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ホワイト・ニュー・ワールド  作者: まそらいろ
第一章 空は遥か遠く
7/8

第7話 妖精領への入り口

 世界は六天の星王(グラム・キングス)が統治する六つの領地と一つの独立国家によって運営されている。

 それはそれぞれ。


 北東に魔術領。


 東に獣聖領。


 南東に怪神領。


 南西に勇者領。


 西に妖精領。


 北西に魔導領。


 に分類されている。

 ニーヴィアが旅立ったルモス村は勇者領に含まれており、そこから北上することで、妖精領を目指していた。

 マルクが手配した貨物を乗せた馬車の荷台に揺られること三日。

 その間、道中で出現する魔物退治や護衛を引き受けながらゆっくりと妖精領に向けて進んでいった。

 妖精領は星都が巨大な森の中にあり、その面積は他の六天の星王(グラム・キングス)が治める領地のどれよりも大きい。それもあってか、星都以外の街や集落もかなりの数存在している。

 そんな中 今、ニーヴィアが目指しているのは、その中でも最も星都に近い「外都セフィリーア」と呼ばれている街だった。


「おーい、そろそろ着くぞー」


「はーい!」


 馬車を運転している商人の声に元気に応えるニーヴィア。

 ニーヴィアが外都セフィリーアを目指している理由は至って簡単だ。

 先日ハーフエルフのセルカからもらった通行証。それは妖精領の星都に入るためのものだ。それを渡された以上、ニーヴィアは星都に入ることを決めていた。

 星都とは、本来限られた人間しか入ることを許されない神聖な場所。各領地が運営している星王養成学院の卒業者、もしくは上位階級の冒険者や貴族、その家族たち、そして星徒(ライズ)。それらが大部分を占めている。

 もちろん、商人や外交、「星王戦」などの例外は存在するものの、普通に生活していては入ることのできない聖域と言えるだろう。

 そんな場所への通行証を手に入れた今、それを使わないニーヴィアではない。それなりに色々な場所を旅してきたニーヴィアであっても星都には入ったことがないのだ。となれば俄然、興味はそそられるというもの。

 そんな星都に入るための準備ということもあって、外都セフィリーアに向かっているというわけだ。

 すでに馬車は妖精領に入っており、豊かな自然がニーヴィアの周りに広がり始めている。自然が多いと周囲に満ちる魔力領も増大する。となれば魔物も増えそうなものだが、星都に近づけば近づくほど、逆にその数は少なくなっていった。

 その答えは————。


「いやー、やっぱり都心は魔物が少ないなー。嬢ちゃんみたいな強い冒険者が多いからか?」


「うーん、そうとも言えるし、そうとも言えないっていうか……。冒険者もそうですけど、星都の周りには星徒を目指す人たちで溢れかえってますから、低級の魔物は狩り尽くされちゃうんだと思います」


「ほえー。俺なんかこんな都心に来ることなって滅多にないから、新鮮な気持ちだなー。できることなら田舎も魔物が少なくなってくれればいいが」


「……そうですね」

 ニーヴィアはその言葉に少し俯いてしまう。剣槍を握る手に力が入り、悔しそうな顔を浮かべていった。

 この世界は誰もが世界の統治者、六天の星王(グラム・キングス)を目指すことができる。それはつまり、六天の星王(グラム・キングス)の周りにその志願者が大量に集まるということだ。

 具体的に言えば星都。

 そこに世界の戦力が集中する。

 そうなった場合、冒険者以外の戦力は都心と田舎では格差が生じてしまう。こればかりは仕方のないことだが、戦力がいなければ出現する魔物を倒すことができず、必然的に被害が増大するのだ。

 それがさらに生活水準を大きく下げてしまい、発展の妨げとなっている。

 六天の星王(グラム・キングス)や星都に住む人々からすれば無縁の話ではあるが、この問題はそう簡単に無視できなくなりつつあるのだ。


「おっ! 見えてきたぞ。外都セフィリーア。俺は嬢ちゃんを降ろして別の場所に向かうからここまでだな」


「はい! ありがとうございました!」


 外都セフィリーア。

 そこは街中に水路が張り巡らされている水に恵まれた妖精領に最も近い街。

 水路を利用した造りのため、街に高低差があり、大きく三階層に分けられている。ルモス村に比べてその面積は五倍以上大きく、その入り口にはたくさんの人が並んでいるようだった。

