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ホワイト・ニュー・ワールド  作者: まそらいろ
第一章 空は遥か遠く
1/8

第1話 少女の名は

みなさま


ご覧いただきありがとうございます。

この度、新作を投稿させていただくこととなりました。

ゆっくり、じっくりと書いていこうかと思っています。


今後とも何卒よろしくお願いいたします。

「うーん! 今日も快晴、晴天、いい天気!」


 そう言って彼女は背伸びをする。

 その言葉通り、見上げる天上の空には雲ひとつない青が広がっていた。

 そんな空から降り注ぐ日差しを眩しそうに見上げながら彼女は妙に大きな帽子をかぶる。それは俗に言う「魔女帽子」のような形をしており、水色の生地に無数の六芒星が刺繍されていた。加えてそのどれもが太陽の光を反射することなく輝いている。これがどう言う仕組みによるものなのか、彼女自身もよくわかっていない。

 とはいえ。

 この帽子が彼女のトレードマークなのだから仕方がない。


 続けて彼女は胸いっぱいに空気を吸い込み深呼吸した。

 体に酸素が巡り、少しずつ体温が上がっていくのがわかる。

 彼女の朝はこれでようやく整うのだ。


「さ! 今日も今日とて冒険だ! ……って、今日は色々買い物しなくちゃいけないんだっけ……。うーんと、ここから一番近いのは……」


 そう言って、彼女はゆっくりと目を閉じた。

 瞼の裏に浮かぶのは、どこかの景色。まるで建物の輪郭だけ捉えたようなその光景に最初は位置関係がわからなくなるものの、すぐさま修正して脳内でまとめていく。

 普通の人間にとってそれは特殊極まりない行為だ。

 だが、彼女にとってそれは普通。


 産まれた(・・・・)ときからできて当然のこと。


 だが彼女も外に出て随分と経つ。自分の常識と世界の常識がズレていることをしっかり理解していた。

 だから今の彼女はそんな自分の常識を自ら話すことも、言い回ることもしない。

 ただひたすら、自分の目的のために、まっすぐ突き進んでいる。


 ようは————。


 彼女は今。


 楽しく生きているのだ。


「お! 見つけた! ここから十キロくらい先かー。まあ、のんびりいきましょー!」


 それが今の彼女。

 かつての彼女を知る者が見れば、まず間違いなく驚くだろう。

 それほどまでに彼女は変わった。

 世界を見て、感じて、触れて、変わった。


 そんな彼女は今日も歩く。

 白とも薄い水色とも言える長い髪を揺らしながら、ゆっくりと目的地に向かって歩き出すのだった。




 ***




「おい! 他に冒険者はいないのか!」


「い、今、対応している冒険者で全てです!」


「くっ……。なぜこう言うときに限って星徒(ライズ)のやつらはいないんだ……」


「ギルドマスター! 何か策を!」


「わかっている! ミール、お前は星都(せいと)へ応援要請。私は近隣の村や街に掛け合って冒険者を集める!」


「わ、わかりました!」


 ルモス村の冒険者ギルドの一室にて。

 この村に置かれた支部の管理を先月から任された若いギルドマスターとその秘書が、冷や汗をかきながら何かの対応にあたっていた。

 彼らの前に置かれているのは監視用の宝玉。魔力を込めると指定された範囲内を映像としてみることができる代物だ。無論、悪用されると非常に困るものでもあるため、指定できる範囲はごく僅かな場所に限られ、魔力の燃費も悪いことから、非常時以外は使用することが躊躇われている。

 しかし、今はまさにその非常事態。

 目の前に映し出されている映像には討伐ランクB級相当の魔物が三十匹ほど村の入り口に集結していた。このランク帯の魔物になってくると、一介の自警団や衛兵程度ではどうすることもできない。

