勇者パーティーのメンバーに、女剣士がいるのは、なろうあるある
質屋の店主の種族は、ドワーフです。
※ ※ ※
『この国の騎士で、一番尊敬しているのは、誰ですかだって?』
城下町の料理店『ヤミー&デリシャス』のテーブル席にて、ウォンバット先輩が俺と俺の同期であるサバンナ グーラー に突拍子もないことを質問する。
『そうだ。 ヒック。
君達は、まだ王城に入隊してから日も浅いが、憧れてる上司くらいいてもおかしくは、無いだろ?』
パトロールの昼休憩なのに構わずエールを嗜む先輩に冷ややかな視線を送る俺達。
『そうっすね〜、いるっすよ一応』
分厚くて太い牛の骨をバリボリ噛み砕きながら答える同期。
いや、喋りながら食うなよな。
誰なんだ? と問われるサバンナは、ニヤリと口を曲げて答える。
『決まってますよ? 尊敬する騎士は、ウォンバットさん。 貴方です』
『やはりか! 可愛い後輩め。 今回は、奢りだ!』
『嘘偽りありませんっすね? その言葉』
もちろんだ! と断言する彼に対し同期は。
『確かに尊敬してるっすよ、ウォンバット先輩は。 まぁ、3番目なんすけどね。上から数えて。
人間団のメロメ騎士長ですよ。
おいらが一番に尊敬してんのは』
盛大に卓上に額をぶつける先輩。 やめて下さいよ料理が崩れる。
『お、お前・・・・・・』
『おや? 取り消すんすか? 奢りの件は。
嘘は、ついて無いっすよ。一応』
してやったりと調子に乗る同期。
『まぁ、最初から奢るつもりだから安心しろ。
流石に見習い相手に割り勘なんて大人気ないマネしねぇよ。
ところでハスキー。 お前ずっと黙って食べてるけどお前も尊敬する騎士とかいねぇのかい?』
え? 俺? 俺が尊敬する騎士は・・・・・・。
※ ※ ※
テンバイヤーさんか!?
彼は今、騎士の象徴衣装である甲冑を装備しておらず代わりにマントで身を包み、フードを頭部に被っている。
質屋のカウンター上には、敷かれてる白の布に置かれた淡く光を発する水晶の塊が確認できる。
『それ』は、どう見ても礼拝所で目にした天井に咲く水晶と同質のモノだと、素人目の俺でも分かる。
「・・・・・・・・・・・・店主さんのおっしゃる事もごもっともですね。 分かりました。
吾、いえ私は、これにて失礼します(裏声)」
なあなあ、何前日の俺みたいな事やってんだよ・・・・・・。
「お、おい・・・・・・」
店主であるおっさんが困惑しながら声をかけるも、素知らぬ顔でテンバイヤーさんは、水晶の塊を抱え、いそいそと俺達の合間を通ろうとしている。
「待て。 貴殿は、近衛騎士団副騎士長 テンバイヤー ジャポガーディアン殿 であろう。
妖精団団長に挨拶も無しか。
この水晶は、どこで手に入れた?
御説明を頼む」
険しい顔を見せるエクサキューさんが、強引に彼の肩を掴んだ。
一気にこの場の空気が、張り詰める。
実力者同士の睨み合いなんて、生きた心地がしないよ。 汗が止まらない・・・・・・。
彼女に反し、表情を温和な微笑みに変えるテンバイヤーさん。
「これはこれは失礼致しましたエクサキュー殿。
お元気麗しゅう。 久方振りですかな?
隣にいる御仁は、もしかして例の勇者殿? 初めまして、吾輩は、テンバイヤーと申します」
「あ、初めまして(裏声)」
つい、返事してしまった。
「はぐらかすな・・・・・・!
貴殿の売ろうとした水晶は、神官関係者の中でも限られた者しか所持が許されない代物だ。
答えぬというのなら、騎士の権限を行使して貴様を拘束するぞ!!」
毅然とした態度のエクサキューさんにため息ひとつのテンバイヤーさん。
「まずは、落ち着いて話を聞いて下さい。
昨晩ですね、王城に招待された聖女ティアさんから頼まれて、この水晶を預かったんです」
・・・・・・はっ?
「何でもアーミラリー神殿は、財政難で神聖な宝物を売ってでもしないと運営が維持できないとか。
しかし神官や聖女が大っぴらに儀式用の貴重品を売買するわけにもいかない。
ですから代わりに吾輩が質屋に預けてその代金を彼女らに渡そうと、そういう訳なのです」
・・・・・・何嘘ほざいてんだ!?