 ニーヴィアはその入り口近くで馬車から降り、深々と商人に俺をすると、改めてその街を見渡す。


(外都セフィリーア。噂通り、すっごく綺麗な街……。冒険者もたくさんいるみたいだけど、学生服を着てる人もいる。妖精領の星王妖精学院があるのもこの街だったはずだから、当然って言えば当然なんだけど……)


「いやー、私みたいな田舎者が来る場所じゃないなー。なんて……」


 とはいえ、このまま呆けているわけにもいかない。

 ニーヴィアは意を決して入り口の待機列に並んでいく。星都であれば厳しい審査を経てその内部に入ること許されるが、通常の街や村であれば一定の身分証明ができれば入ることができる。

 ニーヴィアであれば冒険者証。

 それは銀色のブレスレットの形をしており、魔力を流すと冒険者ギルドに登録されている情報が閲覧できるようになっている。

 逆に言えば、それを開示してしまうということは、冒険者としての記録も全て見られてしまうため、万年底辺冒険者(ライビギナー)と呼ばれているニーヴィアにとってあまり好ましくないのだが。


「では次。身分証を」


「は、はい!」


 そんなこんなでニーヴィアの番が回ってきた。

 警備の衛兵はニーヴィアよりかなり大きい男。腰に長剣をさげ、鋭い目つきでニーヴィアを見つめていた。

 ニーヴィアは自身の魔力をブレスレットに込め、自分の情報を表示させる。それは水色の文字を空中に浮かび上がらせ、ニーヴィアの情報を事細かに記していった。


「……ふむ。万年底辺冒険者(ライビギナー)か……。まあ、いい。通っていいぞ。冒険者ギルドは中層に入って右手にある。迷うなよ」


「は、はい! ありがとうございます!」


 衛兵が万年底辺冒険者(ライビギナー)を言った瞬間、ニーヴィアの後ろから蔑むような笑い声が聞こえてくる。ニーヴィアとしてもその不名誉な二つ名で呼ばれるのは非常に恥ずかしいので、早々と街の中に入ることにした。

 入り口の門を潜ったニーヴィアは、まずその街の大きさと人の量に圧倒される。


「うわーっ! 人がいっぱい! っていうか、なにあれ? 船? 街の中に小さい船がたくさんある……。もしかしてあれで移動するの?」


 水路を用いた街であるということは当然その水路を進むための船が用意されているということだ。それに乗り、水の出し入れを行うことで高低差がある場所でも移動できるというのが、この街の仕組みなのだろう。

 ニーヴィアはまず、入り口近くにあった街の地図を確認する。

 外都セフィリーアには上から上層、中層、下層の三つの階層に分かれおり、それぞれ上層には養成学院、中層には冒険者ギルド、下層には商店街が主な施設となっていた。

 ニーヴィアとしてはまず情報を集めなければいけない。

 宿や食事を取るにしても、初めて訪れる街ではその勝手がわからず変な事件に巻き込まれることもある。

 そんなときに助けてくれるのが各街や村に立てられた冒険者ギルドの支部である。ルモス村にあった冒険者ギルドもその支部の一つであり、冒険者のサポートだけでなく、街の案内所的な役割を果たしているのだ。

 というわけで初めての水路ではあるものの、ニーヴィアは船に乗って冒険者ギルドがある中層を目指すことに。

 船はそれを操縦する船頭がおり、移動自体にお金はかからない。ニーヴィアの身体能力であれば、別に船を使って移動する必要もないのだが、それは悪目立ちするため周りと同じように船に乗っていく。

 船が進む水路は透き通っており、よく見ると小さな魚が何匹も泳いでいた。そんな水路をゆっくりと船は進んでいく。

 そして少し進んだところで、船は中層に登るために一時停止し、船を浮かせている水面が徐々に持ち上がり始めた。


「うわ、すごっ! こうやって登るんだ」


 ニーヴィアの周りにも同じように初めてこの街にやってきた人たちがいたようで、驚きの声をあげている。船頭はそれを嬉しそうに見つめ、みんなが船から落ちないようにまたゆっくりと船を走らせていった。

