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最初の町で主人公が冒険者ギルドに行くのは、なろうあるある

 ※最初は、俯瞰視点から始めます。

 ※ ※ ※

 ベノ・レギー国の王城、謁見の間。

 国王であるレオバルトは、玉座に座り頬杖をかいていた。

 瞬間、ただでさえ静寂であったこの部屋に、音が消滅する。

 

 そう、ソウクがテンバイヤー戦で『ブレイクダウンオクロック』を発動したからである。


 「まさか、まだ時間停止の魔法なんて使う時代遅れの奴がいるなんてねえ?

 今じゃ即死・現実改変と並んで誰も習得しちゃいないでしょうに・・・・・・」

 無音のはずの世界で、玉座の真後ろから野太い声が響く。


 「コンウォル副騎士長か。・・・・・・いい加減、素直に出入り口から部屋に入れないのか?」


 「イタズラ好きで気まぐれな妖精に、常識語るなんざ野暮ってもんでしょ?」

 玉座の陰から、コンウォルと呼ばれた者がぬるっと現れた。


 彼の特徴は、体型は、二頭身の肥満短足で、全身が黒い毛で覆われており、その体のサイズに合わせた鎖帷子を身につけていた。

 顔は、美形とはお世辞にも言い難いが、どこか愛嬌もある。

 そして鎖帷子の胸元には、蝶々の紋章が記されてるワッペンが取り付けてあったのだ。


 「貴様は、時間停止の価値を軽んじているが、彼らを見てみろ」

 自分の左後ろ辺りに親指を向けるレオバルト。

 指先には、仁王立ちの状態でぴくりとも動かない兵士の姿があった。

 他の兵士も同様だ・・・・・・時間停止魔法を対策してない者達は、例外なく、1秒と1秒の狭間には、辿り着けない。


 口元に両手の平を覆って、下品に嗤うコンウォル。

 「成程、最低限魔導師では無い者達から、陰口悪行がバレないってことか。

 悪だくみを企んでいるのをチクられたら、あのクソ真面目の石頭騎士団長様に叱られちまうから」


 「上司を蔑称で呼ぶのは、感心しないな」

 

 「だってそうでしょう?

 彼女の前で、私掠船の免許配布や強盗騎士の賄賂や奴隷売買の名簿について口を滑らせようもんなら、身分や立場を忘れて怒鳴り散らしてくるんですもんあの人。

 もうちっと、柔軟に物事を考えられないのかね〜」


 ※私掠船・・・敵国の貿易船を襲撃・略奪行為を行う船で、国家に認められている。

 ※強盗騎士・・・騎士の身分でありながら、決闘のルールを悪用して恐喝や誘拐をして相手から金品を奪う者。

 

 「同意だな。 綺麗事だけでは、まつりごとは、上手くできない。

 大義をす為には、清濁合わせもつ事が大切なのだよ」


 「そろそろ他愛無い話は、この辺でお開きにしましょう。 要件は?」


 「地球に帰還していることになっている異世界人の居所を掴め。

 昨晩召喚された勇者とは、別の方だ」


 「はい、行方不明になっている男ですね?

 承りました。 居場所は、どこら辺か、目星が付いてますか?」


 「目撃情報によれば、王都から南西辺りの町に、彼の姿を見たと、民草の一人が言っていた。

 まあ、確定情報では、無いし、移住してるかもしれんがな」


 「へいへい、とりあえず探してきます」


 「ん? あれ? コンウォル副騎士長!?

