りない。シオンくんのこともあるし、手抜けないしね」


「俺のことスタッフたちに任せときゃいいじゃん。イズモさんはもう社長なんだから、いちいち自分でプロデュースしなくてもいいのに」


「それがダメなんだって。シオンくんはさ、うちで一番最初に担当したタレントなんだよ? 初期メンバーで、一番大事な存在なんだから。私がやんなきゃ意味ないの」


「はあ」


「もしおすすめの男の子がいたら、遠慮せずに教えて。うちの箱のバランスを考えると、次は男性の新人が欲しいなって。女も悪くはないんだけど……あまり女ばかりだと、リスナーたちが不満を抱きそうだから」


「それもそうかも」


「ん……ってことで、今日の業務連絡はここまで」


 咳払いを一つ、イズモは視線を泳がせながら、自分の長い髪を指でくるくると弄り始めた。


「話は変わるんだけどさ。シオンくんって、紙の本に興味あったりする? ちょうどね、古い時代の小説の実物を手に入れたのよ。よかったら、うちに見に来ない?ついでに、晩ごはんでも一緒にどうかなって」


「紙の小説?それは……かなり貴重だね」


「ええ。保存状態が良くて、電子じゃなくて、ほんとの紙媒体なの。もう苦労して手に入れたんだから。シオンくんも興味あるかなって思って……これは別に他意はないよ?うん、ただちょっと相談したい内容もあるし、シオンくんならきっと詳しいと思って」


 いつものような、からかう笑みを浮かべたままだけど、俺にはわかった。

 イズモの耳が、ほんのり赤く染まっていることに。

 彼女を知らない奴なら、きっと気づかないだろう。

 だけど俺の目には、冷静沈着な「社長」らしさは影を潜め、挙動不審な一人の女がそこにいるようにしか見えなかった。


「面白そうな提案ではあるけど。ごめん、また機会があったら考えてみるよ」


「……そっか。それじゃあ、仕方ないわね」


 しゅんとした様子で、イズモはまるで空気が抜けた風船のようにしおれてしまった。俺はそんな彼女を横目に、カップの残りを飲み干し、席を立って軽く笑みを浮かべた。


「またね。イズモさん」


「ええ……夜道、気をつけて」


 明らかに落ち込んでいる彼女に別れを告げ、俺はイマリにドアを開けてもらい、事務所を後にした。


「……ずいぶんと露骨なお誘いでしたね」


 イマリがぽつりと呟く。俺は肩をすくめ、苦笑しながら言った。


「まあ、悪い人じゃないんだけどさ。でも、上司ってなるとやっぱり。もうちょっとそのへん、考えてくれるとありがたいんだけどな」


「そもそも、あの程度の業務会議ならフルダイブで済ませられますのに。下心、あからさま過ぎます」


「まあまあ。イズモさんへのちょっとしたサービスってことで。いろいろと世話にもなってるしね」


「所属タレントに手を出そうとするなんて、最低です。シオンさまも、あまり甘やかさないでください」


「はいはい」


 イマリの小言を聞き流しながら、俺は歩を進める。

 すれ違う女性たちの視線が肌に刺さるように感じるのは、きっと気のせいじゃない。別に自画自賛するつもりはないが、俺の容姿は――まあ、端的に言って「整っている」部類だ。

 そんなのは、子どもの頃から慣れっこだった。


 イマリから渡されたマスクを受け取り、コートの襟をぐっと引き上げる。


 遠くに滲むのは、目が痛くなるほどのネオンの光。


 宙に浮かぶ広告スローガン、目が回るほどの映像の洪水。

 華やかで入り組んだこの都は、まさに「都市のジャングル」と呼ぶにふさわしい。


 イマリの護衛を受けながら、俺は人波を抜けていく。

 見渡すかぎり、通りを歩いているのはほとんど女性ばかりだ。

 俺のように、パートナーを連れて歩く男なんて──一人もいない。


「シオンさま、お車が到着しました」


「ありがとう」


 ドアを開けてくれたイマリに礼を言い、俺はふと振り返った。

 巨大な高層ビルの壁面に映し出されているのは、金の髪をなびかせる美少年の映像。眩しいほどの笑顔で歌い、踊る姿は、「アイドル」そのものだった。街に溢れる広告も、ほとんどが男性を起用したイメージモデルや代言だった。

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