ティアさんはな、テメェのやらかしのせいで、ドケチ暗君に下手したら消されそうになってたんだぞ!?
「俺、昨晩にティアさんと会話したけど、彼女は、礼拝所の水晶が忽然と消えたと言って泣いていたんだ!!」
だ、そうだ。 他に申し開きは? と言って睨むエクサキューさんにテンバイヤーの嘘つき野郎は、ため息を一つ。
「異世界出身者なら聖女と会って然るべき。 そう考慮しないといけなかったな。ハアッ・・・・・・降参だ。 お縄を頂戴してもよろしいかな?」
あれ? やけに素直に自分の罪を認めるん・・・・・・。
何の脈絡も無く自分の顔面に、重く疾い風圧の感触がした。
「・・・・・・・・・・・・え?」
俺の眼前、至近距離に片刃の剣が現れた!?
しかしその刃は、俺を襲うためのものではなく・・・・・・。
「さすがこの国随一の剣士、不意打ちにも余裕で対処するとは」
テンバイヤーの投げた武器が跳ね返り、重力に従って垂れる。
そう、抜刀したのは、エクサキューさんの方で、俺の顔に迫り来る脅威を防ぐために彼女は、得物を手にしたのだ。
店内に金属音の余韻が広がっていく。
カウンター奥で、店主が腰を抜かしていた。
「近衛騎士団副騎士長 テンバイヤー ジャポガーディアン 参るっ!!」
さて、奴の扱う武器は、フレイルタイプのモーニングスター・・・・・・いわゆる棘付き鎖鉄球。
鉄球自体の大きさは、ゆったりしたマントの中にでも隠せるくらい小さいのだが、重さ自体は、かなりあると見て良いだろう。
初手の攻撃を防がれた奴は、自身の頭上に鉄球を豪快にぶん回す!
「城の備品を盗み、虚偽を並べ、臨戦体制を取ってない者に騙し討ちを働く狼藉者が、騎士と名乗るなっ!!
この魔剣『バイオレンス』の切れ味を特と存分に味わえっ!!」
対してエクサキューさんの方は、左足を半歩退いて、剣の切先を真後ろに向けるよう刀身を左脇の下に構えた!
彼女の言葉を聞いて鼻で嗤うテンバイヤー。
「確か貴方は、嘘や不正が大嫌いでしたな・・・・・・ただ、貴方の知人が嘘に塗れた猿芝居をしている事に気づいてますかな?」
やべ、バレてる!?
「我の知人を愚弄するかっ!?」
二人の武人から放つ殺気を前に、騎士見習いである俺は、固唾を飲む事しかできなかった。
『童子流 本醸 祢祢斬っ!』
俺の全身に爆破と錯覚するほどの風圧と破壊音を浴びたっ!?
つい閉じてしまったまぶたを恐る恐る開ける。
土埃が舞う中、店内の奥の石造壁に巨大な穴ができているのが分かる。
さらに奥、店外の大通りにてテンバイヤーが尻餅をついていた。
攻撃の瞬間は、見えてねえけど、その破壊は、彼女の仕業だと察せれる。
「くっ、いきなり豪快な横薙ぎで吹き飛ばしてきましたな。
しかし初手の攻撃・・・・・・騎士団長にしては、かなり威力が控えめだな。 街中の人的被害を気にして威力を抑えている、と見ていいだろう」
流石副騎士長。 さっきの剣戟見えてたんだ。
何だその説明口調。
ちなみに被っていたフードが外れてるテンバイヤー。 奴の特徴として髪型は、茶髪のツーブロック。 右額には、盾の刺青をしていた。
「ぎゃああぁああっ!?」
質屋の店主は、自分の後頭部を両手で抱えて悶えている。
そりゃそうだよな・・・・・・自分の店が理不尽に壊されたら誰だって叫びたくなるもんな。
幸い、奴の周囲には、人の気配が無い。 巻き添えを受けた人がいなくて良かったよ。
悠々と立ち上がり、心底忌々しそうに服に付いてる土埃と瓦礫の破片を払っている奴に、傷らしい傷は、見えなかった。
「・・・・・・どこだ?」
エクサキューさんを探してるのか?
彼女ならまだ店の中に・・・・・・あれ?
え? さっきまで俺の隣にいたよな?
『天下雲上流 下降 落雷斬』
天井から声が・・・・・・?
唐突にエクサキューさんが、散らばったガラスと共に上から飛び降りてきた!?
そしてテンバイヤーの頭部を狙って、彼女は、落下の勢いを利用するよう思いっきり唐竹割り(面打ち振り下ろし)を繰り出した!!