 何時ここにお越しになりましたか?」

 レオバルトの右後ろにいる兵士が、驚いた声を上げる。

 

 「ビックリさせてしまって申し訳ないです。

 お仕事お疲れ様です。 兵士さん」

 先程の軽薄な態度で軽口を叩いていた彼が、柔らかい物腰で丁寧な口調を話す人格者へと変貌した。

 (あ〜、いい子ちゃんぶるのも楽じゃないね)


 「ああそうだ、コンウォル」


 「まだ何か? 陛下」


 髪の毛を軽く掻いて気だるそうに命令するレオバルト。

 「暇そうにしている騎士を見かけたら伝えろ。

 城下町の西区域3の17番地にいるテンバイヤーを拘束しろ とな」

 少し驚きながらも はい、仰せのままに と答えて謁見の間を去るコンウォル。


 その後、レオバルトは、首を傾げながらポツリと呟いた。

 「ハスキー・・・・・・?」


 ※ ※ ※


 いやー『ブレイクダウンオクロック』が解けたな。 制限時間付きの魔法だったとは。

 もし永遠に時間停止が解除できなかったら、俺がこの世界全土を凍結させた悪の大王になるとこだった!


 テンバイヤーさんを撃破した後、俺は、深手を負ってるエクサキューさんに肩を貸してとりあえず例の質屋に二人で入った。  入口ではなく誰かさんが壊した壁の穴から侵入して。


 「おっちゃんは、大丈夫か!?」

 時間停止は、現在解除されている・・・・・・つまり止まっていた彼の血も再び流れ始めているということになる!


 カウンターの奥側で店長の生存確認ができた。

 しかし素人目から見ても猶予は、無いのが見てわかる。


 「回復系は、残り少ねえけど良いのあるのかな?

 ・・・・・・あった! 怪我人が複数人いる場合に適した術が。 早速発動しよう。

 『回復魔法 ライフサークルライン』」

 魔導書を持った俺を中心とするよう、床から半径8フットウェイ(日本換算で2メートル)の緑色の魔方陣が浮かび上がってきたのだ。

 光で構成されているそのサークルの内に、エクサキューさんを招き入れ、倒れている店主を何とか運ぶ。


 「・・・・・・おぉ、すごい。 すぐに痛みが引いて、傷が塞がっていくのを感じる。 

 貧血も治っていく。 ありがとうソウク殿」


 「お礼なら、この魔法を魔導書にインプットした術師に言ってください」

 まあ、俺からもお礼がしたいよ。 何処ぞの顔も名前も知らないヒーロー。


 「う、ううん」

 声を漏らし、みじろぎする店主。

 すごいなこの魔法。 治療速度が一目瞭然で分かるな。

 「うん・・・・・・? わしはっ・・・・・・?」

 お、すぐに目を覚ましたな。


 「店主殿。 具合は、如何かっ? 回復魔法で彼から治療を施しているが、まだどこか不調なら医者の方まで連れていくが?」


 「いや、大丈夫だ。もう平気だ。 ところで何があった? 先程までの記憶が曖昧なのだが・・・・・・」


 俺達は、大通りでのびているテンバイヤーさんの方を向いた。

 「近衛騎士副団長の魔法を喰らって、大怪我を負ったんだよ」

 そうだったのか・・・・・・ と項垂れる彼。 まあ、事実を受け入れられない気持ちは、とても分かる。

 騎士の中でも忠義心と正義感が強い彼がなぜこんな凶行を・・・・・・俺も認めたくねぇよ。

 

 「店主殿・・・・・・」

 何だ? エクサキューさんが改まってかしこまって店主の方を向いて正座している。

  

 「この度は、護るべき民間人である貴殿に、関係ない戦いに巻き込ませ、店を壊し、我の判断ミスで大怪我を負わせた事、誠心誠意謝罪させて頂きますっ・・・・・・!」

 そして彼女は、次に土下座!?


 「何やってんすか!? 騎士団長ともあろうお方が、簡単に民間人に頭を下げてっ!!」


 「そうだっ! こっちが申し訳なくなるっ!」  俺だけでなく店主も狼狽える。


 「いいや、誠心誠意謝らせてくれ。 これは、我のけじめなのだ。

 それと、これを・・・・・・」

 エクサキューさんは土下座を止め、麻袋から一枚の紙と羽ペンを取り出す。  

 何だそれ・・・・・・小切手?