 対抗するには同ランク帯の冒険者か、星都から派遣される星徒が必要とされている。

 冒険者ギルドにも対応できない魔物が出現した際は、直ちに応援を呼ぶ決まりとなっている。

 だが、物理的な距離の問題はどうやっても解決できない。

 冒険者の移動は常に流動的。星徒はその貴重性ゆえにほとんどが星都から離れることはないときている。

 つまりこのような場合、なんとしても応援がくるまで時間を稼ぐ必要があるのだ。

 だが————。


「ダメです! 星都から応援は出せないと……。あちらも先日の戦いで人員が足りないらしく……」


「ふざけるな! 何が星王戦(・・・)だ。味方同士で戦って戦力を減らしていては意味がないだろう!」


「と、とりあえず、住民に避難勧告を……」


「頼む。こちらはなんとか繋がったよ。隣の街からC級冒険者を五人送ってくれるそうだ」


「C級ですか……」


「非常事態だ、送ってくれるだけまだマシだ。門の守りはどうなっている?」


「七割崩壊しています。……いや、でもおかしいです。この門には魔物が嫌がる魔力をまとわせた物質で作られています。この損傷率はあまりにも……」


「……嫌な予感がする」


 そう言ってギルドマスターは再び宝玉に魔力を流し始めた。

 するとそこに映し出されていたのは、真紅の体に二つの足で立っている牛と悪魔を合体させたような見た目の一体の魔物の姿だった。


「ばっ! あ、あれは『グランゾゴロン』!? A級の魔物だぞ!?」


「グランゾゴロン!? A級の中でも危険度最上位の魔物じゃないですか!? ど、どうしてこんな田舎の村に……」


「あ、あれは無理だ……。C級やB級が束になって勝てる相手じゃない……」


「で、では……?」


 強制避難。

 そんな文字がギルドマスターの頭に浮かび上がっていた。

 これは文字通り、現状の戦力でどうすることもできない状況に面したとき、全てを捨てて逃げることに専念する最後の手段。

 通常このルモス村には強力な魔物はほとんど寄り付かない。その理由は簡単で、先ほど話に上がったように魔物が嫌がる魔力が使われた防壁がいくつも建っているのだ。

 そのため、この村は初心者冒険者が最初に旅立つ村とさえ言われている。

 そんな背景もあり、この状況はまさに絶望的だった。


 しかしここで。

 ギルドマスターが見ていた宝玉に一人の少女(・・・・)が映し出された。その少女は一人でグランゾゴロンの前に立ち塞がる。

 そして次の瞬間。


 彼女の戦いは始まった。




 ***




「負傷者の手当てを急げ!」


「で、ですが、もう壁が持ちません!」


「この際なんでもいい! 岩でも木材でもなんでもいいから集めて時間を稼げ! 俺たちじゃあの魔物は無理だ! このままだと全滅するぞ!」


 実際の戦場はさらに悲惨だった。

 どうにかして集めてきた冒険者たちもすでに満身創痍。

 B級の魔物だけならいざ知らず、A級のグランゾゴロンまで出てきているこの状況は、彼らの戦意を簡単に打ち砕いてしまった。

 それでもなお逃げずに戦っていられるのは、この戦線のリーダーが村一番の冒険者、ドワーフのガダルテだったからだ。

 彼はドワーフの中でも比較的恵まれた体躯をしており、村唯一のB級冒険者だった。そんな彼がまだ折れずに戦っているからこそ、この戦いはまだ続いている。

 しかしグランゾゴロンが出てきた以上、そんなガダルテでも勝機はない。

 グランゾゴロンは本来A級の冒険者が五人以上のチームを組んでようやく討伐できるレベルと言われている。その理由は魔物でありながら器用に武器を使う点と、あまりにも高すぎる魔力耐性の二つだ。村の対魔物用防壁すら容易く突破し、人間が持つ得物よりもはるかに大きな武器を使って蹂躙する。

 その圧倒的とも言えるパワーこそがグランゾゴロンをA級最上位の魔物へと押し上げているのだ。


「ぐうぅ!?」


「ガダルテさん!」


 そんなグランゾゴロンの大きく振り上げた大剣がガダルテを吹き飛ばす。彼の持っていた斧は粉々に砕かれ、威力を殺しきれずにその体が吹き飛んだのだ。

 それを見ていた周囲の冒険者たちの顔は絶望に染まってしまう。絶望に支配されると、体は強張る。自分の実力はまともに出せず、全ての行動がワンテンポ遅れるのだ。

 それは戦場において死を意味する。

 だからこそ。

 終わったと、誰もが思った。

 死んだと、誰もが予感した。


 だが。

 それはあまりにも柔らかにやってきた。


「グランゾゴロンかー。なんでこんなところにいるんだろう? 君ってもっと都会の魔物だよね?」


 大きな魔女帽子を被った少女。

 そんな少女の手には杖のような純白の剣槍が握られている。

 そんな少女の姿を見ていた冒険者たちは、目の前の状況を理解できていなかった。こんな戦場に、可憐な少女が一人でやってきているこの状況を。

 しかし。

 ガダルテは一人、妙な違和感を感じていた。

 少女が持つ、その武器。

 ガダルテはドワーフであるため、その武器の質をある程度見抜くことができる。彼が今まで見てきた中でその質が最も高かったのは「例の五人(・・・・)」が持っている武器だが、そんな彼が見ても彼女の武器は異質だった。