いつの間に階段で2階に上がってたのか!?
あ〜ガラスの破片を見るに、エクサキューさんが窓を蹴破ったかもねどんまいおじちゃん。
「奇襲を掛けたいなら、まず技名を唱えるのをやめたら如何かね?」
しかし奴も手練れ。 得物である鉄球を自身の頭上に軽く投げて防御する。
攻撃を防がれたエクサキューさんは、何事もなく着地し、すぐに後方に跳んで敵と距離を取る。
しかし追い討ちとばかりに彼女の頭を狙うよう、鉄球を砲丸投げの要領でぶつけようとするテンバイヤー。
放射線を描くよう飛来する鉄塊を、エクサキューさんは、剣でいなすよう弾き落とす・・・・・・え? 鉄球が意思を持つように重力に反して彼女の肩目掛けて猛烈に襲いかかってきたっ!?
なんならその武器に接続している鎖も伸びてるように見えるけど、錯覚だよな?
「同じ城に住んでいながら、貴様の得意な手品を存じ無いとでも?」
流石妖精団団長。 鎖鉄球の軌道先に刃を添えて防いだ。
「その手品も、連続で披露すれば、驚嘆してくれますかな?」
「無駄さ。 タネの割れている手品程つまらないものは、無い。
『イーウァルド流 凶器相槌』
剣を垂直に立てるよう構え直し、屈むエクサキューさん。
奴の鉄球が荒ぶるよう乱撃を続けるも、彼女は、涼しい顔で全て捌ききる!
「ぬぅ・・・・・・防御特化の体勢かっ!」
おっと、観戦に浸ってる場合じゃねえ、俺も援護しねぇと!
自分の腰に差してある魔剣を鞘から抜く。
使用回数は、減るが仕方ねえ。 出し惜しみ出来ない相手だから。
『魔剣カウントっ!』
テンバイヤーに切先を向けて躊躇うことなく素振りを繰り出した・・・・・・!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・不発?
・・・・・・あれ? 奴が倒れる気配がないぞ。 発動まで時間がかかる? いや、ペル公に使った時は、タイムラグなんて無かったはずだ!?
「陛下め、まさか魔王軍から鹵獲した魔剣を初対面の人に下賜していたとは思わなんだ!
いくら野望のためとはいえ、正気を疑いますぞ!?」
「よそ見をするとは、余裕だな?」
あぁあっ!? テンバイヤーがこっちに気づいちまった!! 急がねぇとあのえげつねぇ投擲攻撃を喰らっちまうぞっ!
慌てて何度もその剣を虚空に振るっても、成果は、見えない。 それの刀身の付け根に刻まれてる19の数字も減ることは、無かった。
何故だ・・・・・・はっ!
確かあの暗君は、昨晩に言ったじゃ無いか。
『あらかじめ倒せる相手の対象は、こちらで設定しておいた』って・・・・・・。
今は、犯罪行為をしているが奴は、れっきとした近衛騎士団。 言い方を変えれば、王族や貴族を守護する任務を請け負ったエリート騎士で、国王側からしたら倒されたら困る存在。
そりゃ『カウント』の対象から外れているはずだ。
得物がダメなら魔法だ! 『虫食い本』を脇から引き抜き、矢継ぎ早にページをめくる・・・・・・・・・・・・おっ、これいいじゃん。
時止めの魔法か。
いくらテンバイヤーが隙がなく防御力が高くても完全に動きを止めてしまえば、簡単に拘束できるはずだ!
では、早速。
「時止め魔法『ブレイクダウンオクロック』っ!!」
そう、俺が術名を唱えた瞬間に、全身に受ける感触が一瞬で変わった。
吹く風は無くなり、騒音も消失。
辺りを見渡す・・・・・・時を止めたら光も動かなくなるから視界が闇に染まる、なんて事はなく普通に見える。
舞い落ちる木の葉もこれ以上、下に向かうことなく空中に留まっている。
信じられない話だが、この魔導書の説明によると、この世界全域の時が、止まったらしい。
もちろんその二人も・・・・・・。
『『フォーラ式魔法 薄氷下のわかさぎ!!』』
はあっ!? 何で二人の叫び声が聞こえんだよ!! 何で自由に動けんだよ!?
もしやエクサキューさん達、時間停止対策の魔法を事前に自分に発動してたのか!?
「外様相手に魔剣どころか国宝すら渡すなど、陛下は、やはりご乱心なさっている!
当然無視できる民間人にあらず! まずは、部外者の貴様から叩き潰してくれるわっ!!」
うわっ、あんな超重量武器を革製ボールみたいに軽々しく投げてきたぞアイツ・・・・・・やはり狙いは俺か!!