 次に彼女は、慣れた手つきでその紙にサインをし、彼に手渡す。


 「我の名義を記入しておいた。

 手間をかけさせて悪いが、銀行へそれを渡してくれ。 一階の壁と二階の窓の弁償代になるだろう」

 あ、やっぱりさっきのガラスの破片は、エクサキューさんが原因なんだ。


 小切手を読んで度肝を抜く店主。

 「こんな額受け取れねえよ!? 修繕費を優に超えている!」


 「慰謝料込みだ。 我らがこの冒険を終えたら、改めてお詫びするために参る。

 それと、箒とちり取りをを拝借できないだろうか?」


 「え? ああ、別にいいけどよ。

 箒とかは、二階に置いてあるぜ」

 それを聞いたエクサキューさんは、階段を上っては、すぐに降りて、大通りに散らばっている瓦礫やガラスの破片を片付けている。


 ・・・・・・もしかしてこの騎士、町村で戦闘する度に弁償と後片付けを繰り返しているのか?

 真面目だな・・・・・・と、思ったけどちょっと考えたら、そもそも最初から民家の被害を出さないよう慎ましい戦い方・立ち回りをすれば良かったのでは無いか? とも考えてしまう。


 「ソウク殿。 テンバイヤー副団長の拘束を頼めないか?

 何時目覚めてもおかしく無いからな」

 

 「おっ! 承知致しました」

 テンバイヤーさんの得物であるモーニングスターの鎖で、ふん縛ろうという案は、一瞬だけ考えたけど、鎖自体を操れる彼の前では、無意味で終わると思ってやめた。

 

やはりここは、魔法だな。 魔導書の拘束系の項目を探す。

 え〜と、あった。 『拘束魔法 アームロックスペシャル』

 術名を唱えて発動する。 無事、気絶しているテンバイヤーさんの無力化が成功した・・・・・・けど。


 「ソウク殿、もっと他の術は、無かったのか・・・・・・?

 流石にこれは・・・・・・」


 「おぃ、何だこりゃあ・・・・・・」


 みんな、自動人形オートマタは、ご存知かな? そう、魔力や燃料で動く人間の姿を模した自律式人形さ。

 成人男性の背丈と体躯ガタイを有する木製のデッサン人形を想像してごらん。

 それが。


 それが、大通りの虚空から突如現れた。 倒れているテンバイヤーさんに向かって歩み寄ったかと思えば、即座に彼の身体をプロレス技の腕ひしぎ十字固めで縛り上げたのだ!?

 

 「ウウッ・・・・・・」

 まだ目を覚ましてないテンバイヤーさんは、苦悶の表情を見せ、呻いている。

 全くシュールな光景。

 何というか、酒の席で、ふざけて考案されたかの様な魔法。


 「この術は、間違いなく・・・・・・」

 エクサキューさんは、その術の使い手に覚えでもあるのか呟く。

 まあ、俺も知ってるんだけどね、騎士見習いだから。


 ((絶対メロメ団長の魔法だろこれ・・・・・・))


 「ま、まあこれでもし鉄球のおっさんが目を覚まして暴れても大丈夫っすよね」


 「あ、あぁ。 話は、変わるが店長。 リュックを始めとした旅用道具一式は、置いてあるか?」

 そうだ。 本来、俺達がここに寄った理由は、買い物するためだった。


 「あるよ。 ちょっと待ってくれ。 すぐにでも上質な物を用意させて頂こう」

 今まで休んでいた店長が、立ち上がりカウンター奥のスタッフルームに向かう。

 無理しないでよ? 回復魔法を受けたからといって、まだ本調子じゃ無いんだから。


 そう待つこともなくこちらに戻って来た。

 彼は、カウンター上にいろんな道具を並べる。

 大きいリュックサック、革製水筒、火打石、救急キット、地図、レインコート、折り畳まれた寝袋 等。


 「一応ここは、質屋なんでな。 中古品しか売ってないんだ。

 まあでも、これらは、全部品質は、保たれていると自負しても良い」


 掃除を終え、箒らを返却したエクサキューさんが、ポーチから財布を取り出す。

 「ありがとう。 いくらだ?」

  