 そんなこんなで中層。

 ニーヴィアは船から降りると、衛兵から言われた通り、右手を確認する。そこには流守る村のそれよりも大きな冒険者ギルドの建物がそびえ立っていた。


「ここかあ……。おっきいな……。っていうか、めちゃめちゃ人いるし……」


 見ればそこには鎧を着た剣士のような人や、ニーヴィアと同じように魔女帽子を被った魔術師のような人、はたまた大きな斧を背中に担いだ屈強な戦士のような人まで、色々な装備に身を包んだ冒険者が集まっていた。

 冒険者ギルドは基本的に年中無休ということもあって、空いていることなどほとんどない。掲示板や受付は常に混んでおり、報酬が良い依頼はすぐになくなってしまう。

 とはいえ、今のニーヴィアは依頼を受けに来たわけではないので、そこまで焦ってはいない。

 そんなことを考えながらニーヴィアもその中に足を進めていった。

 のだが。


「ん? はっ! なんだ、誰かと思えば万年底辺冒険者(ライビギナー)のニーヴィアじゃないか。なんだよ、お前もこの街にやってきたのか?」


「げっ! ライナー……。ライナーもこの街にいたんだ……」


 ライナーという名の少年に呼び止められたニーヴィアは思わず顔をしかめてしまう。それはニーヴィアらしくない表情で、ガダルテやマルクが見たらきっと驚くだろう。

 そのライナーと一緒に後ろから三人の少年少女が歩いてくる。彼らもしっかりとした装備を着ているあたり冒険者なのかもしれない。

 そんなことを考えながら改めてニーヴィアはライナーに向き直った。

 ライナーは茶髪の少年で、髪をかきあげるように逆立たせている。その身体を包んでいるのは魔力を感じる鋼鉄の鎧と小さな盾。そして腰には赤い光を反射してくる一本の長剣がささっていた。

 そしてライナーの後ろからついてきた三人も見れば特徴のある格好をしていた。

 まず気の強そうな少女。頭には魔女帽子と大きな宝玉がついた杖を持っている。加えて魔法発動に必要な触媒などを腰にぶら下げているあたり、魔導士と見ていいだろう。

 次に気の弱そうな少女。彼女も杖を持っているがそれは魔導士の少女とは異なる形状をしている。質の良い木材から切り出したと思われる長細い杖。彼女から魔力をそこまで感じないところをみると、回復に特化した魔導士、もしくは魔術師かもしれない。

 そして最後にライナーよりも体格のいい少年。大きな盾を持っているあたり、誰が見ても盾役(タンク)だろう。一応斧らしきものも持っているようだが、あまり使われている形跡がないあたり、攻撃役はライナーが引き受けているらしい。

 ちなみにニーヴィアとライナーは冒険者になったタイミングが同じ時期の同期だったりする。そのころから何かとライナーはニーヴィアにちょっかいをかけてきており、さすがに面倒くさくなったニーヴィアは、あるときを境に適当にあしらうことに決めていた。

 なのだが、前回会ったときにはいなかった人物が増えていたため、少し思考を巡らせてしまう。


(……またメンバーが増えた。今度は魔導士か。……バランスは良さそうだけど、よくもまあ、あのライナーと)


「おい、聞いてんのか? 万年底辺冒険者(ライビギナー)?」


「うるさいな。その名前で呼ばないでっていつも言ってるよね。……っていうか、用がないんだったら私、先急ぐから。それじゃあ」


「おいおい、待てって! お前もこの街に来たってことは、『あれ』に参加するのか?」


「……あれってなに?」


 そしてライナーは言い放つ。

 この外都セフィリーアだけでなく、妖精領全土を揺るがすことになるそれの名前を。




「女王の樹海の選抜合同試験だよ」




 女王の樹海。

 それは妖精領のさらに西に位置する大樹海。

 エルフであっても迷わずに戻ってくるのは至難の業と言われている大森林。

 そこで行われようとしている試験。

 それは新たな因果を呼び込もうとしていたのだった。


次回 第8話 妖精院

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