『シルバースネーク』
その鉄球の鎖のリーチが物理法則を無視して伸びてきた! やはりさっきのは、目の錯覚じゃねえってことだな。
回避? 豪速球すぎて無理っ!?
防御? 素手だろうが剣だろうが防御態勢取った時点で全身複雑骨折コースだっつうの!!
魔法? 今更本をめくって間に合うわけねぇだろっ?!
ってか、もう目と鼻の先まで鉄塊が迫って来てるっ!
頼りになるエクサキューさんの位置は、現在テンバイヤーよりも俺から離れている・・・・・・庇ってもらえるのは、無理か。
あぁっ・・・・・・いろんな人を騙した報いか・・・・・・。
『鞍馬流 走術 一本歯下駄の飛び石渡りっ!」
俺が猛撃に怯えて目を閉じた後のことだ。
すぐにエクサキューさんの技名を、次に金属音を耳にした。
痛みは、無い。 恐る恐る瞼を開ける・・・・・・間に合ったのか!?
俺の前方至近距離に、彼女の頼もしい背中が見えた。 敵の攻撃を剣で防いでいる。
「ぬぅう、己の歩幅を極端に開いて走るスピードを上げる技か」
だから何だよその説明口調は? テンバイヤー。
伸びきった鎖を引っ張って、奴は、鉄球を自分の手元に手繰り寄せた。
「だが、対応できない速度では、無い・・・・・・貴様の太刀筋、そろそろ見切らせてもらうぞ!」
「『十色百彩の剣戟』と謳われた我を前に、太刀筋を見切ると申したのか・・・・・・?
面白いっ! 受けて立つぞっ!!」
脇を引き締め、大又を開き、剣の切先を正面に向けるエクサキューさん。
時間が停止したこの世界で、再び静かに見合う二人。 俺が生唾を飲むのも、二回目だ。
「いざ参るっ!!
『童子流 大吟醸 酒呑金棒』っ!!」
今回もエクサキューさんから仕掛けた!
剣を高く掲げて標的めがけて力強く突進したのだ。
「いちいち技名を仰らないと攻撃もできないのか貴方はっ!!」
テンバイヤーは、自身の真横、垂直に鉄球を激しく回した後、容赦なく彼女の頭部を狙って投げる!
対して滑らかな動きで余裕に回避する彼女。
急いで武器を手元に戻す奴。
お互い瞬発力が優れていて、俺の目じゃ、彼女らの動きを捉えられないっ!
しかし、経験不足の俺でもわかる・・・・・・瞬きを一回するよりも早く決着がつくことを!!
「しまった・・・・・・っ!?」
エクサキューさんが驚嘆した。
何故? 何で・・・・・・。
「ふはははっ! かねがね噂で貴方は、ドジだと伺っていたが、まさかこんな土壇場でそれを披露するとは・・・・・・運も尽きたようだなっ!!」
何でこのタイミングで、瓦礫につまづいて倒れて、そして頭と身体が離れているんだよっ!?
格好の的になってんじゃねえかっ!!
「まずいっ! 早く頭部を拾わないとっ・・・・・・!」
うわっ急いでよっ!! もうテンバイヤーは、エクサキューさんの至近距離に辿り着いてんだぞっ!!
あぁっ!! 奴が鉄球を高らかに振り上げて、そして振り下ろそうとしているっ!!
「エクサキュー殿。御覚悟ぉっ!!
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」
・・・・・・・・・・・・はっ?
「ふっ、油断したな」
驚いた。 テンバイヤーが、エクサキューさんの元に限界まで近寄ったタイミングで、彼女は、頭を拾う動作をやめて屈んだ状態で奴の胴体に左斬り上げをお見舞いしたんだ。
裂傷と口から微かに血を流し、膝をついたテンバイヤー。
斬撃を受けてしまった彼は、はずみで得物であるモーニングスターを放り投げてしまっている。
「な・・・・・・まさか、演技?」
エクサキューさんは、自分の頭を拾って胴部と接続し、答える。
「ああ、闇討ちや不意打ちに特化した流派『ファントムアサシン』の型の一つ、『デュラハンズヘッド』だ」
「貴方・・・・・・騙し討ちを嫌っていたんじゃ・・・・・・?」
「臨戦体勢を取ってない相手や非戦闘員を狙うのは、御免被るが、戦闘状態の外道相手には、謀略は、有りだと思っている」
「いや流石っすね、エクサキューさんっ!!」
『カウント』を鞘に納め、喜びを隠さずに俺は、頼れる仲間の元へと小走りした。
「流石に副騎士長の相手は、一筋縄では、いかなかった・・・・・・!」
「怪我は、どこにも無いですよね?」
「ああ、この通り無傷で・・・・・・・・・・・・うん?」
な、何で・・・・・・。
何でいきなりエクサキューさんの口から鮮血が溢れたんだよっ!?