 「いやいや、文字通り桁違いの額の小切手を貰っておいて、その上お代まで頂いた日にゃあ申し訳なくなってしまうっ!」


 「弁償代・慰謝料と売買は、別の話さ。

 ここは、素直に受け取ってくれ」

 二人が、払うだのいらないだの問答が、繰り広げられる。 かなり時間が経った後、店長の方が折れた。

 「あぁ、分かったよ。 銀貨一枚と金貨五枚だ」


 それを聞いたエクサキューさんは、財布に指を突っ込んだ。 そして。

 「くっ・・・・・・ぐわああぁあぁあっ!!」

 絶叫しては、床に倒れてのたうち回った!?


 「どうしたんですか、エクサキューさん!!

 ん? 何か団長傍の床に、光をよく反射している硬貨が散らばってて・・・・・・これ銀貨かっ!!」

 銀という貴金属は、聖なる力を持っていると人衆に信じられており、邪気を浄化させる効果を秘めているとされている。 

 

 「すっかり忘れてたあぁああぁっ!

 エクサキューさんが魔物だって事!!

 ってか、手甲越しで触ってこの反応だなんて、どんだけ神聖なモノに弱いんだ。 日常生活まともにおくれねぇだろっ!?」


 「恐らく・・・・・・テンバイヤーの攻撃に、我の聖属性耐性を打ち消す呪詛でも潜ませ・・・・・・しんどいな。

 ハァッハァッ、まぁ、少し休めば回復する。 心配御無用だ」

 あ〜もうとことんやってくれたな、あの副団長。


 エクサキューさんの言葉通りに彼女の身体は、短時間で回復した。

 その間に俺は、彼女の代わりに旅用道具の支払いを済ませる。


 「ふー。 心配かけて済まないな。 それじゃあ」


 「いましたぞ。 テンバイヤー副団長。 ってか、何だこの等身大人形は!? 腕ひしぎ十字固め? メロメ団長の仕業か!?」

 黄金の甲冑を上半身に纏った騎士達が、大通りを駆けてきたのだ。

 彼らは、下半身が馬の体で構成されている。 いわゆるケンタウロスだ。 


 「丁度良いところに。 獣人団の方々。 拘束具は、所持してるか? 話せば長くなるが、テンバイヤー副団長が狼藉を働いた。 彼の連行を頼めるか?」

 エクサキューさんが、彼らに、歩み寄り話しかける。


 「お久しぶりです。 妖精団団長エクサキュー殿。 コンウォル副団長から、話は伺っております。 鎖と手錠を用意して参りました」

 コンウォル副団長って、エクサキューさんとこに所属している人のことか? 


 顎に手を添え、少しばかり長考しているエクサキューさん。

 「話が早くて助かるよ。 では、よろしく頼む」

 彼女の指示通りに彼らは、テンバイヤー副団長の身体をデッサン人形から外し、鎖と手錠で雁字搦めにした。

 彼らの作業は、手間取っていた。 下半身が馬で構成されてるせいか、座ってやる作業が苦手なんすね。


 「やれやれこれで一安心だな。

 後は、獣人団の騎士達に任せれば解決だっ」

 一息つくエクサキューさんに、俺は、 一件落着ですね! と同意した。

 ・・・・・・・・・・・何か、大切な事忘れてる気がするけど気のせいだよねっ!


 質屋の店主に別れの挨拶を済ませ、俺達は、この場を離れる。


 「さて次は、仕立て屋に行って着替え用の服を買うか、それとも小売店で保存食と油瓶でも買おうか」

  

 「エクサキューさん。 差し支えなければ、青果店に寄って良いですか?」


 「おお、いいぞ。 朝食を頂いたばかりとはいえ、慣れない戦闘に参加すれば、腹も減るというのも当然だなっ・・・・・・!」

 あ、いえ違うんですよ・・・・・・腹が減っているのは、俺の方では無く。


 「ブルヒヒーンッ!!」

  

 「や、やめてくれキャニオンっ!!」

 コシュタ・バワーのキャニオンが、主人であるはずのエクサキューさんの鉄靴を何度も前脚の蹄で踏みまくる!