(な、なんだ、あれは……? 何も見えねえ……。この俺が見ても何も見えない武器なんて初めてだ……)


 地面に転がる体をなんとか起こしながらそれを見ていたガダルテだったが、そんな彼の目にまた別のものが映ってしまう。

 それは先ほどギルドマスターが呼んだ隣町のC級冒険者たちで、こちらに一生懸命走ってきている。しかも問題なのはグランゾゴロンに気がついていないということで————。


「まずい!」


「ん?」


 ガダルテと同時に少女も気が付く。

 このままいけば少女ではなく、グランゾゴロンはその冒険者たちをターゲットにしてしまうことに。

 そしてグランゾゴロンは当然のように少女に背を向けC級冒険者たちに向かって突撃していった。


「え? な、なんでグランゾゴロンが!?」


 それに全く気づかず先頭にいた鎧を身に纏った女性は、突進してきたグランゾゴロンに驚き思わず声を上げてしまう。そのせいで自らの勢いを殺しきれずに止まることもできないようだった。

 この場にいる全員が彼女の死を悟った。

 このままいけばグランゾゴロンの大剣によってその身を断ち切られてしまうだろう。死の予感が見ていた者全ての思考を支配する。それは一瞬のようで、どこまでもゆっくりとやってきた。


 なのだが。

 今回は違った。

 さらに時間が伸びるような感覚が走り、魔女帽子の少女が間に割り込んだのだ。


「よそ見とはいい度胸だね」


「ガッ!?」


「これでもくらっておきなよ」


 そう言って少女は右足をグランゾゴロンの顎に向かって蹴り上げた。それはグランゾゴロンの体を少しだけ中に浮かせ、硬直時間を作り出す。


「じゃあね」


 そして最後は一閃。

 手に持っていた剣槍を真横に振り抜いてグランゾゴロンの体を両断した。


「は?」


 ガダルテは何が起きたのか理解できなかった。

 たった一人の可憐な少女がグランゾゴロンを一撃で倒した。

 その事実は自分の両目で見ている。

 しかし脳がそれを理解してくれなかった。

 だが、それをガダルテたち全員が理解する前に少女は動き出す。

 地面を抉るほど強く地面を蹴った後、雷の如き速さで駆け回り、残っていたB級の魔物を全て倒してしまったのだ。

 そしてそれも当然一撃。


 そんな少女は魔物の返り血を切り払うと、腰を抜かして立てなくなっていた鎧の女性に手を差し出していった。


「大丈夫? もう魔物はいないから安心していいよ」


「え、えっと、あ、ありがとう……」


「どういたしまして!」


 少女は満面の笑みでそう答えると掴んだ女性の手を引っ張って起き上がらせた。そして自分の服についた砂埃を払うように手でぱんぱんとはたくと、くるりと背を向けて歩き出してしまう。


 そんなとき。

 ようやく起き上がれたガダルテは大きな声でこう問いかけた。


「ま、待ってくれ!」


「ん? なにか?」


「……お前は、いったい何者なんだ?」


「……」


 その問いに少女はすぐに答えなかった。

 そして少しだけ考えた素ぶりを見せると、晴れ渡る笑顔でこう返す。




「私はニーヴィア。ニーヴィア・リアスリオン」




 彼女の名はニーヴィア・リアスリオン。




 この世界には。

 集めるとどんな願いでも叶えることができると言われている秘宝、「三大秘宝」と呼ばれるものが存在している。

 その秘宝を手にしたものは「魔宝使い」と呼ばれ、魔宝という力を行使できるようになると語り継がれている。


 だが。

 この世界を治めているのはそんな魔宝使いではない。




 六天の星王(グラム・キングス)




 この世界の頂点に君臨する六人の王。

 最強と呼ばれる彼らは皆の憧れであり、同時に目指すべき場所でもある。


 そんな世界でニーヴィアという少女が生きるお話。

 彼女が何を求め、何を達しようとしているのか。




 そんな冒険譚。

 これは運命を辿る物語だ。


評価や感想、レビューなどは大変励みになります。

何卒よろしくお願いいたします。


次回 第2話  世界の理

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