ま、まさかっ・・・・・・!
慌ててこの傷を恐らく生み出したであろう下手人の方へと向く。
俺の目の前には、息を乱しながらもニヤけながら彼女に向かって手の平を伸ばす男がいた。
そして奴にあったはずの胴部の傷が消失していたんだ!
『秘技 ロールセールっ!!』
「やっぱりテメェかっ!! 自分が受けた傷をエクサキューさんに押し付けたなっ!」
「御名答。流石に疲労やダメージそのものは、譲渡出来ぬが。
本来は、賊に襲撃された王侯貴族の怪我や毒を自身に肩代わりさせるために開発された術なのだが、こういう流用もできるのだよ」
「・・・・・・・・・・・・まさか、ネネぎりなんちゃらをテメェが喰らった時も、質屋のおっちゃんに自分の傷を押し付けてたのかっ!?」
俺の怒号の問いに、テンバイヤーは、面倒くさそうな表情を見せる。
息も絶え絶えで、明らかに弱って震えているエクサキューさんが代わりに答えたのだ。 無理しないで。
「店主の気配を探ったが、確かにソウク殿の申し上げるとおりに、頭から血を流している。
しかし時間停止の影響を受けている間だけ、彼が死ぬことは、無いだろう・・・・・・!
そして、何としても彼奴を一撃で倒さなければ、また誰かに怪我を押し付けられてしまう」
チクショオッ、やるしかねぇのかっ!!
「ソウク殿っ・・・・・・!?」
俺の近くに落ちてある奴のモーニングスターの鎖を拾い上げ、それを勢いよく振り回しながら奴に狙いを定める。
・・・・・・くぅっ、やっぱりめちゃくちゃ重いじゃねえかこれ。 俺が普段使ってる自前の物とは、別の材質で造られているな?
エクサキューさんは、こんな鉄塊を一振りの剣だけで防いでいたのか!?
「テンバイヤーっ!!
テメェは、近衛騎士団の、それも副騎士長だろ!?
何で護るべき市民を、背中を預けている仲間を傷つけるんだっ!?」
歯軋りするテンバイヤー。
「部外者が知った様な口を聞くな!!」
「いいや、知った様な口を言い切ってやるね!
あんたは昔、異世界人を無事地球まで護衛した!
近衛騎士団に入団する事を王から拝命された後も驕る事なく騎士道を貫いたっ!
そしてどっかの騎士見習いからもちゃんとしっかり尊敬されてたんだっ!!」
地球という単語を聞いた奴は、何かを思い出し、少し顔を曇らせた。
「ふんっ! 説得のつもりか知らんが無駄だ。
それにっ!! 貴方は、アホか? 気でも動転したか?
吾輩は、鎖を自在に操れる。
武器を奪った程度で無力化できるとでも・・・・・・?
全く強力な魔法を発動した方が、些か勝ち筋があったと思うがね」
あぁっ、その通りだクソッタレッ!
危機的状況なのに焦って、つい[使い慣れてる]武器を選んでしまった。
だが、操られる前にアンタを止めるっ!!
俺は、全力全身全霊で思いっきりそのモーニングスターを奴の頭めがけて振り下ろすっ!!
「無駄だっ!!
その鉄球ごと鎖を操って、貴方の脳天をかち割ってや・・・・・・」
何だ? 実力者であるアイツが、俺の攻撃に対処しようとしてない・・・・・・・・・・・・奴は、何をするでも無く驚いたまま立ち尽くしている。
「この鉄球の扱い方は・・・・・・・・・・・・貴方は、君は、ハスキーか?」
痛々しく激しい衝撃音がこの場一帯を支配した。
防がれるはずだった一撃が、見事命中したのだ。
奴は、額から少しだけ血を流し、白目を剥いてひっくり返り、石畳の上で仰向けの状態で気絶したのだった。
まさか末端の騎士見習いの自主練を覚えてくれてたのか?
だから未だに、幻滅できないでいる。
・・・・・・何だかんだで俺は、尊敬してますよ。
テンバイヤーさん。
『フォーラ式魔法』は、魔法の適性が僅かにでもあれば、簡単に習得できる初級魔法です。
つまり作中に登場する大半の魔導士は、時間停止能力などは、効きません。