 道中、近くの店まで寄った俺達は、リンゴとニンジンを買い、昨晩泊まった宿屋の近辺まで戻り、今に至る。


 ヒヒーンッ と怒りを露わにするコイツを前に、彼女は、痛みで表情を歪ませて謝罪を繰り返した。

 「今まで忘れて済まなかった・・・・・・!  

 許してくれっ! もうごはんをあげるのを忘れるのは、これで最後にするからっ!」

 ・・・・・・もしかして、エクサキューさんがキャニオンに嫌われてるのは、この様な失態の積み重ねが原因かもな・・・・・・。

 おっと、仲直りさせないと。  

 

 「エクサキューさん。リンゴとニンジンをキャニオンに渡してください」


 「いや、それはできないっ!!

 ソウク殿がキャニオンの朝食を忘れなかったんだ。 不甲斐ない我では無く貴殿がごはんをあげるのが筋というものだろう・・・・・・!?」

 あ〜もうこのクソ真面目の頑固者がっ・・・・・・!


 「俺は、エクサキューさんとキャニオンが仲良くして欲しいと思っているっす。

 結局コイツの手綱を握るのは、俺では無くて貴方でしょう?

 愛馬の信頼関係を回復させないと成功できる旅も成功出来ませんよ!」

 説得を受けた彼女は、渋々ながらリンゴとニンジンを受け取り、キャニオンに食べさせた。  


 すぐにコイツは、踏むのをやめる。 なんとも現金な奴。

 「長い間、駐馬場で君を待たせてしまい、心苦しいが・・・・・・まだ我らは、買い物は、終えて無い。

 悪いがもう少し辛抱してくれ」

 

 満腹になって機嫌が良いのか、エクサキューさんの待機命令に素直に従うキャニオン。


 「さあ、次は仕立て屋に・・・・・・ぐっ!?」

 こちらに振り向いたエクサキューさんは突如屈んで自身のつま先を抑えた!?

 そりゃそうだ。 たった今、馬の強烈な猛攻を一点集中に受けたから。

 「大丈夫ですか!? 回復魔法必要ですか?」


 こちらに手の平を向けて拒否を示す彼女。

 「大丈夫。 すぐに痛みは、引くさ。  

 それとソウク殿。 貴殿が複製した[という事になっている]この魔導書に記されてる魔法は、一種類ごとに一回限りしか発動できないもの。 それも回復魔法に至っては、使えるものがあまり残ってないと聞く。

 こんな些事に乱用しては、いけないぞっ!」  

 確かにそうだけど・・・・・・! でもっ・・・・・・。


 「・・・・・・・・・・・エクサキューさん。  服や食料の調達は、後でいいですか?

 スカウトしましょうよ。 回復魔法を扱える仲間をっ!」

 直接本人に聞いてないけど、テンバイヤー戦を思い出してみるに、エクサキューさんは、回復魔法が使えないと見て良いだろう。

 もちろん俺も虫食ワームブックの空白欄を増やさない限りには、魔法自体が使えない!


 顎に手を添え、軽く考え込むエクサキューさん。

 「確かに魔王城に行くにあたって、メンバーが二人だけとも心許ないな。

 よし、ソウク殿の仰る通りだっ!

 冒険者ギルドに行こうっ! 丁度ここから近いしなっ!」


 「おおっ!? 冒険者ギルド!! 俺、興味あったんですよね!」

 夢や野望を胸に秘めた奴らが、こぞって憧れる組合・・・・・・冒険者ギルド。

 民間人、騎士、そして貴族から発注された依頼クエストを仲介してくれる場所。

 自由を謳歌し、仲間達と肩を組み、エールの味を愛する戦士達の憩いの場でもある。


 一度行ってみたかったんだ。


 「ソウク殿。 人手が欲しい騎士達は、冒険者ギルドに要請して冒険者を臨時で雇うことがよくあるのだよ。

 さあ、行こう」

 早速俺達は、目的地に向かって歩き出した。

 向かう途中、エクサキューさんが、冒険者ギルドについて語る。


 「少し昔、我は例のギルドに赴くことがあった。 その場所について説明しよう。

 ギルドは、二階建ての木骨造建築。 敷地が広く、東側には、小洒落た東屋やオープンテラスもある。

 裏庭には、ちょっとした修練場になっている。

 建物内に入館すれば、吹き抜け構造になっていることがわかる。入り口には、この国では、珍しいウエスタントドアが設置されている。 床は、フローリング。 天井には、吊りランプが等間隔に設置されている。 

 入り口から見て左側には、依頼書が乱雑に貼られてる掲示板があり、右側には、一般客も利用できるフードコートがある。 そうそう、そこで食べたフルーツケーキが絶品でな、是非ソウク殿にも召し上がって欲しいんだ!

 一階左奥には、数人程の受付嬢が働いており、その場所で依頼クエスト受注や相談、素材買取などが執り行われている。

 二階に上がれば、地図・魔導書・図鑑などが収蔵されている資料室があり、その隣の部屋は、ギルド長室だ」


 うわあ〜、エクサキューさんの解説を聴けば聴くほど見学したくなるな〜!


 冒険者ギルドといえば、可愛い受付嬢!

 特に、赤のスーツと黒のタイトスカートの制服を着た巨乳の女の子が良いっ!

 名前は、コウトちゃんっていって、うさぎタイプの獣人で髪型は、ロングで片目にモノクルをはめているのが特徴。


 仲間になってくれそうな回復術師を探しに、俺達は、例のギルドを訪ねて来た。

 席に座っているコウトちゃんがカウンター越しに俺達に挨拶してくる。

 しばらく俺と彼女と楽しく談笑している時に、

  

 ヘイヘイそこのお嬢ちゃん、こんなひ弱そうな小僧よりも俺達と遊ばないかい?


 と、俺達の背後から野太い声が。

 振り返ってみると厳つい格好をした冒険者の三人組が。

 何とそいつらがウザ絡みとしか言いようが無いナンパをしてコウトちゃんを困らせているっ!?

 その事が許せない俺は、


 テメェらみたいな三下に、コウトちゃんとは、釣り合わないぜ? 

 と、俺が、喧嘩をふっかけ、


 何だとこの雑魚がっ!? と挑発に乗る奴ら。


 そして余裕でけちょんけちょんにしてやるのさ!


 華麗な無双劇に他の冒険者は、驚嘆と称賛の嵐!


 まさかパワフルトリオを簡単にノシちまうざ、あの少年は、何者だよ!?


 スカッとしたぜあんちゃん! いつもあいつらの横柄な態度に辟易としていたのさ!


 いえいえあんな奴ら大したことありませんよっ! と、余裕の不敵な笑みを見せた俺に、 助かりました! と抱きついてくるコウトちゃん!

 そして彼女は、ヒソヒソ声で、俺に耳打ちをしやがるんだ・・・・・・。


 とても格好良かったですよ? もしよろしければ、この後食事でも・・・・・・。


 おいおい困るぜ、子うさぎちゃん! 俺は今、エクサキューさんと勇者の旅をしているんだ。

 その上、王城では、ティアさんも俺の事を待っているし・・・・・・。

 もしこんな事がバレちまったら、レディ達に嫉妬されちまうよ・・・・・・。


 「ソウク殿、ソウク殿・・・・・・」


 「え、あ、はい何でひょうかっ!?」


 「驚かせて悪かったな。 ただ、この角を曲がればもうすぐ着くぞ」

 やべー、妄想が捗って、ボーッとしてた・・・・・・噛んで恥ずかしい思いしちゃったよ・・・・・・。


 そして俺達は、そのギルドにたどり着いた。

 正門には、『冒険者ギルド ウルフアジト』の文字が刻まれた吊り看板が装着されている。

 そしてその入り口前に立て看板があった。

 内容は・・・・・・。


 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」



   


 『改装中につき立ち入り禁止』

 


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